ADHD(注意欠如多動症)は、不注意、多動性、衝動性を特徴とした発達障害です。
今回は、ADHDの症状がなぜ起こるのかについて「三重経路モデル」といった説に焦点を当ててお話していきながら、私の身近なADHD特性のある方の行動などにも言及していこうと思います。
今回、参考資料は、「中島美鈴(2018)もしかして、私、大人のADHD?:認知行動療法で「生きづらさ」を解決する.光文社新書.」です。
「三重経路モデル」とは
三重経路モデル(triple pathway model)とは、抑制制御の障害(Inhibitory)、報酬遅延の障害(Delay aversion)、時間処理の障害(Temporal processing)といったADHDの三つの特性を説明した仮説です。
この説を提唱したのは、エドモンド・ソヌガ・バークらとった心理学者たちであり、バークらは、ADHDの子供の特徴を検査によって分析し、まだ仮説の段階ですが、ADHDの特性を3つとしています。
以下に、それぞれの特性について見ていきます。
1つ目に、抑制制御の障害で、これは集中すべきことがあるのに、他に注意がそれてしまうなどの障害です。抑制制御の障害によって起こる症状として次のようなものがあります。
・ケアレスミス:目の前の課題以外に気をとられて起きる
・聞き洩らし:他のことに注意が向き、聞くべき内容に集中できない
・先走った行動:刺激に対する反応を抑制できない
・忘れ物:出かけることが先に立ち、持ち物を確認することができない
・なくし物:特定の位置に物を置く前に、他にことに注意が向いてしまう
・計画的な仕事ができない:予定していた課題より他の興味に気が移ってしまう
2つ目として、報酬遅延の障害で、これはすぐに手に入る報酬を好む特性のことをいいます。ですので、継続して取り組まないと成果のでないものは集中の維持が難しくなります。例えば、植物の飼育や観察日記はある程度時間をかけないと目に見える成長は見られないため、苦手であると考えられます。逆に新規性のあるものを好む傾向にあります。また、我慢することが苦手です。そのため、他の人が話していてもそれを遮って話し始めることが傾向としてあります。
ゲームやギャンブルなどにハマるのも直ぐに報酬を好むADHDの報酬遅延の障害からくるものだと考えられています。
3つ目として、時間処理の障害で、これは時間の経過を感覚的につかむ能力に関わる障害のことをいいます。例えば、カップラーメンを作るときに、皆さんは時計やキッチンタイマーを使って時間をはかるかもしれませんし、時計などを使わずに感覚ではかるかもしれません。ADHDに人の中には、この感覚で時間をはかることが苦手で気がついたら麺がのびきっていたなんてこともあります。このように、時間処理の障害は、実際の時間と自分の感覚による時間が大きくズレることをいいます。
このため、仕事や家事などで本人があと○○分で終わるだろうといった予測も、実際には大きくそれを上回ることがあります。そのため、思うようにことが進まない、予定通りにいかないといった状況が多くでてきます。
著者の体験談
以上がバークらの三重経路モデルの概説になります。
ここからは私がADHDの方やADHD傾向のある方と実際に関わってみて感じたことをお話していこうと思います。
私自身、現在、放課後等デイサービスの支援員として働いているため、今回は子供のADHDあるいはADHD傾向のあるお子さんの事例を取り上げその行動特徴について見ていこうと思います。
うちの事業所に通う小学2年生A君は、学校を終え楽しみに事業所にやってきます。
A君は学校のものを「これ使う」と言って床に出しっぱなしにすることが多くあります。最終的に帰り支度の際に自分が出していたことを忘れそのまま帰ろうとすることが何度もありました。また、事業所でやろうとして計画していた活動のことも、他に注意がそれるとその活動事態を忘れ他に没頭することがあります。このような特徴は先述した抑制制御の障害と関連があるのではないかと思います。
また、大人がお子さんたちの前で、活動の予定やルールなどについて話しているときも、一人勝手に話し出したり、大人や他児が話しているとすぐに割り込んで話しに来ることが多く見られます。これは、我慢することが難しいといった報酬遅延の障害との関連が考えられます。
時間への意識も苦手で、もうすぐ活動が終わりそうという感覚も大人が声をかけないとわからないことが多くあります。よく「遊べる時間はどのくらい?」と聞いてくるため、大人が正確な時間を応えると「それってたくさん?」などと聞いてきます。これは、時間の経過を感覚的につかむのが苦手といった時間処理の障害が影響していることが考えられます。
こうした特徴はもちろん低学年のお子さんたちであると特に状況によって見られるかもしれません。
大切なのは、こうした特性を生活場面の中で考えることは本人の生活へのつまずきの原因を知ることに繋がり、行動の要因を考えることで大人からの注意や叱責を回避できることに影響してくるものだと思います。
今後も発達障害のある方、あるいは発達障害傾向のある方の理解を深堀りしていきながら、より良い支援を考えていこうと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
中島美鈴(2018)もしかして、私、大人のADHD?:認知行動療法で「生きづらさ」を解決する.光文社新書.