発達に躓きのある子どもたちと関わっていると様々な疑問が浮かぶことがあります。
例えば・・・
なぜ○○くんは、他児トラブルをよく起こすのか?
なぜ○○くんは、スキンシップ遊びを避けるのか?
なぜ○○くんは、危険認知が低いのか?
なぜ○○くんは、モノづくりがうまくいかないのか?
なぜ○○くんは、一方的に自分の話をし続けるのか?
なぜ○○くんは、ルールの理解が難しいのか?
なぜ○○くんは、こだわりが強いのか?
こうした現場の‟なぜ?”を取り上げると、際限なく出てくる疑問の多さに驚かされることがあります。
それは裏を返すと、定型発達児の育ちの中では見えてこない難しさがあるのかもしれません。
このような現場の〝なぜ?”に応える視点、そして、‟なぜ?″に対して‟どのように?″へと繋いでいく視点として‟療育的視点″があります。
それでは、療育的視点とは具体的にどのようなものなのでしょうか?
そこで、今回は、療育的視点とは何かについて、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら理解を深めていきたいと思います。
今回参考にする資料として、「木村順(2006)子育てと健康シリーズ㉕:育てにくい子にはわけがある:感覚統合が教えてくれたもの.大月書店.」を参照していきたいと思います。
療育的視点について
療育的視点には大きく分けて重要なことが2点あります。
①子どもの状態を理解する
まずは何といっても子どもの行動の「なぜ」を深堀りすることです。
そして、状態像を的確に把握していくことです。
著書では次のように述べています。
目の前の「この子」がしめす状態像をしっかりと「把握すること」「理解すること」が「評価」である
根拠となる「評価」に基づいて「仮説」を立てることが優先されるアプローチ=「療育的視点」が不可欠
大切なことは子どもたちの状態像を「評価」し、それに基づいて「仮説」を立てることにあります。
こうした「評価」の精度を上げていくこと、上げていく努力がとても大切です。
完全に「評価」できた、「なぜ」に応えることが100%できた、とは実際の所難しい場合合が多いですが、こうした精度を高めていくことは必要で実際に可能かと思います。
そのためには、日ごろの子どもたちをよく観察することに加え、様々な知識も必要になります。
②理解をもとに支援していく
子どもたちの状態像が理解でき、つまり「評価」できたら、次のステップです。
それは、理解(評価)に基づいて支援していくことです。
例えば、細かい手の運動に不器用さがあるお子さんがいたら、こうした能力を高める練習をスモールステップで行うのか、能力を高めるのではなく、楽に実行できる道具を使用したり、環境を調整するなど、様々なアプローチがあるかと思います。
支援の根拠となる理解(評価)がとても大切になるのは、支援がうまくいかないときなど、理解(評価)の時点で何か足りなかったのでは?別の原因があったのでは?と立ち戻る必要があるからです。
このように、方法にせよ、原因にせよ、様々な仮説を立てることが大切です。
著書では次のように述べています。
「なぜ」の疑問には「原因仮説」で対応し、「どのように」の疑問には、「方法仮説」で対応していく視点を、ここでは「療育的視点」と呼ぶことにしたい
このように「療育的視点」には、「なぜ」を追求し子どもたちの状態像の原因を考える視点と、「どのように」支援していくといった2つの視点がセットで大切になります。
著者の体験談
それでは、最後に「療育的視点」を取り入れた私の実体験を述べていきたいと思います。
療育施設で出会った当時未就学児のA君の事例
A君は自閉症・重度知的障害のお子さんです。
私はA君の担当をしていました。
A君はとにかく高い所に登ることが好きでした。そして、そこからジャンプして飛び降りる遊びを何度も繰り返していました。
周囲の保育士からA君の危険行為を止めた方が良いとの声が上がってきました。
こうした行為を止めることは容易ではなく、止めようとすると暴れて抵抗します。
私は「なぜ」A君がこうした行為をするのか?という「なぜ」を考えました。
感覚統合理論では、感覚情報の入力が不十分、もしくは、うまく統合されないと、こうした刺激を求めて、高い所に登るなどの事例が何かの本で載っているのを発見しました!
私は「これだ!」と思いました!
そして、感覚情報の不足が原因なら、他に感覚刺激を補う遊びを提案した方が良いといった「どのように」がいくつか思い浮かびました。
そこで、安全なアスレチック遊びを事前に用意することにしました。
こうした遊びを取り入れたことで、A君の危険行為は別の遊びによって充たされ軽減されていきました。
以上が、短いですが私の実体験になります。
現場で子どもたちと関わると多くの「なぜ」に出会います。
こうした「なぜ」という疑問を関わる人たちが共有することがとても大切です。
そして、この「なぜ」に応えるためには、経験も大切ですが、知識も必要になります。
私自身、上記の実体験のケースは、知識なくして対応が難しかったと思います。知識がなければただ止めるという行為のみに徹してしまい、A君との関係の悪化を引きおこし、A君の行為の意味を的確に理解することは難しかったでしょう。
今後も、現場の「なぜ」を大切にしていきながら、「療育的視点」といった原因から方法に至るまで様々なアイディアを模索していきたいと思います。
そして、これからも子どもたちのより良い発達理解と発達支援に携わっていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
木村順(2006)子育てと健康シリーズ㉕:育てにくい子にはわけがある:感覚統合が教えてくれたもの.大月書店.