〝知的障害(ID)″とは、知的水準が全体的な発達よりも低く、かつ、社会適応上問題がある状態のことを言います。
知的に遅れがあると、発達全般がゆっくりであるため、運動・認知・言語・社会性・感情など様々な領域に影響が生じると考えられています。
それでは、日常生活に大きな影響を及ぼす記憶に関しては、どのような特徴があると考えられているのでしょうか?
そこで、今回は、知的障害児の理解と支援について、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら、記憶をテーマに理解を深めていきたいと思います。
今回参考にする資料は、「西永堅(2017)基本から理解したい人のための子どもの発達障害と支援のしかたがわかる本.日本実業出版社.」です。
知的障害児の理解と支援:「記憶」の面から考える
以下、著書を引用しながら見ていきます。
知的障害のある子どもたちは、特にことばの発達が遅れたり、「短期記憶」(短時間に一度に覚えられる記憶)が苦手といわれますが、経験したことや体験したことを長期間覚えておく「長期記憶」はそれほど障害されていないといわれます。
したがって、ことばで説明したり机上の学習よりも、体験学習をしていく中で、ことばや認知発達を促していくことが大事だと考えられます。
著者の療育経験を踏まえてもも上記の考えは納得できます。
知的障害のある子どもたちは、新しい情報を取り込むことに難しさがありますが、同じ活動(遊びなど)を繰り返すことで定着することが多くあります。
それも、体を使って体験したものが残りやすいといった印象があります。
一度、長期記憶に定着すると、記憶からその情報を引き出すことがスムーズにできるといった感じがあります。
著者の体験談
A君の事例
知的に遅れのあるA君は、私たちスタッフが説明した内容を直ぐに忘れてしまいます。
転導性も激しく、集中力もなかなか持続しないため、活動がころころと変わることがよくあります。
そのため、活動を最後までやり遂げたという体験をなかなかうまく積み重ねることが難しい状態が続きました。
私たちスタッフは、まずはA君の好きな活動を探りながら、好きな活動を日々繰り返し行ってきました。
活動内容としては、武器作り、車作り、ごっこ遊びなどが主でした。
こうした遊びをある程度の期間繰り返していくと、一定の集中力を持って取り組める姿が出てきました。
すると今度はA君から、以前遊んだ活動を思い出して、「○○するか!」と誘ってくるようになり、過去に行った様々な遊びの体験を軸として長い時間活動に取り組めるようになってきました。
Bちゃんの事例
知的に遅れのあるBちゃんもまた、スタッフの声掛けが一度は入っても直ぐに忘れてしまい、集中して活動することが難しいお子さんでした。
ある活動を行ってもなかなか定着しにくいといった感じです。
こうしたBちゃんに対してもAくん同様に、好きな活動を探り、うまくできたという成功体験を重ねるところからスタートしました。
Bちゃんも体を使って学習したものは定着しやすく、以前取り組んだ活動を思い出して上手に遊ぶ様子が増えてきました。
A君もBちゃんも、「記憶」という点では同じような特徴がみられます。
それは、新しい情報などを取り込むことが難しいのですが、一度、経験を通して学習したものは長期記憶となってよく覚えていることです。
知的に遅れがあると様々な面での理解やサポートが必要になります。
これまで見てきたように、知的障害児には「短期記憶」に苦手さはありますが、「長期記憶」には強さがあります。
そのため、支援において、日々の繰り返しの体験を通しての学習がとても大切になります。
私自身、今後も日々の細かな実践の積み重ねを大切にしていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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西永堅(2017)基本から理解したい人のための子どもの発達障害と支援のしかたがわかる本.日本実業出版社.