発達障害児は、発達特性などが影響して、生活の様々な所で困り感が生じる場合があります。
著者は長年、療育現場で発達障害児支援を行っていますが、個々の発達特性や発達段階等を踏まえたオーダーメイドな支援はとても大切だと感じています。
それでは、発達障害児に見られる忘れ物の多さに対して、どのような対応方法が有効だと考えられているのでしょうか?
そこで、今回は、発達障害児に見られる忘れ物の多さへの対応について、SST・ペアトレ・感覚統合からのアプローチを通して理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「岩坂英巳・宮崎義博(2021)「うまくいかない」ことが「うまくいく」に変わる!発達障害のある子どもがいきいきと輝く「かかわり方」と「工夫」.幻冬舎.」です。
忘れ物が多いことはなぜ生じるのか?
ここでは、〝忘れ物の多さ″の要因として4つの視点から見ていきます。
1つ目として、〝注意の転導性の高さ″です。
つまり、様々なことに気が散って、片付けていた・整理整頓をしていたことから注意が逸れてしまうことです。
例えば、真面目に片付けをしていても、他児の行動や声に気を捉られて、片付けの手が止まってしまうなどがあります。その結果、忘れ物が多くなるというものです。
2つ目として、〝ワーキングメモリの弱さ″です。
ワーキングメモリとは、記憶の保持・操作であり、私たちが、自分の物を管理する上でも重要な機能となります。
例えば、何を持ち帰えるのか、どこに何をしまうのか、などは記憶に依存している所が強くあるからです。
3つ目として、〝実行機能の弱さ″です。
実行機能とは、物事を計画立ててやり遂げる力になります。
先に見た、注意力やワーキングメモリなどとも強く関連しています。
実行機能に弱さがあると、計画的に物を管理したり、予定日までの提出物などが忘れやすくなってしまう場合があります。
4つ目として、〝こだわり行動の強さ″です。
自閉症児に見られる行動特徴ですが、こだわりが強いと、普段と違う課題など、〝いつもと違う″要素が入ることで、これまでルーティン化されていた行動が乱れてしまう場合があります。
その結果、忘れ物やなくし物なども増えてしまう可能性があります。
忘れ物が多いことへの対応について
著書には、忘れ物が多いことへの対応として、〝①SST(ソーシャルスキルトレーニング)″〝②ペアレントトレーニング″〝③感覚統合療法″の3つからのアプローチ方法が記載されています。
それでは、次に、①②③のそれぞれのアプローチ方法について具体的に見ていきます。
① SST(ソーシャルスキルトレーニング)
以下、著書を引用しながら、SSTからのアプローチを見ていきます。
・忘れ物やなくし物は「損をする」ことを理解する
・どうすればよいかを一緒に考える
・忘れたときの対処法を伝えて、練習する
まずは、〝忘れ物・なくし物をするデメリットを伝える″ことです。
子どもの中には、忘れ物・なくし物をすることにおいて、特別、困り感がないこともあります。
そのため、例えば、絵の具セットを忘れたことで大好きな図工ができなかったなど、忘れ物・なくし物をすることによるデメリットを伝えていくことも大切です。
次に、〝解決方法を一緒に考える″ことです。
例えば、物をしまう保管場所・収納グッズなどはできるだけ一括で管理(収納)できるものにすることや、持ち物リストを〝視覚化″する、例えば、準備物などを写真で撮るなどの工夫もまた有効だと言えます。
次に、〝忘れたときの解決方法を考える″ことです。
例えば、絵の具セットを忘れてしまった場合、先生や他の子どもに貸してほしいことを丁寧に伝えることもまた解決方法の一つです。
忘れたからできないではなく、仮に忘れてしまっても○○の方法で解決できるといったスキルを獲得することも大切です。
② ペアレントトレーニング
以下、著書を引用しながら、ペアレントトレーニングからのアプローチを見ていきます。
・できているところを褒める
・持ち物に名前を書いておく
・学校の先生に配慮を求める
まずは、〝頑張っている・できている点を褒める″ことです。
忘れ物・なくし物が多いとどうしても叱責を受けやすくなってしまいます。
まずは、事前のスケジュールの確認や必要な物以外は物を置かないようするといった配慮を心掛けていきながら、子どもが少しでも頑張っている・できている点に目を向けて褒めていくことが大切です。
次に、〝自分の持ち物に名前を書いておく″ことです。
自分の持ち物に名前を書いておくことで、仮に自分の物をなくしてしまい他児の物を使ってしまうことで、他児トラブルに繋がるリスクを軽減することができます。
ある程度、自分の物が管理できるようになるまでは、持ち物に名前を書いておくことは必要な対応だと言えます。
次に、〝学校の先生など他の大人に協力を求める″ことです。
家庭以外で子どもが関わる大人に協力を求めることも大切です。
協力を求める前提として、家庭での取り組み内容や、○○の発達特性があるといった本人理解に繋がる情報を提供していくことも大切です。
③ 感覚統合療法
以下、著書を引用しながら、感覚統合療法からのアプローチを見ていきます。
・短期記憶を養う練習を遊びのなかに取り入れる
・注意が逸れないよう練習をする
まずは、〝短期記憶を鍛える遊びを導入する″ことです。
例えば、料理を作って美味しく食べよう!といったプログラムがあった場合に、必要な材料を子どもにいつくかお願いすることも短期記憶の成長に繋がります。
必要な材料を覚えておくこと、忘れそうになったらどうやってその情報を引き出すことができるのか、など短期記憶を鍛える要素がたくさん含まれています。
次に、〝注意が逸れにくい環境設定を工夫する″ことです。
発達障害児の中には、少しの刺激を気にしたり、直ぐに注意が他の事に向いてしまうことがあります。
そのため、特定の事に注意が向きやすくなるための環境作り、つまり、外部刺激を少なるする環境調整が大切です。
以上、【発達障害児に見られる忘れ物の多さへの対応】SST・ペアトレ・感覚統合からのアプローチについて見てきました。
忘れ物・なくし物が多いのは、発達障害児によく見られる特徴です。
一方で、こうした行動が見られる背景要因は、子どもによって違いがあります。
そのため、子どもに合った様々な対応方法を見つけ実践していくことが重要です。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も発達障害児に見られる様々な困り感を解消していけるように、支援に関する引き出しを増やしていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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