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【知的障害児の対応で大切なこと】療育経験を通して〝ゆっくり″な発達について考える

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知的障害(ID)とは、知的水準が全体的な発達よりも低く、かつ、社会適応上問題がある状態のことを言います。

最近では、知的水準よりも適応状態に目が向けられるようになってきています。

著者の療育現場にも知的障害の子どもたちがたくさんいます。

中には、ASDなどの発達障害と〝重複″しているケースもよく見られます。

また、〝境界知能″領域の子どもたちもいます。

療育現場で知的障害の子どもたちを見ていると、知的能力や適応能力は個々によって多様だと感じます。

 

それでは、知的障害のある子どもに対して、全般的な対応として何を大切にしていけば良いのでしょうか?

 

そこで、今回は、知的障害児の対応で大切なことについて、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら、知的障害児の〝ゆっくり″な発達について理解を深めていきたいと思います。

 

 

今回参照する資料は、「本田秀夫(2024)知的障害と発達障害の子どもたち.SB新書.」です。

 

 

知的障害児の対応で大切なこと:〝ゆっくり″な発達について

以下、著書を引用しながら見ていきます。

子どもに知的障害がある場合、その子の「ゆっくり」ペースに合わせて暮らしたり、教えたりすれば、基本的には大きな問題は起こりません。

 

子どもの発達がどのように「ゆっくり」なのか、どれぐらい「ゆっくり」なのかを理解して、それに即したプランを立てていく。これが知的障害の子育ての基本です。

 

著書の内容から、知的障害児の対応で大切なことは、知的障害のある子どもの〝ゆっくり″な発達を理解して、それに対して計画を立てていくことです。

つまり、定型発達児と同じ発達水準に目標を設定するのではなく、そもそも知的障害児は発達が〝ゆっくり″であるといった前提に立ち、高めの目標を設けるのではなく、〝ゆっくり″な育ちの中で、着実にできることを増やしていけるような目標設定と、それに対する関わり方が必要になってきます。

一方で、今回は詳しくは記載しませんが、〝発達障害″は発達の〝質(アンバランス)″の状態を指し、それに対して〝知的障害″は発達の〝速度(ゆっくり)″といったキーワードを抑えておくことが大切だと著書には記載されています。

ここでいう発達障害とは、知的障害を除いたASDやADHD、SLDを指します。

 

 


それでは、次に、以上の内容を踏まえて、療育現場での著者の経験談をもとに、知的障害児への対応について大切なことを述べていきます。

 

著者の経験談

繰り返しになりますが、知的障害児への対応で大切なことは、〝ゆっくり″な発達を理解すること、そして、高めの目標を設定しないことにあります。

著者はこれまで多くの知的障害のある子どもたちと関わってきました。

この中での経験から、〝ゆっくり″な発達を理解する機会と、その中で、〝低めの目標を設定″する必要性を実感することができました。

 

発達には様々な要素があります。

大きくは、運動、認知、言語、社会性、情動です。それに加えて、心の育ちもあります。

以上の5領域の特徴の遅れとして以下のような特徴があります。

運動機能でいえば、歩行開始の時期の遅れなど粗大運動の発達の遅れ、そして、手指を使う動作の発達の遅れなど微細運動の発達がゆっくりであるなどの特徴があります。

認知機能でいえば、物事を理解する力の発達がゆっくりであるため、例えば、様々な情報処理の力が学年相応にはうまくいかないなどの特徴があります(特に、抽象的な理解が難しと感じます)。

言語機能でいえば、発語の遅れ、言葉の理解の遅れなど、コミュニケーション能力の発達がゆっくりであるなどの特徴があります。

社会性でいえば、他者の心の状態の理解についての発達の遅れや、他者に合わせる力の遅れなど、他者と共同で物事に取り組む力の発達がゆっくりであるなどの特徴があります。

情動でいえば、自分の様々な感情への気づきやイライラ感をうまく調整する力、つまり、自己の感情状態の理解や自己コントロール力の発達がゆっくりであるなどの特徴があります。

こられの領域は、単独で発達していくわけではなく、相互に関連性を持ちながら発達していきます(発達の機能間連関)。

これらの〝ゆっくり″な発達の特徴には、子どもが安心できる環境の中で、適切な関わり方をしていくことで(発達の最近接領域に基づいた足場づくりなど)、着実にその能力は伸びていくと感じています。

その一方で、個人差が激しく、高次の脳の情報処理の段階にまで達することは難しいと思います。

そのため、〝高めの目標を設定しない″ことが大切だと思います。

以前、著者が関わることのあった知的に遅れのある方の中で、目標を高く設定してしまったことが原因となり、不適応状態が長く続いてしまった方がいました。

不適応状態が改善に向かい始めた要因は、〝目標設定を下げたこと″にあります。

目標が自分の発達水準に合うようになったことで、この方にとって焦らず安心して物事に取り組めるようになったのだと思います。

 

 


以上、【知的障害児の対応で大切なこと】療育経験を通して〝ゆっくり″な発達について考えるについて見てきました。

現代社会は個人の能力を高めることに重きが置かれる風潮があると思います。

もちろん、中には、自己の能力を最大限成長させ、その力を存分に発揮するために〝高い目標を設定″することで、うまくいく人たちもいます。

一方で、〝知的障害″のある人たちは知的機能に制約があるため、〝低めの目標を設定″していく中で、〝ゆっくり″な発達(育ち)をしっかりと周囲が受け止める環境が大切だと思います。

私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も療育現場で関わる知的障害のある子どもたちが安心して活動でき、自己の力をゆっくりと着実に高めていけるような関わり方をしていきたいと思います。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

 

 

関連記事:「発達障害とは何か?知的障害との違いは何か?

関連記事:「知的障害のある子とそうでない子の特徴の違いと支援方法について

 

本田秀夫(2024)知的障害と発達障害の子どもたち.SB新書.

-対応, 療育, 知的障害

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