療育現場で発達に躓きのある子どもたちと関わっているとどうしてもネガティブな面に目を向けてしまうことがあります。
そのため、子どもに対して叱責してしまうことも出てきます。
もちろん、我々専門スタッフは、感情的になって怒るということはほとんどなく、子どもたちの行動だけではなくその背景にある要因を考えて対応する必要があります。
感情的になって怒る場合には、その行為が命に直結するものであったり、他児を深く傷つける場合など、感情的対応を取らざるおえない場合があります。
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ですが、こうした注意や責をはできるだけ避けたいものです。
それは、子どもたちの自尊心・自己肯定感を深く傷つけることに繋がるからです。
それでは、こうした自尊心・自己肯定感を高める関わりは療育においてどのような意義があるのでしょうか?
今回は、著者の療育経験も踏まえ、自尊心・自己肯定感の視点から療育の重要性についてお伝えします。
今回、参照する資料は「平岩幹男(2012)自閉症スペクトラム障害:療育と対応を考える.岩波新書.」です。
自尊心・自己肯定感について
以下、著書を引用します。
叱られたり、注意されたりばかりですと、自分に対する自信がでてくるとか、明るい笑顔が出てくることは考えられません。そのために、セルフ・エスティーム(self-esteem)が低くなります。セルフ・エスティームには、自尊感情、自己肯定感、「自分を大切だと思える」などさまざまな訳がありますが、要は自信を持って生活できることだと考えています。
著書の内容から、セルフ・エスティーム、つまり自尊感情(自尊心)や自己肯定感は、自分に対する自信や自分を大切に思える感情ということになります。
○○さんはいつも自信があるなどと使われることがありますが、こうした自分に自信がある人は、他者からの肯定的評価を多く受けている場合が多いと思います。
また、子どもの場合だと、他者との比較ではなくその子の頑張りを褒めたり、認めるなど、その子自身をとても大切に思うことで、子どもの内部で揺らぐことのない自信が育っていくのだと思います。
自尊心・自己肯定感が低いとどうなるのか
以下に、再び著書を引用します。
「自分は駄目だ、うまくいかない」ことに慣れてしまうと、プライドも低くなり、生活や将来に対する意欲も低くなります。子どもから大人まで、発達障害を抱えている場合には、セルフ・エスティームの障害がでやすいのです。(略)まだ言葉の話せないカナー型自閉症の場合には、まず言葉を話せるように療育し、社会参加ができるようにしていくことが一つの目標になりますが、その療育の過程においてもセルフ・エスティームは大切にすべきです。
著書には、自尊心・自己肯定感の低下は、生活の様々な場面で負の影響が出てくること、そして、療育の中で、目標をもって少しずつ取り組みを進めていく過程の中にも自尊心・自己肯定感の視点は大切にすべきだと記載されています。
発達障害のある人たちは、能力の凸凹が多くありそれにより周囲との違いもあってか注意や叱責を受ける対象になりやすい傾向があります。
こうした叱責や注意を受け続けると、うつやひきこもり、反抗挑戦症など様々な二次障害に繋がると言われています。
療育において大切な視点に二次障害の予防があります。
二次障害を防ぐためにも普段の子ども関わりから、個別のニーズを理解すること、個別の配慮をすること、そして、その子の頑張りなどをしっかりと観察し褒めるといった自尊心・自己肯定感を高める取り組みを怠らないことがとても重要だと思います。
著者の経験談
最後に著者の療育経験から自尊心・自己肯定感の視点の重要性についてお伝えします。
小学5年生のA君は、忘れ物が多く、すぐに人の話に割って入るなど落ち着きのなさ、時間の管理などの苦手さからか注意や責を受けることが多くありました。
それが、学年が上がり、関わる周囲の大人たちが変わったことで褒められる頻度が増え、注意や責などがとても少なくなりました。
これは、A君自身が変わったというよりも、周囲の大人の対応が変わったという印象でした。
その後、数年が経ち、A君は忘れ物も減り、状況理解もできる点が増え、時間を見て行動する様子が増えてきました。
中でも、自分に対する自信が表情などから見てとれるようになってきました。
以前は、どことなく自信がない様子で、どうせまた怒られるのだろうという感じでした。
自信がついてきたAさんは、活動に取り組む意欲も向上し、日々、活き活きと生活する様子が増えてきたという印象があります。
こうしたケースは他にありますが、療育を通して、自尊心・自己肯定感を高める関わりは様々な生活場面やその後の人生に大きく影響するのだと実感しています。
私自身、まだまだ子たちの良いところや頑張りなどを観察する能力は未熟ですが、今後も子どもたち一人ひとりの良い所を褒めていきながら、自尊心・自己肯定感を高められるような関わりをしていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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平岩幹男(2012)自閉症スペクトラム障害:療育と対応を考える.岩波新書.