「〝心の理論″とは、他者の意図、欲求、願望、信念、知識といった心の状態を推論する能力」のことを言います。
心の理論には、一次の心の理論から二次の心の理論へと発達していくなど、発達段階があります。
一次の心の理論は、ある人物の行動の背後にある意図や心情の理解ができる段階なのに対して、二次の心の理論は、人物間の関係性も踏まえたより複雑な心を理解する段階といった違いがあります。
また、二次の心の理論の発達には、〝うそ″や〝冗談″も多く見られるようになります。
それでは、〝うそ″と〝冗談″にはどのような違いがあるのでしょうか?
そこで、今回は、〝うそ″と〝冗談″の違いについて、二次の心の理論の発達から考えを深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「子安増生(編)(2016)「心の理論」から学ぶ発達の基礎-教育・保育・自閉症理解への道-.ミネルヴァ書房.」です。
〝うそ″と〝冗談″の違いとは何か?
以下、著書を引用しながら見ていきます。
うそも冗談(皮肉)も、事実と違うことを言っているという点では同じである。しかし、どちらも勘違いではなく、わざと事実と違うことを言っているので、一次のレベルでは両者を区別できない。二次のレベルで心の状態を読み取ることで、うそと冗談(皮肉)の区別ができるようになる。
著書の内容から、〝うそ″も〝冗談″も事実と異なることを言っている点では共通していますが、一次の心の理論の発達段階では両者を区別することができず、二次の心の理論の発達段階となって両者が区別できるようになると記載されています。
著書の中では、〝うそ″と〝冗談″の違いについて以下の例を使用し説明しています。
〝うそ″の例ですが、男の子が母親に、ある絵を自分が描いたものだと見せ、その後、母親が絵の下に息子とは異なる名前が書かれており、〝うそ″に気づくというものです。
一方で、〝冗談″の例ですが、同じく男の子が母親に、ある絵を自分が描いたものだと見せますが、男の子は絵の下に自分とは異なる名前を指さしながら伝える様子から、その行為が〝冗談″だと気づかされるというものです。
このように、〝うそ″も〝冗談″も事実とは異なるといった意味では同じ特徴を持っていながらも、〝意図的に相手に誤信念を生じさせる内容(質)が異なる″という違いがあります。
こうした、〝うそ″と〝冗談″の区別が可能になるには、8~9歳頃だと言われています。
まさに、この時期は二次の心の理論の獲得期でもあります。
私たちの生活の中には、〝うそ″も〝冗談″も様々な場面で見られます。
そして、どちらも人とうまく関わっていくため、楽しく関わっていくために必要なものです。
〝うそ″をつくことは一般的には良くないことですが、相手を傷つけない向社会的な〝うそ″は人との関わりの中で必要とされることがあります。
例えば、相手のことが嫌いであっても、その思いをはっきりと伝えてしまうと、人間関係が破綻してしまいます。
また、相手の好意が、自分が望んだものでなくても、その思いをストレートに伝えてしまうと相手を傷つけることに繋がります。
一方で、〝冗談″は、人との会話を楽しくするために大切なものです。
例えば、仲の良い友人同士や家族間での会話の中に、〝冗談(皮肉)″があることで、情緒的なコミュニケーションがより発展していきます。
また、辛いことや嫌な出来事があっても、〝冗談″によって明るい気分になったという経験は多くの人に見られるものだと思います。
このように、心の理論の発達に伴い獲得する〝うそ″や〝冗談″は私たちの生活を楽しく豊かなものにしてくれます。
以上、【〝うそ″と〝冗談″の違いとは何か?】二次の心の理論の発達から考えるについて見てきました。
著者の療育現場でも、〝うそ″や〝冗談″といった会話のやり取りは子どもたちとの間で見られます。
発達に躓きのある子どもたちであるため、こうした会話のやり取りもどこか不器用さがありますが、〝うそ″や〝冗談″は、向社会的な行動、笑い、などの視点からも日々の生活を豊かにするものだと感じています。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も心の理論への理解を深めていきながら、対人関係に不器用さのある子どもたちへの理解や支援にその知見を活かしていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
関連記事:「【人はなぜ〝うそ″がつけるようになるのか?】心の理論の発達から考える」
子安増生(編)(2016)「心の理論」から学ぶ発達の基礎-教育・保育・自閉症理解への道-.ミネルヴァ書房.