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自閉症と共感性について:最近の研究動向から両者の関連性を考える

投稿日:2020年8月20日 更新日:

自閉症の人たちは他者の思いや気持ちを読み取るのが苦手と言われています。そのため、共感性が低いと受け止められることがあります。

それでは、本当に自閉症の人たちは共感性が低いのでしょうか?

今回はその疑問に応えるために、自閉症の共感性について、最近の研究動向から両者の関連性ついてお伝えしていこうと思います。

 

共感性について

共感とは、他者の感情状態を共有する精神機能であり、他者の感情状態を理解するという機能と、その状態を共有する、あるいはその状態に同期するという機能に分類されます。前者を、認知的共感(cognitive empathy)、後者を、情動的共感(emotional empathy)というような捉え方が心理学領域では広がっています。

自閉症について

自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder:ASD)とは、社会的コミュニケーションおよび対人相互反応の障害、興味の限局と常同的・反復的行動を主徴とし、乳幼児期に発現する精神発達の障害のことを言います。

自閉スペクトラム症の診断項目の1つ目に位置する、社会的コミュニケーションおよび対人相互反応の障害の特徴として、幼少期から1人遊びを好み、視線が合いにくく、すぐに目をそらす傾向があり、人に対して関心がなく、人や状況に対して自然に関われない、対人的疎通性に欠け、感情的接触がとりにくいなど、自閉スペクトラム児は、社会的文脈に応じて自分の行動を調整することが困難で、他者の感情を察して適切に反応することが苦手であるとされています。このことから、自閉スペクトラム症児・者が共感性に困難さを持つことが想定されています。

自閉スペクトラム症と認知的共感について

認知的共感(cognitive empathy)とは、他者の心的状態を同定する認知能力として定義することが可能であり、この認知能力は一般的には、心の理論と呼ばれています。心の理論(theory of mind)とは、他者の意図や信念を推論する理論のことを指し、心の理論を測定する方法として代表的なものに誤信念課題があります。これまでの心の理論を中心としたASD者の認知的共感に関する研究では、ASD者は誤信念理解において、明確な困難さが見られるということ、ASD者は他者や自己の心的状態の推論に関する高次の意識的過程に困難さを持つなど、ASD者は認知的共感に困難さを持つという知見が多く見られています。

自閉スペクトラム症と情動的共感について

情動的共感(emotional empathy)とは、認知的共感によって検出された相手の心的状態に対して、適切な感情的反応を引き起こす働きとして定義されています。ASD者の情動的共感に関しては、一致した見解が得られておらず、その定義や焦点を当てる側面によって結果が異なると考えられています。

ASD者の情動的共感に関しては、表情の模倣・行動の伝染・生理反応などから様々な研究が見られるがその結果は下記のようにまとめられています。意図的な模倣に関しては、ASD者における障害は特に見られないと考えられています。一方、自発的な模倣や行動の伝染に関しては、特別な配慮がない状況ではASD者であまり起こらない可能性がありますが、ASD者の状況への関与度を上げることやASD者に行動の生起に重要と考えられる部位(目や口)への注意を促すことで定型発達者と同程度の反応を引き出しうるという結果が得られており、また、生理反応の研究に関しては結果が混在している状況となっています。

研究動向の整理と新たな視点について

ASD者と共感性の関連について、共感性を認知的共感と情動的共感とに分けて見てきた結果、ASD者には認知的共感の困難さが見られ、情動的共感に関しては、結果が混在している状況となっています。

認知的共感と情動的共感の中のどの機能(表情認識など)に注目するかで、ASD者と定型発達者との間で結果に差が生じると考えられており、認知的共感と情動的共感をそれぞれ1つの構成概念と見るよりも、情報認識や模倣というような個々の機能の水準で見た方が、ASD者の共感性の特徴を把握する上でより正確な認識に至る可能性が高いとし、今後の更なる概念の整理が必要であると考えられています。こうした研究結果が一定の結果を示さない原因として、診断の客観性や、ASDの重症度や知的能力・理解力を合わせる困難さがあることも、結果へのばらつきの原因となっていると考えられています。

発達障害者と定型発達者との比較をおこなう際に、類似性仮説についての言及もあります。類似性仮説とは、同じ症状を持つ者同士が集まる自助グループは、そのような症状を持たない他者には共感されにくいことが、その場では共感されやすいという特徴を持つものであり、これまで共感が困難とされてきたASD者が自助グループ内においては他者に共感し、他者から共感されるということを示唆されています。そのため、ASD者の共感性の困難さを当事者のみに原因帰属することに疑問視されています。

 

文献


赤木和重(2010)認知の発達と内面世界.別府哲・小島道正(編)「自尊心」を大切にした高機能自閉症の理解と支援.有斐閣選書,54‐79.
アメリカ精神医学会 高橋三郎・大野裕(監訳)(2014)DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル.医学書院.
浅田晃佑・熊谷晋一郎(2015)発達障害と共感性‐自閉スペクトラム症を中心とした研究動向‐.心理学評論,58(3),379‐388.
綾屋紗月・熊谷晋一郎(2008)発達障害当事者研究.医学書院.
傳田健三(2017)特集:心身医学の臨床における発達障害特性の理解,自閉スペクトラム症(ASD)の特性理解.心身医学,57,19‐26.
松崎泰・川住隆一・田中真理(2016)自閉スペクトラム症者の共感に関する研究の動向と課題.東北大学大学院教育学研究科研究年報,64(2),69-86.
岡沢秀彦・小坂浩隆(2015)自閉スペクトラム症者の共感性‐浅田・熊谷論文へのコメント‐.心理学評論,58(3),389‐391.
千住淳(2014)共感と自閉スペクトラム症.梅田聡(編)岩波講座,コミュニケーションの認知科学2,共感.岩波書店,101-121.
梅田聡(2014)共感の科学,認知神経科学からのアプローチ.梅田聡(編)岩波講座,コミュニケーションの認知科学2,共感.岩波書店,1-29.

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