発達障害児への支援において、ごっこ遊びはどのような意味・効果があるのかどうかで思い悩んだことはありませんか?
発達障害児、中でも、自閉症児はごっこ遊びを苦手としていると言われています。
一方で、著者の経験上、自閉症児を含めた発達障害児の多くが、遊び方が独特なことはよくありますが、それでもごっこ遊びを楽しむ様子はよく見られると感じています。
かつての著者は、ごっこ遊びを楽しむ発達障害児のとの関わりにおいて、ごっこ遊びが子どもの発達にどのような影響(意味・効果)を与えているのかどうか考え続けたことがあります。
その際のキーワードが〝イメージ力″の発達です。
今回は、現場経験+理論+書籍の視点から、ごっこ遊びが発達障害児のイメージ力を引き出すアプローチのヒントをお伝えします。
※この記事は、臨床発達心理士として10年以上療育現場に携わり、修士号(教育学・心理学)を有する筆者が執筆しています。
目次
1.ごっこ遊びの意味・効果に迷走する著者のエピソード
2.ごっこ遊びとイメージ力との関係を理解する理論・書籍
3.ごっこ遊びの意味・効果が見えてきた著者の経験談
4.まとめ
1.ごっこ遊びの意味・効果に迷走する著者のエピソード
著者は放課後等デイサービスで様々なごっこ遊びを行ってきています。
療育に携わり始めた著者は、発達障害児はごっこ遊びを苦手としていると考えていたため、著者からごっこ遊びに誘ってもあまりしないのでは?と考えていました。
しかし、想像以上に子どもたちはごっこ遊びに夢中になり、子どもたちの興味関心を中心としたごっこ遊びが次々と展開されていきました。
時には、非常に多くの子どもたちを巻き込んでのごっこ遊びが可能な場合もあります。
そんな中で、様々なごっこ遊びは子どもの発達にどのような意味・効果を与えているのだろうか?といった問いが湧いてくるようになりました。
例えば、運動プログラム(的にボールを当てる遊びなど)において、そのプログラムの意味・効果は可視化されやすい(転がす・投げるといった運動機能の向上、目と手の協応動作の向上など)と言えます。
しかし、ごっこ遊びは非常に様々な要素が含まれていることもあり、発達に関する評価が難しいものだと実感しています。
特に、著者の放課後等デイサービスでは、非常にユニークなごっこ遊びが展開されることが多いため、その点も含めるとさらに評価が難しいと言えます。
一方で、間違いのないことは、子どもたちは全力でごっこ遊びを楽しみ、ごっこ遊びを楽しみに通所してきている所も大きくあるといった事実です。
そのため、著者は理論(書籍)なども踏まえて、自身が取り組んでいるごっこ遊びの意味・効果を深く考えていくようになっていきました。
2.ごっこ遊びとイメージ力との関係を理解する理論・書籍
〝ごっこ遊び″とは、ふり遊び・象徴遊びとも言われ、目の前にあるモノや自分の身体に「別の意味」を付与して遊ぶ活動だと言われています。
例えば、積み木を車に見立てて遊ぶこと、先生と生徒役に分かれた役割遊びなど様々なものがあります。
こうしたごっこ遊びは、現実に存在しないものを心の中でイメージする力が必要です。
そのため、ごっこ遊びはメージ力を使う遊びであり、同時にイメージ力を育てる遊びだと言えます。
子どもの頃から、ごっこ遊びを豊かに経験することは、創造力・言語力・社会性を支える重要な発達基盤になると考えられています。
それでは、ごっこ遊び(象徴遊び)、つまり、イメージ力はどのようにして発達していくのでしょうか?
また、イメージ力の育ちによって見られる変化にはどのようなものがあるのでしょうか?
以上の問い(1.ごっこ遊び(イメージ力)の発達過程とは?、2.イメージ力の育ちによって見られる変化とは?)に対して、著者は次の書籍が大変参考になりました。
書籍①「藤野博(編)(2008)障がいのある子との遊びサポートブック 達人の技から学ぶ楽しいコミュニケーション.学苑社.」
書籍②「加藤博之(2023)がんばりすぎない!発達障害の子ども支援.青弓社.」
それでは、次に、1と2について具体的に見ていきます。
1と2を理解していくことで、ごっこ遊びとイメージ力の関係がさらに深く理解できると考えます。
1.ごっこ遊び(イメージ力)の発達過程とは?
