知的障害は、DSM-5によると発達障害の一つだと見なされています。
ASDやADHD、LDなどの発達障害は、特徴的な要素が見られます。
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一方で、知的障害は、全般的な遅れのため、その特徴がわかりにくいこともあります。
著者は長年療育現場で働いており、知的障害のある子どもたちも多く見てきていますが、一人ひとり状態像は多様だと実感しています。
その中でも、知的障害のある子とそうでない子には特徴的な違いも見られます。
そこで、今回は、知的障害のある子とそうでない子の特徴の違いと支援方法について、著者の療育経験も交えながらお伝えしていきます。
今回参照する資料は「立松保子・立松英子(2011)保育者のための障害児療育-理論と実践をつなぐー改訂版.学術出版会.」です。
知的障害のある子とそうでない子の特徴の違いについて
以下、著書を引用します。
言語を使って考える能力や、新しい場面で臨機応変に行動する能力は伸びにくいということが知られています。抽象的な思考や、変化する環境に合わせて行動することが、最も長く残る困難といえるでしょう。
著書の内容から以下に2点に特徴があることがわかります。それは・・・
①抽象的思考が苦手
②新しい環境への適応能力が弱い
の二つです。
①抽象的思考が苦手
抽象的思考とは、物事の共通性を抜き出して一般化したり、物事の大まかな内容を漠然と把握することです。
つまり、自分がいる状況の大枠を理解することが知的障害のある子どもには非常に難しいということになります。
私たちは、自分が置かれて状況を、これまでの経験と知識を元に漠然と把握しながら生活しています。
こうした抽象的思考が苦手だと、自分が置かれている状況の全体像の理解が難しいということになり、不安感や混乱が強くなります。
それは、些細な刺激や変化にも敏感になり不安を持ちやすいとも言えます。
また、生活だけでなく、勉強でも苦手さが見られます。
学校の勉強も学年が上がるにつれて、国語では物語の全体像や抽象的な説明分を理解したり、算数では数式も抽象度が増してきます。
こうした抽象度の高い内容を理解することは、知的障害のある子どもにとってはとても大変なことです。
②新しい環境への適応能力が弱い
抽象的思考が難しいということは、新しい環境への適応にも弱さが出てきます。
知的障害のある子どもの多くは、変化のある環境、新しい環境にとても強い不安感を抱きやすい傾向があります。
それは、一般的には些細な変化であっても本人にとっては大きな変化となる場合が多くあります。
それでは次に、上記の内容を踏まえた支援方法についてお伝えします。
知的障害児への支援方法について
①抽象的思考の苦手さへの支援方法
知的障害のある子どもが得意とすることは、繰り返しの経験により生活スキルを高めること、経験値を積み上げることです。
そのため、抽象的な内容を教えようとするよりも、具体性のあること、生活の中で繰り返し体を使って物事を学ぶことがとても大切になります。
著者は、療育現場で日々の活動の中で体を使って物事を学習することを大切にしています。
例えば、ボール遊びや追いかけっこなどの運動遊び(全身運動)、お絵描きや制作遊び(細かな手を使った遊び)、お店屋さんごっこなどのごっこ遊び(イメージする力が必要な遊び)などに繰り返し取り組んでいます。
子どもたちにとって、イメージしやすい具体性のある遊びをくり返すことで、子どもたちの抽象的思考の土台となる能力が鍛えられると感じます。
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②新しい環境への適応能力が弱いことへの支援方法
新しい環境への適応能力が弱いということは、できるだけその中での変化を少なくすること、事前に安心感のあるものを準備しておくことが支援として大切になります。
新しい環境に移行する時期は誰にでもあるかと思います。
例えば、学童期であれば、小学校に上がる移行の時期、学年が変わり新しい担任の先生やクラスメイトとの出会い、運動会や学習発表会などの行事があるかと思います。
こうした大きな変化だけではなく、小さな変化も大きな変化と感じるケースがあります。
例えば、放課後等デイサービスでの活動時間や活動内容の変化、関わるスタッフがいつも違う、遊びたい友だちの欠席や遊びたいおもちゃや部屋を他児が使っているなど様々あるかと思います。
著者はこうして変化や違いに対して、事前に伝えることを大切にしています。
事前に伝えること、そして、その上で安心できる、もの・人・空間などを提示するように心がけています。
もちろん、事前に伝えるべき内容は子どもによって異なります。
大切なことは、子どもたち一人ひとりが何に不安や混乱を抱きやすいのかということを他のスタッフ(学校やご家庭も含め)と一緒に情報収集していくことにあります。
こうした情報を元に、新しい環境に対して安心できる環境(もの・人・空間)を設定することが可能になっていきます。
重要な点は、些細な変化にも不安感を抱きやすいという視点であり、それは、抽象的な思考が難しいといってことも関連しているという理解です。
以上、知的障害のある子とそうでない子の特徴の違いと支援方法について見てきました。
知的障害のある子どもは当然一人ひとり違います。
一方で、抽象的思考の苦手さや新しい環境への適応が弱いことも共通して見られるのも特徴としてあります。
私自身、まだまだ未熟ですが、現場での実践から子どもたち一人ひとりが何が苦手であり、どのような支援や配慮があれば安心て生活できるのかを考え続けていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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立松保子・立松英子(2011)保育者のための障害児療育-理論と実践をつなぐー改訂版.学術出版会.