保育現場などで母親など養育者と離れる際に、子どもが大泣きする様子はよく見られる光景です。
子どもにとって安全基地となる母親と離れることで〝母子分離不安″が生じるからです。
一方で、最近では、〝母子分離不安が高年齢化している″と言われています。
高年齢とは、小学校・中学生・高校生・大学生・成人までが含まれています。
それでは、なぜ、母子分離不安が高年齢化しているのでしょうか?
また、適切な母子分離においてどのような視点が大切なのでしょうか?
そこで、今回は、なぜ、愛着対象から離れられないのか?について、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら、愛着障害における母子分離で大切に視点について理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「米澤好史・松久眞実・竹田契一(2022)特別支援教育 通常の学級で行う「愛着障害」サポート 発達や愛着の問題を抱えたこどもたちへの理解と支援.明治図書.」です。
【なぜ、愛着対象から離れられないのか?】愛着障害における母子分離で大切な視点
〝母子分離不安″で言う母とは心理的な安全基地となる存在です。
つまり、母親に限定せずに、子どもの心理的安全基地となっている養育者のこと(愛着対象のこと)を指します。
子どもが愛着対象から離れることは、心理的安全性が脅かされる状態だと言えます。
こうした現象は保育現場等でよく見られる光景ですが、それでは、なぜ、母子分離不安が高年齢化しているのでしょうか?
以下、著書を引用しながら、その背景について考えていきます。
無理矢理の分離が後に禍根を残し、小学校以降に生じる不登校の一因になっていると考えられるからです。母子分離不安の経験を整理し、安全・安心基地を意識する機会を無理矢理の分離では得られないから、大きくなってから不登校という形で再度、現れるのです。
著書の内容を踏まえると、現在、小学校以降の年代における不登校増加の一つの背景として、過去に起こった無理矢理の母子分離の経験があると言えます。
そして、成人期などに見られるひきこもりもまた、過去の無理矢理の母子分離が影響していると考えられています(ASD+愛着障害のケースが多いと言われている)。
中でも、〝愛着障害″のある子どもにおいて、子どもが過去に無理矢理の母子分離を経験した影響が、その後の発達において、分離に対する不安感が継続して強く残り続けてしまう可能性があると言えます。
〝愛着障害″のある子どもは、安定した愛着形成を持つ子どもとは異なり、安定した愛着の基盤が無いといった安心・安全基地感が欠如しているからです。
その結果、一つの解釈として、愛着障害児において、過去に無理矢理の母子分離を経験することの影響による歪が、後の様々なライフステージにまで影響することに繋がることで、母子分離不安の高年齢化が見られるといった事態が生じていると考えられます。
関連記事:「【ASDを併せ持つ愛着障害のタイプについて】療育経験を通して考える」
それでは、母子分離不安を高めないためには、母子分離の際にどのような視点に気をつけていけば良いのでしょうか?
以下、著書を引用しながら見ていきます。
登園・登校するこどもを迎える保育士・教師を固定し、母・子・保育士(教師)の3者の間で、かかわる人が替わっても同じで安心・安全だということを確認する丁寧な母子分離の儀式をする支援が必要です。
著書の内容を踏まえると、母子分離の際には、無理矢理の分離を促すのではなく、丁寧に分離を進める必要があると言えます。
そのためにも、対応する人を極力固定化して(キーパーソンの選定)、キーパーソンは、子どもと一対一の関わりを通して、安心・安全基地を構築していくことが大切です。
特に、愛着障害の症状が強いケースにおいては、こうした対応は非常に重要になってくると言えます。
関連記事:「愛着障害のある子どもに必要なキーパーソンを中心とした支援体制作りについて解説する」
著者の経験談
著者はこれまでの療育経験を通して、愛着障害のある子ども、あるいはその可能性のある子どもと関わってきています。
中には、今回見てきたように、不登校・あるいは不登校傾向のある子どももその中にいたと感じています。
また、未就学児での対応で言えば、母子分離や養育者との再会時において、激しい癇癪・パニックを起こす子どもも少なからずいたと思います。
こうした中にもやはり、愛着障害・あるいはその可能性のある子どもが多かった印象があります。
こうした子どもたちにおいて、大切なことは、無理矢理の母子分離を促す対応ではなく、より丁寧な母子分離への対応、そして、安心できる環境づくりの視点が重要だと感じています。
例えば、担当する支援者をできるだけ固定化していくこと、困った場合には、信頼のおける支援者(キーパーソン)にしっかりと対応を引き継ぐこと、大人と一対一で快の感情を共有する経験の積み上げ、子どもが安心して過ごせる環境作り(人的環境・物的環境)などが必要だと言えます。
つまり、愛着障害のある子どもにとって負荷がかかる対応を取る(無理矢理の母子分離など)ことが、後に発達上での歪を残してしまう可能性があるといったことを考慮して、丁寧に時間をかけて養育者以外に心理的安全基地となる存在との関係性を作り上げていく視点が大切だと言えます。
時間はかかりますが、無理矢理の母子分離の対応よりも、後の子どもの豊かな発達に繋がると思います。
以上、【なぜ、愛着対象から離れられないのか?】愛着障害における母子分離で大切な視点について見てきました。
子どもが新しい世界に入る際には、様々な不安が生じます。
それは、大人が想像するよりもはるかに大きなことなのかもしれません。
心理的安全基地の存在はこうした子どもの不安感を軽減し、後には、前進するエネルギーを与えてくれる存在(探索基地)にもなります。
愛着対象から離れることの意味を深掘りしていくことで、母子分離の際の対応の視点がより深まっていくのだと思います。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も愛着障害、母子分離といったキーワードを通して、子どもにとって安心できる人や環境作りについて学びを深めていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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