発達障害の治療には様々なものがあります。
治療する上で重要なのが問題を見極めることです。
そして、その問題が生物学的要因か?心理学的要因か?社会的要因か?を見分けることがその後の治療(支援)においてとても大切な視点になります。
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それでは、問題が心理学的要因の場合には○○療法といったアプローチが有効なのでしょうか?
今回は、発達障害の治療について、著者の療育経験も踏まえ、心理学的要因へのアプローチとして、理解と共感の重要性についてお伝えします。
今回、参照する資料は「本田秀夫(2013)子どもから大人への発達精神医学:自閉症スペクトラム・ADHD・知的障害の基礎と実践.金剛出版.」です。
「理解と共感」の重要性について
著書の中では、心理学的要因への対応として以下の視点の重要性を述べています(以下、引用)。
「何とか療法」を正式に習得していなくても適切な治療は十分可能である場合が多いとすら思っている。
本人の心理学的要因の比重が大きい場合が心理療法の対象となるのであるが、この場合も、「何とか療法」を安易に採択する前にやれること、やらねばならないことはある。なかでも最も重要なのが「理解と共感」である。
著書の内容から、発達障害の治療として、心理学的要因の影響が強い場合には、○○療法を選択する以前にやれることがあり、そのために重要なのが「理解と共感」ということになります。
○○療法といった何か特別な技術を習得し実践する以前に、非常にシンプルではありますが、「理解と共感」という視点がとても大切だということです。
しかし、この「理解と共感」は言葉にすると単純そうですが、実際に行おうとすると非常に難しく、かつ、重要だという部分が多く出てきます。
それでは、以下に著者の療育経験を踏まえて「理解と共感」からのアプローチについて深堀していきたいと思います。
著者の経験談
著者は児童発達支援センターや放課後等デイサービスなどで、発達に躓きのある子どもたちの支援に携わっています。
その中で、難しいケースも多くあります。
今回は、当時未就学だった、ほとんど発語のない重度の自閉症のA君との関わりを取り上げたいと思います。
A君との関係づくりはとても苦慮しました。
A君との関係づくりで大切だと実感したことは、A君の興味関心を理解することでした。
A君の好きなことは、絵本や紙芝居などのある特定のページやフレーズなどでした。
○○の本が好きというわかりやすいものではなく、○○の本の○○の箇所といった非常に限定された部分でした。
しかも、読み方やイントネーションなどにもこだわりがありました。
A君との関係が少しずつできてきたのはこうした細かな部分への興味に著者が気づいたことが始まりだったと思います。
こうした興味関心からの関わりを、試行錯誤を繰り返しながら深めていく中で、次第に興味関心をベースに共感できたという体験が増えていきました。
こうした体験の蓄積が信頼へと繋がります。
A君との療育経験を振り返って見て思うのは、関係づくりの難しさを背景に持つ人に対して(心理学的要因の一つ)、○○療法といった何か特別な技法を活用しなくても、日々の関わりの中で、相手の行動や意図を理解しようと努力しながら、共感できたという経験を多く持つことが、関係づくりには重要であると実感することができました。
「理解と共感」は、相手の世界を深く知ろうとする過程の中で深まり、理解していく過程において共感も多く生じるのだと思います。
こうして相手のことを深く知ろうという行為が、発達障害領域において非常に大切なことだと思います。
もちろん○○療法といった専門技術が悪いわけではありません。
重要なのは、何か特別な技術を活用しなくても、発達障害の治療としては有効である場合が多くあるということです。
今後も多様な発達を理解していきながら、個々に応じた支援ができるように実践からの学びを大切にしていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
本田秀夫(2013)子どもから大人への発達精神医学:自閉症スペクトラム・ADHD・知的障害の基礎と実践.金剛出版.