人が何かを経験することは新たな気づきや社会への適応において大切なことです。
私自身、療育現場で発達障害児への支援をしていますが、その中で、生活経験を繰り返すことで様々な成長が見られます。
もちろん、発達障害児に対しては特別な対応や配慮などもしておりますが、それがメインというよりも、何かを体験するといった経験を積み重ねていくことがとても大切だと実感しています。
そこで、今回は、発達障害児が生活経験を繰り返すことで獲得するものについて療育現場からその重要性をお伝えしていこうと思います。
私は現在、放課後デイサービスで療育をしていますが、そこには発達につまずきのある多くの子どもたちが利用しています。
障害特性でいうと、コミュニケーションへの支援や見通しなどの伝えなど、苦手なところへの対応は一人ひとり行っていますが、長いスパンで関わることが多いため、新たな場所に慣れることが実際にはとても大切だと感じます。
そうした環境の中で、これまでまだ獲得していなかった、あるいはまだ獲得途上である、新しい大人への信頼や友人関係の構築、人に自分の気持ちを伝えること、ルールを理解すること、やりたい遊びに取り組む自発性など多くのことを子どもたちそれぞれの歩みの中で獲得していきます。
つまり、経験総量を子どもたちにたくさん与えられるかという観点が重要なのだと思います。
以下に、ある事例から生活経験を重ねることの大切さを私自身が痛感したケースについてお話します。
ここではそのお子さんをA君とします。A君は、最初に放課後等デイサービスを利用した頃には、とにかく落ち着きがなく、時間があくと(手持ち無沙汰になるなど)他児にちょっかいを出したり、物を投げたりするなど、大人や他児とうまく関わることができない、そして、活動の中で何をすればいいのかなどよくわからずにいました。
私たち支援者は、A君に対して、その日のスケジュールの流れを本人と相談していきながら、楽しめる活動を一緒に考えていきました。
まず取り組んだのは大人側が様々な遊びを提案していきました。A君は遊びを通して、遊びたい大人が見つかり、その中で安心感と楽しさを得ていったように思います。
次第に自分の言葉から「今日は○○さんと遊びたい!」と期待して活動に参加する様子も増えました。さらに、「今日は○○さんと○○をして遊びたい!」と自分からやりたいことを希望することも増えていきました。
そうした中で、大人だけではなく他児との関わりも増えていきました。他児が遊んでいる様子を見て「自分もやりたい!」「○○君と今日は遊びたい!」など、対人面でも広がりが見えていきました。
こうした経験を重ねていくことで、その日のスケジュールを自分で考えることも増えていきました。例えば、「今日は最初は○○さんと○○して遊ぶ。おやつの後は、○○する」という感じです。
こうした活動への見通しが持てるようになってきたこと、そして、人との繋がりや関わりが増えてきたことがおそらく要因となって、当初の落ち着きのなさや、他児へのちょっかいや、物を投げるなどの行為は非常に減ったように感じます。
こうした変化は急激には起こりませんが、年単位で振り返ると非常に変化を感じます。
そして、こうした変化の背景には、障害特性への対応や配慮に加え、生活経験を繰り返したことで本人が身体を通して学習したところが大きかったのではないかと思います。
今回はA君のケースを取り上げましたが、生活経験の繰り返しで多くの変化が見られた事例は豊富にあります。
私たちは生の体験を通して、多くのことを学習していきます。特に子どもは自分の体を通して学習していく要素が強いため、リアルな体験を豊富にさせることが大切です。
今後も、経験の持つ重要性について療育現場を基点に子どもたちに提供し、共に楽しい活動を作り上げていきたいと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。