発達障害の中でも、自閉症(自閉スペクトラム症:ASD)の人たちは〝感覚の問題″が多く見られると言われています。
また、自閉症には、〝こだわり″行動が特徴としてあります。
例えば、スケジュールがいつもと同じ、帰り道がいつもと同じ、手順ややり方がいつもと同じでないと不安感が高まったり、時には混乱・パニックを起こす人もいます。
こうした〝いつも通り″にこだわる自閉症の特徴は〝同一性保持″とも言われています。
〝感覚の問題″があることで、〝いつもと違う″ことへの感度が高いこともまた自閉症の特徴としてあるのかもしれません。
それでは、自閉症の人たちはなぜいつも通りにこだわるのでしょうか?
そこで、今回は、自閉症の感覚の問題を通して、臨床発達心理士である著者の意見も交えながら、自閉症の人たちがなぜいつも通りにこだわるのかについて理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「井手正和(2022)発達障害の人には世界がどう見えるのか.SB新書.」です。
自閉症の感覚の問題:なぜいつも通りにこだわるのか?
以下、著書を引用しながら見ていきます。
〝リミッター″をかけずに情報処理を行うASD者にとってはどうでしょうか?「いつもと同じ道」と「いつもとは違う道」では、道順も違う、標識も違う、建物も違う。(中略)五感で得られる刺激のなにもかもが違います。つまり、「いつもと同じ道」と「いつもと違う道」を、まったくの別世界のように感じている可能性があるのです。
自閉症の人たちは、〝感覚の問題″があるため、外界の情報を取捨選別する際に、〝リミッター″をかけずに情報を取り込んでしまうと言われています。。
定型発達児・者であれば、特定の刺激に注意を向ける、自分が必要な刺激を弁別することがある程度は可能です。
しかし、自閉症の人たちは、不必要な情報や細かい情報さえも取り込んでしまう傾向があります。
つまり、著書にあるように、情報収集の際に、〝リミッター″がうまく働かないため、少しの変化の中にも、〝別世界″といってもいいほど、特徴的な感じ方をしている可能性があります。
このように、自閉症の人に多く見られる〝感覚の問題″が影響していることが背景となり、〝いつも通り″へのこだわりが見られることが推測されるということです。
著書のコメント
著者はこれまで多くの自閉症児・者と関わってきています。
自閉症児・者の多くは今回見てきたように、〝感覚の問題″も多く見られ、そして、〝いつも通り″への固執傾向もあると感じています。
著者の感覚として、〝いつも通り″への〝こだわり″が強い人ほど、〝感覚の問題″(感覚過敏・感覚鈍麻)も多く見られると感じています。
そのため、〝感覚の問題″と〝いつも通り″への固執行動は関連していると思います。
著者が見ている療育現場で自閉症児に非常に多いのが〝感覚の問題″、中でも〝聴覚過敏″です。
〝聴覚過敏″の例として、工事音、子どもの大声、集団でのガヤガヤした音、など非常に過敏に反応するケースから、少し反応するケースまで強弱があります。
そして、こうした〝聴覚過敏″をはじめ、〝感覚の問題″のある子どもに多いのが、〝予定の変更″〝道順の変更″〝手順ややり方の変更″〝物の配置の変更″などに不安を感じるケースが実に多いということです。
逆に、上記の変更点をできるだけ少なくして〝いつも通り″の環境を整えることで、子どもたちは安心して活動に取り組む様子が多く見られます。
今回参照した資料を踏まえて言えば、私自身が感じている感覚と自閉症児が感じている感覚とに大きな違いがあるからこそ、〝いつも通り″をしっかりと意識して取り組む必要があるのだと思います。
〝感覚の問題″は目には見えにくいものです。
つまり、〝いつも通り″に強い安心感を抱くということの背景には、私自身がなかなか感じ取ることのできない感覚にまで子どもたちの気づきが及んでおり、そのことは、私自身が高い感度(感覚に関する)を持って療育に取り組む姿勢が大切なのだと考えさせられます。
以上、【自閉症の感覚の問題】なぜいつも通りにこだわるのか?について見てきました。
自閉症の〝こだわり行動″や〝同一性保持″はだいぶ昔から言われていたことではあります。
しかし、ここ最近になって、感覚に関する研究も非常に進みだしたことで、〝こだわり行動″や〝同一性保持″の背景要因もまたさらに理解が進み出したのだと思います。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も療育現場で関わる子どもたちに安心感を持ってもらえるように、感覚の問題への理解と自閉症の特性への理解の関連性についても目を向けていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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