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知的障害児の理解と支援-療育経験を通して「記憶」の面から考える-

投稿日:2022年4月7日 更新日:

療育現場には、知的障害のある方が多くいます。

知的障害とは、知能指数(IQ)と社会適応能力に困難さを抱えるものとされています。

 

関連記事:「境界知能とは何か?療育現場の実体験を通して考える」「知的障害と発達障害の違いについて

 

私自身、療育現場で中重度の知的障害のある方、軽度の知的障害のある方など様々なタイプの方と接してきました。

知的に遅れがあると、全般的な発達がゆっくりであるため、感覚や運動、認知や言語、社会性や感情発達など様々な領域に特徴が見られます。

 

今回は、こうした特徴の中で「記憶」に焦点化し、著者が知的障害のある児童との関わりから学んだ点についてお伝えします。

 

 

今回参考にする資料は、「西永堅(2017)基本から理解したい人のための子どもの発達障害と支援のしかたがわかる本.日本実業出版社.」です。

 

 


それではさっそく参考資料から知的障害児の「記憶」の特徴について見ていきます。

 

知的障害児の「記憶」について

知的障害のある子どもたちは、特にことばの発達が遅れたり、「短期記憶」(短時間に一度に覚えられる記憶)が苦手といわれますが、経験したことや体験したことを長期間覚えておく「長期記憶」はそれほど障害されていないといわれます。したがって、ことばで説明したり机上の学習よりも、体験学習をしていく中で、ことばや認知発達を促していくことが大事だと考えられます。

以上が引用となります。

著者の療育経験からも上記の考えは納得できます。

知的障害のある子どもたちは、新しい情報を取り込むことに難しさがありますが、同じ活動(遊びなど)を繰り返すことで定着することが多くあります。

それも、体を使って体験したものが残りやすいといった印象があります。

一度、長期記憶に定着すると、記憶からその情報を引き出すことがスムーズにできるといった感じがあります。

 

 


それでは次に著者の療育経験についてお伝えします。

 

著者の体験談

A君の事例

知的に遅れのあるA君は、私たちスタッフが説明した内容を直ぐに忘れてしまいます。

転導性も激しく、集中力もなかなか持続しないため、活動がころころと変わることがよくあります。

そのため、活動を最後までやり遂げたという体験をなかなかうまく積み重ねることが難しい状態が続きました。

私たちスタッフは、まずはA君の好きな活動を探りながら、好きな活動を日々繰り返し行ってきました。

活動内容としては、武器作り、車作り、ごっこ遊びなどが主でした。

こうした遊びをある程度の期間繰り返していくと、一定の集中力を持って取り組める姿が出てきました。

すると今度はA君から、以前遊んだ活動を思い出して、「○○するか!」と誘ってくるようになり、過去に行った様々な遊びの体験を軸として長い時間活動に取り組めるようになってきました。

 

Bちゃんの事例

知的に遅れのあるBちゃんもまた、スタッフの声掛けが一度は入っても直ぐに忘れてしまい、集中して活動することが難しいお子さんでした。

ある活動を行ってもなかなか定着しにくいといった感じです。

こうしたBちゃんに対してもAくん同様に、好きな活動を探り、うまくできたという成功体験を重ねるところからスタートしました。

Bちゃんも体を使って学習したものは定着しやすく、以前取り組んだ活動を思い出して上手に遊ぶ様子が増えてきました。

 

A君もBちゃんも、「記憶」という点では同じような特徴がみられます。

それは、新しい情報などを取り込むことが難しいのですが、一度、経験を通して学習したものは長期記憶となってよく覚えていることです。

以上が短いですが事例の紹介になります。

 

知的に遅れがあると様々な面での理解やサポートが必要になります。

これまで見てきたように、知的障害児には「短期記憶」に苦手さはありますが、「長期記憶」には強さがあります。

そのため、支援において、日々の繰り返しの体験を通しての学習がとても大切になります。

私自身、今後も日々の細かな実践の繰り返しを大切にしていきたいと思います。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

 

西永堅(2017)基本から理解したい人のための子どもの発達障害と支援のしかたがわかる本.日本実業出版社.

-療育, 知的障害, 記憶

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