療育現場で発達に躓きのある子どもと関わっていると、様々な発達特性が見られます。
例えば、コミュニケーションの難しさやこだわり行動のあるASD(自閉症スペクトラム障害)児や、不注意・多動・衝動性のあるADHD(注意欠如多動性障害)児などです。
その他にも、LD(学習障害)やDCD(発達性協調運動障害)、ID(知的障害)などの特性を持つ子どもも多くいます。
特定の特性が顕著に目立っているケース以上に、様々な特性が重複(併存)している場合の方が割合として多いと感じるこがあります。
一方で、発達障害の重複例は、子どもの状態像の理解を複雑化する場合もあります。
それでは、発達障害の重複(併存)を理解するにあたり、どのような点に難しさがあると言えるのでしょうか?
そこで、今回は、発達障害の重複(併存)を理解する難しさについて、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら理解を深めていきたいと思います。
今回参考にする資料は、「本田秀夫(2017)自閉スペクトラム症の理解と支援.星和書店.」です。
発達障害の重複(併存)を理解する難しさについて
1.アカデミックな視点から重複を理解する難しさについて考える
以下、著書を引用しながら見ていきます。
発達障害の特性の重複はなかなか理解されないのか。その背景としてさまざまな要因が考えられますが、そのひとつに、「研究が専門分化している」ということがあります。医学や心理学の研究者、とくにアメリカの人たちは、自分の専門としてる分野に特化した研究を行う傾向があります。
著者も大学院などで研究をしてきましが、特定の発達特性に特化した研究が多いといった印象を受けます。
そのため、発達障害の重複を扱っているものは少ないと感じることが多くあります。
この背景には、ある発達特性に特化した方が、研究条件を統制しやすく、相関関係や因果関係など関連性を証明しやすいからだと言えます。
こうしてアカデミックの先端の情報からは、なかなか発達障害(発達特性)の重複に関する知見が得られないため、重複に関しては理解が難しいということが言えると思います。
2.療育経験から重複を理解する難しさについて考える
療育現場においても、重複例の理解が難しいと感じることがあります。
その一つに職場環境があります。
例えば、その職場の人たちが、どのような知識を持ちながら支援に臨んでいるかといった背景があります。
仮に、自閉症スペクトラム障害(ASD)の知識に強い職場であれば、ASD的な知識のフレームで、相手の状態像を理解する傾向が強くなるかもしれません。
著者は、療育現場のスタッフ(組織・法人の考え方なども含め)が持つ様々な経験や知識によって、相手を理解するフレームが異なることを実感する機会がこれまで多くありました。
視点の偏りを脱却する方法として、様々な視点(様々な発達障害に関する知識、発達心理に関する知識など)を獲得するための研修や勉強会を行うことも重要だと言えます。
問題意識・課題意識を強くもっている職場であれば、発達障害の重複ケースの理解も進むと感じています。
次に、特性の判別のわかりにくさがあります。
例えば、ASDとADHDの両者において、過集中傾向がどちらにも見れらる場合があります。
また、対人関係を見ても、ASDでは興味関心を一方的に話す、ADHDでは、自分が思ったことを衝動的に話すなど、背景は異なりますが、どちらも対人関係でトラブルになることがあります。
特性の背景の理解の難しさは、療育現場でも多く見られますが、正直なところ、どちらの特性がある状況において有意に働いているのか、判別が難しいと感じることがよくあります。
重複していると少なからずどちらの特性も見られるため、判別が難しいと言えます。
そのため、発達歴や様々な場面での行動特徴(ABC分析)などを見ていきながら総合的に理解していく必要性があります。
以上、【発達障害の重複(併存)を理解する難しさについて】療育経験を通して考えるについて見てきました。
発達障害の重複(併存)の理解はまだまだこれからだと言えます。
私自身、様々な発達障害の特性を理解していきながら、重複(併存)についても療育現場を通して理解を深めていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
関連記事:「【発達障害の発症の頻度と重複(併存)について】療育経験を通して考える」
本田秀夫(2017)自閉スペクトラム症の理解と支援.星和書店.