遊びを通して子どもたちは様々な能力を獲得していきます。
中でも、〝自制心″といった自分自身をコントロールする力との関連が明らかとなっています。
それでは、具体的に遊びと自制心にはどのような関係があるのでしょうか?
そこで、今回は、遊びと自制心の関係について、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「ピーター・グレイ(著)吉田新一朗(訳)(2018)遊びが学びに欠かせないわけ 自立した学び手を育てる.築地書館.」です。
遊びと自制心の関係について
以下、著書を引用しながら見ていきます。
遊びを通して子どもたちは、自分の欲求や感情をコントロールするのを学びます。
遊びは、脳の中で不安や怒りをコントロールしている部分の発達と、ストレスの多い状況で効果的に行動するのに欠かせないことが明らかになっています。従って、子どもに遊ぶ際の最大限の自由を提供している社会と、もっとも自制心をもった人間をつくり出している社会とが同じである、というのは偶然ではないのです。
著書の内容から、〝遊び″を通して、子どもたちは〝自制心″つまり、自分の欲求や感情をコントロールする力を獲得していくと考えられています。
また、動物を対象とした研究によって、遊びの効果はストレスのある状況において、自分の不安や怒りをうまくコントロールしながら環境に適応することと関連があることが分かってきています。
そして、遊びを最大限に提供している社会とそうでない社会との間には、自制心をもった人間といった観点から差異が見られると言われています。
遊びは、自分の欲求や衝動に突き動かされて取る行動です。
そのため、自分の〝やりたい″〝こうしたい″〝こうありたい″という欲求や衝動がベースとなっていますが、その中で、思い通りにいかないことも多く生じます。
例えば、砂場でトンネル堀をしていたところ、完成間近にトンネルが崩れてしまった!その瞬間ショックで泣く!しかし、粘り強く修復し始める、といった様子は、自分の自制心との戦いでもあります。
その他、自分が使いたいおもちゃがあるが、そのおもちゃを他の子どもが使っている、そのため、少しの時間我慢する必要があるといった状況も自制心のコントロールを対人関係の中で学ぶ機会の例です。
このように、子どもたちは、遊びを通して自制心を獲得していきます。
周囲から強制される部分が少ない〝遊び″であるからこそ、自分の欲求にうまく向き合う力がつくのだと思います。
著者の経験談
著者が関わる療育現場の子どもたちは日々遊びを通して多くのことを学んでいます。
上記に示した〝物の貸し借り″などの順番を待つことも〝自制心″の発達に関連していくものだと実感しています。
例えば、以前は自分が使いたいものを周囲には一切貸すことなく使い続けていた子どもが、他児が使いたい思いを伝えたり、遊びのルールなどを設定していくことで、少しずつではありますが他児との間で折り合いをつけれるようになった子も多くいます。
もちろん、自閉症など発達特性をもつ子どもたちであるため、特性に配慮する必要は前提としてあります。
また、一つの〝遊びを完結させる″中で様々な自制心との戦いがあることも実感できます。
例えば、その日のうちに完成させたい工作があるも思い通りに作業が進まない→少しずつイライラ感が生じる→一方でうまく進んだ所もある→最終的にここまでにしようと決める、など自分の中で折り合いをつける力もまた自制心の育ちと関係していると思います。
子どもたちは、遊びを通して様々な場面で〝自制心″と向き合っているのだと著者はこれまでの療育を振り返って見て強く感じます。
これに加えて、発達障害など発達に躓きのある子どもたちには、こうした中で特別な配慮を行うことが必要不可欠であることも実感しています。
以上、【遊びと自制心の関係について】療育経験を通して考えるについて見てきました。
子どもたちに限らず、私たち大人にとっても、日々〝自制心″と向き合う場面があります。
〝自制心″の育ちは、強制された環境の中で自己を押さえつけられて育つというよりも、〝遊び″といった自由な環境下において自己の欲求や衝動に向き合う中で育つ部分が多いのだと感じます。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も遊びの持つ意味や遊びがどのような能力の育ちに貢献するのかを学びなら日々の実践を大切にしていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
関連記事:「【自由遊びとは何か?育まれる力とは何か?】療育経験を通して考える」
ピーター・グレイ(著)吉田新一朗(訳)(2018)遊びが学びに欠かせないわけ 自立した学び手を育てる.築地書館.