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【自閉症児の心の理論への支援について】ESDMの視点から考える

投稿日:2023年5月9日 更新日:

「〝心の理論″とは、他者の意図、欲求、願望、信念、知識といった心の状態を推論する能力」のことを言います。

自閉症(自閉症スペクトラム障害:ASD)の人たちは、心の理論の獲得に困難さがあると言われています。

一方、言語力を高めることで心の読み取りの力が高まるとも言われています。

 

それでは、言語力を高めるという視点以外に(視点も含め)、自閉症児の心を読み取る力を支援する方法はあるのでしょうか?

 

そこで、今回は、自閉症児の心の理論への支援について、ESDMの視点から考えを深めていきたいと思います。

 

 

今回参照する資料は「子安増生(編)(2016)「心の理論」から学ぶ発達の基礎-教育・保育・自閉症理解への道-.ミネルヴァ書房.」です。

 

 

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ESDMとは何か?

以下、著書を引用しながら見ていきます。

言語以外の要因として社会的動機づけが考えられるだろう。近年、自閉症の療育法として世界的に注目されているアーリー・スタート・デンバー・モデル(The early start Dever Model;ESDM)などの非常に早い時期からの社会的動機づけ理論に基づく療育によって、潜在的心の理論の獲得も促進される可能性がある。

 

著書の内容から、ESDM(The early start Dever Model)は、社会的動機づけ理論のことを指し、ESDMによる早期の療育によって潜在的な心の理論の獲得にもポジティブな影響を与えると考えられています。

このように、自閉症児の心の読み取り力を高めるためには、言語力以外にも社会的動機づけ、つまり、人に注意や興味が湧くような支援(社会的動機づけ)が大切だと考えられています。

これまでの研究により、知的に遅れのない自閉症児は、言語力の発達により心の理論を9歳頃に獲得することが分かっています。

9歳とは、実年齢とは異なり言語発達年齢のことを指します。

つまり、言語力が高まることで、他者の心の状態を論理的に推論できるようになると言われています。

一方で、人は直感的に他者の心が分かるという〝直感的心理化″も心の読み取りには必要です。

ESDMを取り入れることで、他者の心を直感的に理解する力も高まる可能性があります。この点については、まだ研究途上だと考えられています。

 

 

著者のコメント

著者はこれまで療育現場で多くの自閉症児と関わってきています。

療育現場では、スキンシップや身体を使った遊び、そして、子どもたちの興味関心を介して大人との関わりが深まったという経験は多くあります。

興味関心の内容も非常に膨大で、例えば、ミニカー並べ、風船遊び、様々な絵本の読み聞かせ、ブロック遊びなどはよくやった遊びです。

このように何か物を介して大人との関わりを深めていくことで、自然と大人が見せる行動に注意を向ける様子が増えていったことを思い出します。

物を介して子どもたちとの関係を深めていくためには、やはり、子どもたち一人ひとりの興味関心を把握していくことが重要だと思います。

また、子どもたちの興味関心はその時のブームもありますので、変化していくということも抑えておく必要があると思います(中には同じ興味関心に没頭し続ける子もいます)。

また、身体を使った遊びは、大人が直接必要になる場面が多くあるため、自然と大人と遊びたいという社会的動機づけが高まるものだったように感じます。

例えば、ジャンプごっこ、トランポリンなどは大人に持ち上げられることに喜びを感じる子どもも多くおり、繰り返し遊ぶことで自然と大人への安心感や大人と一緒に遊びたいという思いが高まったように思います。

 

以上見てきた著者の経験は、子どもたちの社会的動機づけを引き出すものとなっていたと思いますが、こうした関わりの多さがその後の心の読み取りにどのような影響を及ぼしているのかはまだわからない点が多くあると思います。

一方で、子どもたちと興味関心を通した関わり、身体を使った遊びを通して著者は漠然とではありますが、子どもたちと心が通じ合っていると感じる機会が増えていったことも事実としてあるように思います。

そのため、現在に至っても、社会的動機づけの視点は療育を行う上で非常に大切なものだと考えています。

 

 


以上、【自閉症児の心の理論への支援について】ESDMの視点から考えるについて見てきました。

人と人とが心が通じ合う、そして、他者の心の状態が理解できるようになるためには、言葉の発達と共に、情動的コミュニケーションの積み重ねが大切だと思います。

情動的コミュニケーションとは、喜怒哀楽など原初的な感情を大人と子ども間でやり取りすることです。

日々の情動的コミュニケーションの積み重ねが、社会的動機づけを高め、後の心の理論の獲得にポジティブな影響を与えるのだと思います。

私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も療育現場で子どもたちとの関わりを通して、社会的動機づけを高めていけるような関わり方を実践していきたいと思います。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

 

 

関連記事:「【自閉症児の心の読み取りはどこまで可能か?】研究知見から限界と可能性について考える

関連記事:「コミュニケーション構造の両義性について-象徴的コミュニケーションと情動的コミュニケーション-

 

子安増生(編)(2016)「心の理論」から学ぶ発達の基礎-教育・保育・自閉症理解への道-.ミネルヴァ書房.

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