発達理解・発達支援・ブログ

人間の多様な理解と支援を目指して!

ADHD ASD 知的障害 自閉症 違い

ASDとADHDとIDの本質的な違いについて考える

投稿日:2022年12月16日 更新日:

ASD(自閉症スペクトラム障害)・ADHD(注意欠如多動性障害)・ID(知的障害)は、DSM-5によると全て神経発達障害の中に含まれています。

これら3つの発達障害はお互いに重なり合うなど、併存している割合も高いと言われています。

 

それでは、ASDとADHD、そして、IDの3つの発達特性を一言で表現するとどのような違いがあるのでしょうか?

 

そこで、今回は、ASDとADHDとIDの本質的な違いについて、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら考えを深めていきたいと思います。

 

 

今回参照する資料は「岩波明(監修)小野和哉・林寧哲・柏涼ほか(2020)おとなの発達障害 診断・治療・支援の最前線.光文社新書.」です。

 

 

スポンサーリンク

ASDとADHDとIDの本質的な違いについて

以下、著書を引用しながら3つの違いについて見ていきます。

知的障害(中略)とは「認識の発達」の遅れであって、ASDは「関係の発達」の遅れである(中略)そこに「自己制御の発達」という第3の軸を加え、これがうまくできないのがADHDだとした

 

著書の内容から、知的障害は、「認識の発達」の遅れ、ASDは「関係の発達」の遅れ、ADHDは「自己制御の発達」の遅れ、という本質的な違いが見えてきます。

もちろん、これら3つは単独で発症するケースから、3つ全てが併存していることもあります。

ここでは、単独のケースとして話を進めていきたいと思います。

 

 


それでは次に、以上3つの発達障害について著者の療育経験も踏まえて見ていきます。

 

著者の経験談

 

1.ID(知的障害)について

知的障害の子どもたちは全体的な発達がゆっくりであるという印象があります。

この場合の発達の内容を詳細に見ていくと、運動発達、認知発達、言語発達、社会・情動発達といった様々な面に影響が出ているように感じます。

知的障害の症状の中核は、「認識の発達」の遅れでした。

「認識の発達」の遅れとは、物事を理解する遅れとも言い換えられると思います。

外界の世界の理解が遅れるということは、言葉の発達や人との関わり方などの社会性の遅れ、自分の気持ちを言葉にしたり制御する情動発達の遅れ、そして、運動発達にも少なからず影響してきます。

実際に著者が見ている知的障害のある子どもの多くは、上記にある様々な発達がゆっくりであるという印象を受けます。

もちろん、個人差はありますが、どこか一つだけ突出しているなど偏りがあるというよりも、全般的な遅れという感じがあります。

 

 

2.ASD(自閉症スペクトラム障害)について

ASDは「関係の発達」の遅れです。

これは療育現場でも非常に実感することがあります。

例えば、本や図鑑などに記載がある様々な用語の意味は詳しくスラスラと説明するなど言語性が高い子どもや、パズルや折り紙が得意など動作性が高い子どももいます。

一方で、集団活動で他者に合わせながら動くこと、他者が言っている話の意図をつかむことが難しい様子(一方的なものの見方や暗黙のルールが理解できないなど)が多くみられます。

このように、先に述べたIDと比べると、全般的な発達が遅れているという印象ではなく、関係の発達の遅れが顕著に目立つといった感じを受けます。

関係の発達に必要なものとして、共同注意行動(同じ対象に視線をおくる行動)、模倣(人の真似をする)、ごっこ遊び、心の理論の獲得(他者の行動の背景にある心情や意図を読み取る)など様々な発達が必要になります。

これらは、他者の視点を獲得していくものと言い換えてもよいかと思います。

 

 

3.ADHD(注意欠如多動性障害)について

ADHDは「自己制御の発達」の遅れです。

自己制御とは、例えば、必要な情報に注意を向け・維持する、今考えるべき(やるべき)ことに思考や行動を集中する、計画を立てて物事を進めること(時間管理など)があります。

ADHDの子どもたちを見ていると、注意散漫な様子(気になる・興味のある方にすぐに注意が向く)や、頭の中も忙しく目まぐるしく思考内容がとぶといった印象、そして、計画を立てても直ぐに忘れてしまう(そもそも立てることが苦手)などの特徴があるように感じます。

しかし、理解する力はあるため、周囲から誤解を招いてしまうことがよくあります。

また、感情の変化も激しいため、時にはマイナス感情を爆発させてしまうこともあります。

こうした行動は周囲から見ると、誤解をエスカレートさせることに繋がってしまうことがあるように思います。

こうした行動は、本人からすると、わかっていてもやめられない行動、理解していてもやってしまう行動から、改めて自己制御の問題だということが実感できます。

 

 


以上、ASDとADHDとIDの本質的な違いについて考えるについて見てきました。

実際に療育現場にいると、どの特性が該当しているのかがわからなくなることがあります。

一方で、様々な発達障害(発達特性)を学びながら、現場での経験を踏まえて考えていくことで、少しずつ本質的な理解が可能になるように思います。

私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後もより良い発達理解と発達支援を目指して現場での経験と知識からの学びを大切にしていきたいと思います。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

 

関連記事:「神経発達症/神経発達障害とは何か?

関連記事:「ASDとADHDの違いについて【医学的見地から考える】

 

岩波明(監修)小野和哉・林寧哲・柏涼ほか(2020)おとなの発達障害 診断・治療・支援の最前線.光文社新書.

スポンサーリンク

-ADHD, ASD, 知的障害, 自閉症, 違い

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

【自閉症児への支援】興味の世界を広げるために大切な関わり方

自閉症(自閉スペクトラム症:ASD)の人たちは、興味関心が狭いことが特徴としてあります。 そのため、彼らの世界を広げることは難しい場合があります。 著者は療育現場で自閉症児との関わりは多くあり、確かに …

【自閉症児の人間関係の育て方における注意点】療育経験を通して考える

自閉症(自閉スペクトラム症:ASD)とは、〝社会性の障害″〝コミュニケーションの障害″〝こだわり行動″を特徴とする発達障害です。 著者は長年、療育現場で未就学児から小学生を対象に療育をしてきています。 …

【知的障害児への支援で大切なこと】療育経験を通し考える

〝知的障害(ID)″とは、知的水準が全体的な発達よりも低く、かつ、社会適応上問題がある状態のことを言います。 最近では、知的水準よりも〝適応状態″に目が向けられるようになってきています。 知的障害児へ …

自閉症の感覚:感覚探求と低登録について考える

療育現場で子どもたちと関わっていると様々な感覚の特徴を見ることがあります。 感覚過敏は聞きなれた用語かもしれませんが、感覚探求・低登録・感覚回避などはあまり聞いたことがない方も多いかと思います。 自閉 …

【心の理解の2種類の処理について】自閉症児者と定型発達児者との比較から考える

「〝心の理論″とは、他者の意図、欲求、願望、信念、知識といった心の状態を推論する能力」のことを言います。 自閉症(自閉症スペクトラム障害:ASD)の人たちは、心の理論の獲得に困難さがあると言われていま …