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【療育(発達支援)の専門性】療育現場で必要な専門性の視点とは何か?

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著者は長年、療育(発達支援)の現場で発達障害など発達に躓きのある子どもたちをサポートしています。

その中で、子どもたちの成長・発達は一人ひとり非常に異なるものだと実感させられています。

また、現場での経験を深く理解していくためには知識が必要です。

さらに、知識を応用したり、知識を活用して経験をさらに掘り下げていくためには経験と知識の両方の歯車を回しながら考え続けることが必要です。

そして、経験と知識を統合していく過程の中で、少しずつ療育現場に必要な視点、つまり専門性の視点が見えてくることがあります。

 

それでは、療育(発達支援)に求められる専門性にはどのような視点があるのでしょうか?

 

そこで、今回は、療育(発達支援)の専門性について、臨床発達心理士である著者の考えをもとに療育現場で必要な専門性の視点について理解を深めていきたいと思います。

 

 


今回は、1.発達特性2.認知能力・非認知能力3.発達的視点4.関係性の視点(愛着・自尊心)5.心という現象、の5つの視点から見ていきます。

 

 

1.発達特性

発達障害には、ASD・ADHD・SLD・DCD・IDなど様々なものが包含されています。

例えば、ASDの子どもであれば〝AS特性″があり、特徴的な対人コミュニケーションやこだわり行動などが見られます。

様々な発達障害は重複しているケースも多いため、そうなると当然、様々な〝発達特性″も重複して見られます。

もちろん、個人差はあり、〝特性″の強弱や年齢や環境によっても〝特性″の現れ方には変化が見られます。

こうした〝発達特性″は、〝長期的に見ても残り続ける″という理解が必要であり、そのために必要な対応は特性に配慮した関わり方・環境調整が有効です。

発達障害を理解していくために、〝発達特性″への理解は必要不可欠な要素であると実感しています。

 

 

2.認知能力・非認知能力

先に見た〝発達特性″同様に〝認知能力(読み書き計算・思考力・記憶力など)″もまた生まれて待っての遺伝的要因を強く受けるものだと考えられています。

そして、様々な〝発達特性″と〝認知能力″の違いによって子どもたちの状態像にもまた違いが見られます。

心理領域において、〝認知能力″を理解していくために、ウェクスラー式知能検査などが多く活用されています。

ウェクスラー式知能検査を通して、子どもたちを理解していくために特に大切な視点はその子の強みと弱み(個人内差)を把握していくことにあります。

一方で、遺伝の要因以上に環境(家庭環境・学校環境など)の影響を強く受けるものに〝非認知能力″があります。

〝非認知能力″は、〝認知″以外の能力を指しますが、例えば、創造性や好奇心、興味・関心、意欲、自主性、主体性、自制心、自信など様々なものがあります。

療育(発達支援)では、こうした〝非認知能力″の育ちに強く貢献する要素が多いと実感できるため、その意味では理解を深めていく必要があると実感しています。

 

 

3.発達的視点

子どもの育ちは今の姿だけでは見えて来ず、過去からの積み重ねで今ができているといった理解が必要です。

そして、過去と今を繋ぎながら未来の方向性を踏まえて支援内容を考えていく観点を〝発達的支援″と言います。

つまり、時間軸と環境軸の相互性から子どもの育ちを考えていく視点だといえます。

〝発達的視点″の理解は、現在の子どもの姿を深く理解していくこと、そして、未来の子どもの姿がより豊かなものになるような視点を提供してくれます。

療育(発達支援)の現場において〝発達的視点″は、子どものたちの〝今に捉われないという関わり方″や〝個別支援計画のアイディア″などに非常に貢献してくると実感しています。

 

 

4.関係性の視点(愛着・自尊心)

療育(発達支援)の現場において、親や学校の先生以外の大人との関係性もまた大切です。

特に、小学校低学年頃までは、親以外の大人との関係性が非常に重要な意味を持ってくると考えられています(それ以降は友人などに発展していく)。

また、子どもが大人との関係性がそもそも安定したものになっているかどうかを深く理解していく上でも〝愛着(アタッチメント)″の視点は非常に重要です。

〝愛着″とは、特定の養育者との情緒的な絆のことを指します。

それは、〝愛着″に何らかの問題があると、二次障害のリスクが高まったり、先に見た〝発達特性″以外の理解や対応が必要になるからです。

大人との信頼関係が基盤となって子どもの〝自尊心″は育っていきます。

〝自尊心″とは、自己への評価(好き・嫌い、自分に価値がある・ない、など)のことを指します。

〝自尊心″の育ちは生涯にわたり私たちの心のベースになるため、療育(発達支援)の現場においても、この〝自尊心″をどのように育てていくのかは非常に重要なものであると感じています。

 

 

5.心という現象

10人いれば10人違った心が存在します。

心というものは関わり手の主観によってくみ取られる所が大きくあります。

例えば、子どもが何となく元気がない様子、やってみようか迷っている様子、さりげなく友達を気づかっている様子、などは一見すると行動面から客観的に理解できるものもありますが、読み手側が〝何となくそう感じる″といった漠然とした直感や主観によってくみ取られる所も多くあると思います。

行動科学が進歩する中で、私たちの身体性が重要だと指摘されている面もありますが、心は私たちが、自らの身体を使って環境に身を投じ、他者と関わる中で揺れ動きながら意識的・無意識的に感じることができる動的なものであると思います。

療育(発達支援)において、一人ひとりの〝心の状態に目を向ける″ことがとても大切だと思います。

つまり、行動では似たような振る舞いを見せていても〝心の状態は異なる″からです。

そして、〝心を満たす″ことが療育では非常に大切だと改めて実感しています。

 

 


以上、【療育(発達支援)の専門性】療育現場で必要な専門性の視点とは何か?について見てきました。

こうして、著者自身の療育を振り返りながら文章を書いていくことで、これまでは経験と知識の距離が離れていたものが、言葉を通じて互いに親和性を持ちながら歩み寄り、統合されていくことを実感できます。

そして、その統合の過程において、著者自身の心がある種の意味や納得感を持ちながら、統合への歩みを少しずつ進めているように感じます。

私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も療育(発達支援)の専門性をさらに探求していくために、経験からの学び、知識からの学び、そして両者を統合していく過程を大切にしていきたいと思います。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

 

 

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