著書①では、〝ごっこ遊び″、つまり、〝象徴遊び(ふり遊び)″を3つの視点から、その発達の過程を説明しています。
以下、3つの視点について著書を引用します。
- 脱中心化:自分中心の遊びから相手に向けられた遊びへ
- 脱文脈化:物に頼った遊びからイメージによる遊びへ
- 統合化:単純でワンパターンな遊びから複雑でプランのある遊びへ
〝脱中心化″とは、ごっこ遊びが自分自身に向けられたもの、例えば、子ども自身が空のコップで水を飲むふりをする段階から、ぬいぐるみに空のコップで水を飲ませようとする段階へと徐々に自分から離れた対象へとイメージ力を広げていくことです。
〝脱文脈化″とは、具体的を使ったごっこ遊び、例えば、ミニカーを使った車遊びの段階から、物を使わずに自分がヒーローになって戦いごっこをするようになるなど、徐々に具体的な物の使用を抜きにして、戦いごっこ・先生ごっこ・お店屋さんごっこなどイメージ力をうまく活用したごっこ遊びへと展開していくようになることです。
〝統合化″とは、例えば、最初はぬいぐるみに空のコップで水を飲ませる遊びを繰り返すといった単調なごっこ遊びの段階から、ぬいぐるみを使って食事の場面を再現するなど、徐々に複雑かつプランのあるごっこ遊びへとイメージ力を広げていくことです。
著者の療育現場でも、〝脱中心化″〝脱文脈化″〝統合化″の発達過程は非常によく見られています(長いと、著者は6年間以上一人の子どもと関わり続けることがあるため)。
中でも、集団でのごっこ遊びとなると、〝脱中心化″〝脱文脈化″〝統合化″といったイメージ力の発達がとても必要になるため、子どもたち一人ひとりがどの程度、こうしたイメージ力を持っているのか、興味関心の世界を中心に把握していくことは大切です。
その上で、どのような物・場面・状況・ストーリーなどを設定していけば、子どもたちが思う存分、イメージ力を発揮して遊びを展開していけるのかを考えていくことが、楽しみ方の工夫、そして、イメージ力をさらに伸ばす上で大切なことだと思います。
また、子どもによっては、イメージ力の弱さ、アンバランスさがあるため、その点は、支援者がうまく遊びを繋ぐ(役割分担など)、場面・状況・ストーリーなどを分かりやすくする(内容を変えるなど)工夫が必要だと感じています。
細かい工夫を加えていくだけでも、1つのごっこ遊びが10以上のバリエーションへと広がっていくことも可能だと言えます。
そして、バリエーション・ストーリー性の発展にこそ、ごっこ遊びの楽しさがあり、イメージ力の向上があるだと実感しています。
2.イメージ力の育ちによって見られる変化とは?
