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【決定権の誤解を予防することの重要性】発達障害児支援の現場から考える

投稿日:2023年10月3日 更新日:

発達障害児支援の現場で子どもたちと関わっていると、自分の意志や意見を押し通そうとするケースに出会うことがよくあります。

もちろん、自分のやりたいことや考えを主張することは大切なことです。

しかし、中には、こだわり、パニックや苛立ち、大人を下に見る、などの背景から自分の言動を押し通そうとする、いわゆる〝決定権″が子どもにすり替わってしまう場合もあります。

このように決定権の誤解が生じる関係性ができてしまうと、支援がうまく進まなくなることがあります。

 

それでは、決定権の誤解を予防するにはどのような対応が必要になるのでしょうか?

 

そこで、今回は、決定権の誤解を予防することの重要性について、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら理解を深めていきたいと思います。

 

 

今回参照する資料は「小嶋悠紀(2022)小嶋悠紀の「特別支援教育・究極の指導システム」①.教育技術研究所.」です。

 

 

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決定権の誤解の予防方法について

著書には、決定権の誤解が生じる事例を2つ取り上げています。

 

今回は、事例の要点と対応について著書を引用しながら見ていきます。

 

事例1:課題を減らすようにお願いしてくる場合

子供が自らの状態の悪さを理由にやるべき課題についての要求を下げてきて、この時の大人の対応が子供の要求をそのまま承認してしまったというケースです。

子供側からすると、反発を続けることで大人が言うことを聞いてくれると思ってしまい、こうした状態が続くと、後に要求を下げるどころかやらないという選択肢を取るようになってしまいます。

つまり、〝誤学習″を引き起こしてしまうということです。

 


それでは、事例1への対応方法について見ていきましょう(以下、著書引用)。

このような事例の場合、「決定権を教師に戻して終える」ことが誤学習を防ぐ上で最も重要である。

 

120%要求し、狙った100%に要求を下げたように見せる。

 

著書の内容から、決定権が子供にある場合の対応方法として、まずは、120%程度の通常よりも高い要求を子どもに提示して(事前に戦略を練り)、その後、子どもが要求を下げようとしてきた際に、狙った100%を提示し合意を得るという方法です。

ここでのポイントは、最後は大人の提示に合意するといった〝決定権を大人に戻す″というところです。

 

事例2:かんしゃくやパニックを起こすことで課題を回避する場合

子供が使った物を大人に片付けるようにお願いするも大人が自分で片付けることを進めた結果、パニック起こし、その後、子供はその場を立ち去り、仕方なく大人が片付けてしまったというケースです。

つまり、自分の思いが通らないことに対して、かんしゃくやパニックを起こせば思いが通ると〝誤学習″してしまったという状態です。

 


それでは、事例2への対応方法について見ていきましょう(以下、著書引用)。

パニック後に毅然と対応するのが良い。

 

選択肢を作って、行動を強化することで「決定権が大人に戻る」ことを実現できる。

 

著書の内容から、事例1同様に決定権が子供にある場合の対応方法として、かんしゃくやパニック中には、まずは落ち着くのを待ち、落ち着いた後に毅然と対応するという方法です。

しかし、中には、片付けを強要することを受け入れることが難しい場合もあります。

そこで、選択肢を持たせる(一人で片付けるか?大人と一緒に片付けるのか?といった質問をしてみるなど)ことによって要求水準を下げながらも、大人に決定権を戻すことを意識することがここで対応のポイントになります。

 

 

著者の経験談

著者もこれまでの療育経験から、決定権を子どもたち自身が持とうとしてくる対応に迫られたことがあります。

その時の対応でよく実施していたのが、選択肢を事前に提示して子どもに選んでもらう方法です(事例2で出てきた方法です)。

例えば、使いたい物を独り占めする子供には、事前におもちゃの使用のルールを伝え、活動時間の前半○○分か?後半の○○分か?どちらが良いか選んでいいよ、などと伝えてきました。

それでも、こうした提示の承認が難しい場合もあります。

そのような時には、できるだけ事前にルールを伝えていくことを心がけています。

そして、ルールを守ることができればおもしゃの使用が継続して可能であるという伝え方をしています。

つまり、みんなが公平に物を使うためには一定のルールがあるということを活動前にそれも子供の状態が安定している時を見計らって伝えていきます。

 

最後に、決定権が大人にあるということを子どもが受け入れるために著者が大切にしていることがあります。

それは、信頼関係の構築です。

信頼のある大人からの提示を子どもは受け入れやすい傾向があるからです。

信頼のある大人とは、子どもへの共感性が高く、子どもに良い提案をしてくれる(特性を踏まえた合理的配慮など)人のことを言います。

〝この人は自分のことをわかってくれている″〝この人といるとうまくいく″などの実感を子どもたち自身が持てるような関係性が非常に大切です。

 

 


以上、【決定権の誤解を予防することの重要性】発達障害児支援の現場から考えるについて見てきました。

決定権が子供にすり替わってしまったという経験は思いの他、支援の現場に携わっている方にはあるように思います。

著者もこうした失敗談は少なからずあります。

こうした状態を回避するために今回の記事が少しでもヒントになれば幸いです。

私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も子供たちとより良い関係を作っていきながら、決定権の誤解が生じないような関わり方をしていきたいと思います。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

 

 


参考となる書籍の紹介は以下です。

関連記事:「発達障害の支援に関するおすすめ本5選【初級~中級編】

 

 

小嶋悠紀(2022)小嶋悠紀の「特別支援教育・究極の指導システム」①.教育技術研究所.

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