愛着とは特定の養育者との情緒的な絆のことをいいます。
上記の愛着の定義からもわかるように、愛着形成において大切な視点は「特定の人物」との関わりです。
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一方で、自閉症児においては、複数のアタッチメント対象を持つことが有効だとの考えもあります。
それは一体なぜでしょうか?
今回は、自閉症児の愛着形成について、著者の療育経験も踏まえて、複数のアタッチメント対象を持つことの意味について考えていきたいと思います。
今回参照する資料は「数井みゆき・遠藤和彦(編著)(2007)アタッチメントと臨床領域.ミネルヴァ書房.」です。
自閉症児の愛着形成について【複数のアタッチメント対象を持つことの意味】
著者の中では自閉症児を対象に以下3つの愛着形成のレベルがあるとしています。
レベル1:自分が心地よいと感じるために行う行動(遊んでもらいたい、使いたいおもちゃをとってもらいたいなど)
レベル2:不安感を軽減・回復するために行う行動(イライラや不安になったときにスキンシップをとることで不安が回復するなど)
レベル3:安全基地として特定の人物を頭にイメージでき探索空間を広げる行動(愛着対象から離れて何かに挑戦するなど)
以上、3つのレベルになります。
こうした3つのレベルがある中で、複数のアタッチメント対象を持つことの意味がレベル1に強くあると著書の中では記載されています(以下、著書引用)
密着的接近を行うレベル1のアタッチメント対象が単一の大人から複数の大人に拡大する(場面や求める活動で大人を使い分ける)ことを発達の契機としていたことが指摘されたのである。
いつも自分に快の情動を喚起する行動や場面の中に、同一人物ではないが人という存在がその状況を作ったり行動を起こしてくれることに気づくと考えられる。
単一ではなく複数のアタッチメント対象と関係を持つことが、他者存在そのものを場面から浮かび上がらせる点で、自閉症特有の意味があると考えられるのである。
以上、自閉症児が複数のアタッチメント対象を持つことの意味について著書からの引用を見てきました。
この中で大切な点をいくつか整理してみたいと思います。
- 自閉症児は特性上、人に注意が向きにくいなどの社会性の困難さがある。
- そのため、愛着形成初期のレベル1では、複数の人が関わることで人という存在の認識を強めることが重要である。
- 複数の関わりとは○○遊びにはAさん、○○遊びにはBさんといったように場面や状況などが一対一の関係になっている方がわかりやすい。
- 以上の複数の関係づくりは自閉症児に快の気持ちを生起するものである必要がある。
- レベル1で人との関わりが満たされることで人への認識が深まり、徐々に特定の人物への愛着形成に移行していく(レベル2以降)
もちろんこうした段階を踏んだ愛着形成はまだ仮説の段階だとも言われていますが、著者の経験談からも似たようなケースが見受けられます。
著者の経験談
著者は以前の職場で未就学児を対象として療育をしていました。
その中には、自閉症児も多くおりました。
こうした自閉症児との関わりを通して感じたことは、最初は、自分の欲求を伝える相手を欲するケースが多いということです(欲求に応答してくれる人)。
著者は男性スタッフであり体を使ったアクティブな遊びを好んで行っていたこともあり、自閉症児たちは体を使った遊びにはすぐに著者の手を引き「遊んで!」と伝えてくることが多くありました。
また、絵本の読み聞かせでも、○○の本は著者でないと嫌だといったケースもありました。
このように、遊びを中心とした様々な活動を通して、著者となら○○遊びによって楽しさを共有できる、自分が快の気持ちになれる、といった一対一の関わりが多く見られていたように感じます。
こうした関わりを年単位で見ると関係性の質が変化してきます。
それは不安になった際に、Aスタッフだと気持ちが落ち着くなど、より心理的な安心感を特定の人物に求めようとする関係に変化していきます。
こうした経験は、あくまでもこれまで療育経験を振り返って見て感じたものです。
また、養育者ではなく保育者としての立ち位置でもあるため、養育者よりは弱い関係になります。
大切な点は、人との関わりが安心できるもの、不安を軽減できるのだと、人生の早い時期に気づき、そうした経験を積み重ねることだと思います。
最後に、保護者支援という視点から複数のアタッチメント対象を持つことの意味について見ていきます(以下、著書引用)。
自閉症児の親の多くが育児における強いストレスを抱えることを考えれば、それだけでなく、家族以外の療育や保育施設での大人の敏感性と応答性を持った関わりを保証することが、大きな意味を持つことも事実である。
保護者支援で大切な点は、保護者が子どもから離れ休息できる時間を持つことです。
また、保育者など他のスタッフに見てもらうことで、子育ての苦労や助言などをもらえることも重要です。
自閉症児の親は、子育てにおいて様々なストレスを抱えることがあるため、他の大人が関わることで、保護者のストレス軽減をするだけではなく、自閉症児との間にポジティブな快の感情をより多く生起することを可能にします。
もちろん、保育者は自閉症児の特性を理解し、その子の発信に対して、しっかりと応答・対応するということが前提となります。
以上、自閉症児の愛着形成について【複数のアタッチメント対象を持つことの意味】について見てきました。
自閉症児は定型児と比べ、もともと持っている特性が影響して、愛着形成が遅れたり、愛着形成の質や段階が異なることがわかってきています。
私自身、まだまだ未熟ですが、これからも自閉症児にとって、安心できる存在になれるように、その子の特性理解だけではなく、パーソナリティも理解していきながら、より良い関わり、関係づくりを目指していきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
数井みゆき・遠藤和彦(編著)(2007)アタッチメントと臨床領域.ミネルヴァ書房.