自閉症における心の理論の困難さは、一般的に「他者の気持ちを理解しにくいこと」として説明されることが多いテーマです。
しかし、この理解をより深めるためには、「どの側面の心を扱っているのか」という視点が重要になります。
心の理論が主に扱うのは、信念や意図といった「認知的な心」です。一方で、実際の対人場面では、感情の共有や共感といった「情動的な心」も大きな役割を果たしています。
この2つの側面の違いに目を向けることで、「理解しているはずなのにどこか通じ合えない」と感じる背景が見えてきます。
本記事では、認知的な心と情動的な心という視点から、自閉症における心の理論の困難さについて整理していきます。
※この記事は、臨床発達心理士として10年以上療育現場に携わり、修士号(教育学・心理学)を有する筆者が執筆しています。
今回参照する資料は「子安増生(編)(2016)「心の理論」から学ぶ発達の基礎-教育・保育・自閉症理解への道-.ミネルヴァ書房.」です。
【自閉症の心の理論】認知的な心と情動的な心の違いから困難さを理解する
それではまずは、1.認知的な心について、見ていきながら、次に、2.情動的な心について、見ていくことで、自閉症の心の理論の困難さの特徴について見ていきます。
認知的な心について
以下、著書を引用しながら見ていきます。
心の理論(theory of mind)は本来その用語が示すように、認知的な心(mind)を扱うものである。
著書にあるように、〝誤信念課題″に見られる心の理論の獲得は〝認知的な心″を扱っていると考えられています。
認知とは物事を知る働きを指しますが、自閉症の人たちは、他者の心の状態を読み取る際に、○○の時は○○といった意図が働いている、○○の時は○○の心情を抱いているなど、言語的にロジックに他者の心を推論していると言われています。
つまり、心の理論課題に通過した自閉症の人たちは、〝認知的な心″といった視点から他者の心の状態を読み取っている傾向が強いことが考えられます。
情動的な心について
以下、著書を引用しながら見ていきます。
一方実際の生活では、認知的な心だけでなく、相手が自分の言動を嫌がっている、あることを考えて嬉しいと思っているという、情動(emotion)を伴った心を理解する場面が少なくない。
自閉症児者とかかわる際に、何か通じ合えない違和感を持つことの多くは、この情動的な心における通じ合えなさに拠っているのである。
著書の内容から、自閉症児者が持つ心の理論の困難さは、特に〝情動的な心″によって現れると考えられています。
情動とは、例えば、Aさんが嬉しい感情を抱いた際に、Bさんにもその気持ちが言語を介せずにも通底する、通じあうといった特徴があります。
自閉症の人たちは、他者との情動の共有がうまくできない所があります。
そのため、他者の心の理解においても、認知的な心を通して推論するなど定型発達の人とは異なる情報処理をしていると考えられています。
著者の経験談
著者はこれまで様々な自閉症の人たちと療育現場を中心とした関わりがあります。
自閉症の人たちに共通する特徴として、情動の共有にどこか違和感を持つことが多くあるといったことが上げられます。
例えば、ある遊びを一緒にしていても、興味のある部分が独特なため、著者の方がその興味のある部分を把握していき寄り添う姿勢を持たないと、遊びを通しての情動の共有が難しくなってしまうことがあります。
また、成人の自閉症の人の中には、何となく著者が○○して欲しいといった言葉にできない思いを持っていても、その状況を踏まえた著者の表情などの様子から予測して動くということが少ないと感じます。そのため、しっかりと言葉にして伝えていく必要があります。
これらのケースに共通するのは、自閉症の人たちは、〝情動的な心″の読み取りが苦手であるということです。
そのため、特に子どもの場合であれば、関わり手が彼らの特性を理解し、興味関心を通しての情動の共有を意識的に作っていく必要があります。
また、成人の方の場合だと、可能な限り可視化していくということが必要です。例えば、曖昧な人の心の状態について、できるだけ言語化し、さらには○○して欲しいなどの要望も具体化して伝えていく必要があります。
このように、自閉症の人たちは、著者の経験からも〝情動的な心″の読み取りが苦手であるため、興味関心を通した情動の共有を基盤としながらも、認知的な心の発達が進んでいる人の場合には、可能なかぎり他者の心の状態を言葉にしていくことが大切な関わり方だと思います。
認知的な心の発達の支援においておすすめ記事はこちらで紹介しています:関連記事:「【自閉症の心の理論支援】重要な2つのポイント―視点取得と心のつながりの理解―」
以上、【自閉症の心の理論】認知的な心と情動的な心の違いから困難さを理解するについて見てきました。
振り返って見ると、心の理論に通過した(心の理論を獲得した)といっても、心の理論をはかる指標は人の心の状態の一部分である可能性が高いということを考えさせれます。
そのため、情動的な心も含めて、心の理論を考えていくことがとても大切であると感じます。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も心の理論についての理解を深めていきながら、その知見を療育現場で関わる子どもたちの理解へと繋げ、より良い実践を行っていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
心の理論に関するお勧め書籍は以下で紹介しています。
関連記事:「【臨床発達心理士が厳選】心の理論に関するおすすめ本:初級~中級者向け」
子安増生(編)(2016)「心の理論」から学ぶ発達の基礎-教育・保育・自閉症理解への道-.ミネルヴァ書房.


コメント