著書②には、〝イメージする力″が育つことで以下のような変化が見られるとしています(以下、著書引用)。
①遊びが広がる。
②予測がしやすくなり、情緒が安定する。
③外界への柔軟な対応力が増す(臨機応変に行動できるようになる)。
④生活場面でできることが増える。
⑤対人関係の相互的な広がりが増す(コミュニケーション力が育つ)。
⑥認知的基盤やことばの力が育つ(学習面にプラスにはたらく)。
〝イメージ力″の育ちとは、〝象徴機能″の育ちとも言えます。
〝象徴機能″とは、ある物を別の物に置き換える力、つまり、想像力(イメージ力)だと言えます。
そして、イメージ力が育つことで、①~⑥のポジティブな変化が見られると著書には記載があります。
例えば、様々なごっこ遊びに関心を持ち実践する様子の変化(→興味関心の広がり)、ごっこ遊びにおけるストーリーを理解して行動する様子の変化(→予測力の向上)、ごっこ遊びにおける場面や状況の違いを理解して行動する様子の変化(→臨機応変さ・柔軟性の向上)、ごっこ遊びで他者とうまく関わることができる様子の変化(→コミュニケーション力・言葉の育ちの向上)などがあります。
このように、ごっこ遊びを通した経験の積み重ね、イメージ力の育ちは、子どもたちの様々な能力向上に加えて、興味関心の広がり、他者とうまく関わる力に寄与していくものだと考えられます。
〝イメージする力″を育てるために必要なことについて、以下、著書②を引用しながら見ていきます。
日常的に様々な経験を増やしていく(興味を広げていく)ことが大切です。
物事について一つの考えに偏らず、多方向から語ったり考えたりすることも有効な手立てです。
〝イメージ力″を育てるためにも、まずは、経験値を増やしていくことが大切です。
まずは、自らの身体を通して様々な経験を積み重ねていくことが、イメージ力の育ちの基盤を作ることに繋がっていきます。
次に、様々な視点から語り・思考する経験が大切です。
イメージ力の育ちとは、物事を様々な視点(自分の視点から離れて物事を見る力)から見られるようになることで成長していきます。
そのため、遊びなどを通して、物事の見方に変化を加えていくという関わり・意識が必要だと言えます。
著者は、以上の観点を踏まえて、いかに子どもと興味関心の世界を広げていくための活動内容の工夫に加えて、活動を通して様々な視点を獲得していけるような声掛けの意識を持つこと心がけていきました。
3.ごっこ遊びの意味・効果が見えてきた著者の経験談
著者は、ごっこ遊びの発達過程(〝脱中心化″〝脱文脈化″〝統合化″)に加えて、ごっこ遊びなどを通して得られるイメージ力の向上による変化(①~⑥)の理解、そして、イメージ力の高めるための関わり方のポイント(経験値の向上、多視点を理解するためのサポート)を踏まえて、ごっこ遊びの意味・効果を振り返っていきました。
著者が見ている子どもの中には、長いと6年間以上見ている子どもも多くいます。
こうした子どもたちと、ごっこ遊びを通して、とても遊び方がうまくなったと感じることが多くあります。
例えば、相手とうまくコミュニケーションを取りながら遊び進めていく様子、イメージを言葉で補いうまく共有していく様子、他者のイメージを理解しながらそれに自分をうまく合わせていく様子、ストーリーを遊びの中で作りうまく展開していく様子など、ポジティブな変化が見られています。
そして、ごっこ遊びを通したポジティブな変化、つまり、イメージ力の育ちは、興味関心の世界の広がり・深まり、予測力、柔軟性・臨機応変さ、コミュニケーション力・言葉の育ちに大きく貢献しているといった気づきを得ることができました。
こうしたポジティブな変化は、個人差はあれ、ある程度、象徴機能が育っている子どもであれば、自閉症児など発達障害児においても引き出していくことが十分可能だと感じています。
発達障害児のイメージ力を引き出していくためにも、興味関心の世界の把握、興味関心の世界を広げていくための発想力、興味関心の世界を他者と共有する喜びがとても大切だと思います。
4.まとめ
ごっこ遊びの育ちの理解には、〝脱中心化″〝脱文脈化″〝統合化″の3つの視点が必要です。
3つの視点を理解していくことで、子どものイメージ力がどの程度の水準にあるのか、その大枠を理解する手助けになります。
ごっこ遊びといったイメージ力の育ちによって得られる変化(6つの変化)をおさえておくことで、ごっこ遊びの意味・効果の実感が得られやすくなります。
イメージ力の向上には、生活経験を積み重ねていく中で、興味関心の世界を広げ・深めていくこと、そして、自分の視点から離れて物事を理解していけるような語り・思考をサポートしていくことが大切です。
書籍紹介
今回取り上げた書籍の紹介
- 藤野博(編)(2008)障がいのある子との遊びサポートブック 達人の技から学ぶ楽しいコミュニケーション.学苑社.
- 加藤博之(2023)がんばりすぎない!発達障害の子ども支援.青弓社.
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