自閉症(自閉症スペクトラム障害:ASD)は、対人・コミュニケーションの困難さとこだわりを主な特徴としています。
ADHD(注意欠如多動性障害)は、多動性・衝動性・不注意を主な特徴としており、多動性・衝動性が強くでるタイプや、不注意が強くでるタイプ、両者の特徴を合わせもつ混合タイプなどがあります。
こうして特徴だけを取り上げると、ASDとADHDは一見全く別の特徴を示しているようにも見えます。
著者もASDとADHDなどの発達特性を学びはじめた当時はそのように全く異なる特徴だと思っていました。
しかし、著者の周囲でこうした発達特性のある人(子どもや成人の方)を見ていると、似たような特徴に見えることがあります。
中には、ASDの診断を受けていながら、ADHDではないか?と思うこともありますし、その逆もあります。
もちろん、発達特性は重複しているケースも多いのでもともと両者の特徴を持っており、生活の中で発達過程の中である特性が強く出ているということもあります。
関連記事:「発達障害の重複(併存)について-療育経験から理解と支援について考える-」
それでは、ASDとADHDの違いは一体どこで見分けるのでしょうか?
今回は、医学的な見地から、ASDとADHDの違いを見分けるポイントについてお伝えします。
両者の違いを見分けることで、より良い発達理解と発達支援に繋がると思います。
今回参照する資料は、「岩波明(2017)発達障害.文春新書.」です。
ASDの対人・コミュニケーションの困難さから考える
最初に違いを見分けるポイントで頭に思い浮かぶのは、ASDの主な特徴の一つである、対人・コミュニケーションの困難さからの違いになります。
ADHDはもともと持っている行動力などから、友人関係がむしろ広いという方もいます。不注意有意な方でも、対人関係そのものは苦手ではないという方も多いかと思います。
また、ADHDは他者の気持ちの読み取りそのものは苦手でないといった特徴もあります。
著者の周囲にもADHDの方がいますが、対人関係が苦手といった印象は見受けられません(他の要因で苦手というパターンはあるかもしれませんが)。
それでは、ASDの対人・コミュニケーションの困難さはADHDとの違いを見分けるものになるのでしょうか?
以下に著書を引用します。
ASDの特徴である「対人関係、コミュニケーションの障害」(他人の気持ちが理解できない、場の空気が読めないなど)は、ADHDと区別する鑑別点にはならないことが多い。
著書の中でも、このASDとADHDの両者を見分けることが難しいと述べており、必ずしもASDの対人・コミュニケーションの障害がADHDと違いを見分けるものになるとは限らないと記載されています。
その理由が以下です(以下、引用)。
ADHDは対人関係は元来良好であることが多いが、思春期以降において対人関係が悪化することがまれではないからだ。彼らは、児童期から思春期にかけて対人関係のおける失敗を繰り返すうちに、次第に他人と交流することに不安が強くなり孤立するケースが見られる。
著書の中から言えることは、ASDは幼少期から対人・コミュニケーションの問題を抱えているが、ADHDは思春期以降に対人関係上の失敗体験により、周囲と関わりが苦手になるケースがあるということです。
つまり、ある程度年齢がいくと、発達経過に伴う二次的な要因などから、ADHDにも対人・コミュニケーションの問題が生じるケースがあるということになります。
それでは、次に、ASDのもう一つの特徴である「こだわり」から考えていきます。
ASDのこだわりから考える
以下に再び著書を引用します。
ASDとADHDを区別するには、むしろ「同一性へのこだわり(常同性)」が鑑別点として重要である。ASDでは、特定の対象に対して強い興味を示したり、反復的で機械的な動作(手や指をぱたぱたさせたりねじ曲げる、など)がみられるが、このような症状はADHDではまれである。
著者から、ASDとADHDの違いを見分けるポイントは「こだわり」ということになります。こだわりとは、何か特定の対象への強い興味関心や手順やルールなどへの固執、手をひらひらさせるなどの常同行動などがあります。
関連記事:「自閉症のこだわり-こだわりの強さとその対象について考える-」
こうした、こだわり行動は、ADHDにはほとんど見られないため(重複ケースは除く)、両者を見分ける上で重要なポイントになります。
著者の周囲のADHDの方を見ても確かに、こだわり行動がとても強く出ている方は少ない印象です。
そのため、両者を見分けるためには、こだわり行動に着目することが重要だと感じます。
以上がASDとADHDの違いを見分けるポイントになります。
重要な点は、こだわり行動が違いを見分けるポイントとなることと、ADHDは発達経過に伴いASDの対人・コミュニケーションの困難さと似た状態を見せることがあるということです。
著者は、これまで療育現場で様々な発達特性のある子どもや成人の方と関わってきました。
その中で、大切だと感じるのは、特性をしっかりと理解しその特性に対する配慮だと感じています。
こうした特性への理解がズレてしまうと、支援が進まないということが起こります。
そして、特性によって生活上どのような点に困難さが生じているのかといった生活のアセスメントや、これまでの発達経過の中でどのように特性と付き合ってきたのかという発達的視点をもつことがとても重要かと思います。
今後も、発達特性の理解をさらに深めていきながら、より良い支援を目指していきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
岩波明(2017)発達障害.文春新書.