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【見通しを持ち、やり遂げる力へ】自閉症児の実行機能支援の体験と理論

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自閉症児によく見られる、計画を立てて行動をする苦手さや切り替えの困難さなどで思い悩んだことはありませんか?

こうした行動の背景には、〝実行機能″の難しさがあると考えられています。

例えば、宿題などやらないといけないタスクへの計画性がないことや、特定の活動に没頭することでなかなか次の行動に移せないといった特徴は自閉症児に関わる人を悩ませるものだと言えます。

かつての著者も〝実行機能″の弱さに対して、どのような関わりができるのか非常に悩んでいた時期もありました。

 

今回は、現場経験+理論+書籍の視点から、自閉症児の実行機能支援のヒントをお伝えします。

 

※この記事は、臨床発達心理士として10年以上療育現場に携わり、修士号(教育学・心理学)を有する筆者が執筆しています。

 

 

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目次

1.実行機能の困難さに関するエピソード

2.実行機能を理解する理論・書籍

3.支援の経過と結果

4.まとめ

 

 

1.実行機能の困難さに関するエピソード

今回は、自閉症児のA君(当時、小学校6年生)の放課後等デイサービスでのエピソードを紹介します。

A君には、顕著な計画性を立てることの困難さと、注意の切り替えの困難さが見られていました。

例えば、やりたい活動に興味が移ると時間を忘れるほど没頭することで、大人の声がけが入らなくなることもあり、その結果、先の予定が次々と崩れていってしまうことがよくありました。

帰り時間が来ても〝ちょっと待って!″〝あと、少し!″を繰り返すことで、ズルズル帰り時間がおしてしまうことも多くありました。

また、遊びたい気持ちが強いことで、帰り時間が迫ってきても〝まだ、○○して遊びたい!″〝○○の遊びをしていないから帰らない!″など言動も多く、こうした咄嗟の思い付き・衝動的とも言える行動がA君の計画性の弱さを感じるところでもありました。

著者はA君の計画性の弱さ、切り替えの困難さに対して、どのような支援をしていけば良いか試行錯誤の状態でした。

つまり、実行機能への支援を長期の期間にわたってどのように行っていけば良いかという課題だと言えます。

 

 

2.実行機能を理解する理論・書籍

自閉症児(者)が〝実行機能″に困難さをよく持っていることは、著者は知ってはいましたが、具体的に実行機能とは何か?実行機能のどの部分に特に弱さがあるのか?までは把握できていませんでした。

この点に関しては、〝実行機能″に関する様々な書籍を基に以下、簡単に整理した内容を記載します。

 


実行機能″とは、活動をコントロールする能力と定義されています。

別な表現で言えば、〝やり遂げる力″とも言われています。

〝やり遂げる力″には、他に〝グリット″がありますが、より短期的な活動のコントロール力が〝実行機能″であるのに対して、より長期的な活動のコントロール力が〝グリット″だと考えられています。

実行機能には、更新、抑制、シフトの3要素があると言われています。

更新とは、新しい情報に注意を向けて、その情報を記憶し処理することを指します。ちなみに、ワーキングメモリとの関連性が強いと言われています。

抑制とは、必要な情報に注意を向けるために、他の情報や刺激に注意を向けないことを指します。

シフトとは、必要な活動に向けて、今取り組んでいることから気持ちや注意を切り替えることを指します。

そして、自閉症児(者)が苦手としているものとして、〝注意の切り替え″:切り替える力と、〝プランの実行″:段取りを立てて実行する力の2つがあると考えられています。

注意の切り替え″とは先に見た3要素のうち〝シフト″に該当しています。

そして、〝プランの実行″とは、今からやるべきタスクの順番を決めタスクをこなしていく力であるため、これはまさに〝実行機能″そのものであるため、先の見た3つ全ての要素が必要だと解釈できます。

そのため、自閉症児(者)への〝実行機能″を考える際には、〝実行機能″の3つの要素を踏まえた支援が鍵になっていくと考えられます。

 

 


さて、ここから先は自閉症児(者)への実行機能支援について見ていきます。

中でも、著者が大変参考になった著書を先に紹介致します。

書籍①「下山晴彦(監修)(2018)公認心理師のための「発達障害」講義.北大路書房.

書籍②「森口佑介(2021)子どもの発達格差 将来を左右する要因は何か.PHP新書.

 

それでは、書籍①を引用しながら、実行機能支援の具体的な内容について見ていきます。

・意思決定の難しさへの支援

➤幼児から、選択をさせるなどからスモールステップで、自分で決定をする経験をさせる

 

・プランニングの弱さへの支援

➤プランニング、優先順位をつけるなどの具体的な支援

➤切り替えの悪さへの具体的な工夫(スケジュール、タイマーなど)

➤自分の感情や対人関係を振り返って考えられるようなメタ認知への支援

 

書籍①内容のポイントは、〝意思決定の難しさへの支援″と〝プランニングの弱さへの支援″だと記載されています。

自閉症児は、自ら先の行動を決めることに苦手さを持っています。

そのため、小さい頃から、物事を自分の意志で決めていく経験の積み重ねが大切だと言えます。

この力は、障害児・者支援で必要な〝意思決定支援″とも通じるものがあり、自分の人生を選択していく力をつけていくことが、〝実行機能″の力の基盤を作っていくものだと解釈できます。

 

その上で、次に、〝プランニングの弱さへの支援″といったより具体的な支援内容も必要になっていきます。

中でも、著者はスケジュールの提示やタイマーの活用等で切り替えをよりスムーズするアプローチは非常によく使いますし、支援の入り口として誰もが使いやすいものだと感じています。

次に、やりたいこと・やるべき活動が複数ある場合の優先順位付け(プランニング)もよく活用しています。

活動の初めの導入として、子どもとその日の活動を計画する際によく活用しています。

また、メタ認知への支援も子どもとの関連性が深まっていく中で使うことがあります。

メタ認知への支援は、子どもの認知・行動・感情を関連付けることに役立ち、こうした支援によって、子どもは過去の様々な経験を関連付け、先の行動に繋げていく力を養うことに寄与していくと感じています。

以上の具体的な支援内容が整理できてくることで、長期的な視野を持って、どのようにして実行機能の力を支援していけば良いかという根拠を持った支援が見えてくるのだと思います。

 

 


それでは、次に、書籍②を引用しながら実行機能支援についての他のアプローチ方法についても見ていきます。

むしろ実行機能などにとって大事だったのは、クラスの情動的な雰囲気や先生の指示の仕方でした。先生のポジティブな声色とか、子どもがお互いに承認し合うかどうか、先生の指示が上手か、などが実行機能などと関わっていることが示されています。

 

実行機能支援には、個別・集団など様々なアプローチ方法があります。

先に見た、自閉症児へのアプローチ方法もその一つだと言えます。

一方で、幼児教育において、実行機能の力を育む上で最も大切なことは、特定のプログラムよりも、関わる大人との関係性であったり、子どもに対する大人の関わり方であったり、クラスの雰囲気などであると記載されています。

この視点は、非常にインパクトのある結果だと言えます!

つまり、実行機能の力を高める具体的な個別・集団アプローチ以上に、子どもたちが過ごす環境が安心できる居場所になっているかが最大の要因だという結果だからです。

著者は、この視点に驚きを覚えながらも、これまでの療育経験を踏まえて見ても、子どもの成長が大きく見られる最大の要素として、子どもたちが過ごす環境・居場所がいかに大切であるかをこの身をもって体感しているたため、不思議と直ぐに納得できたことをよく覚えています。

以上の観点から、個別のアプローチに加えて、子どもたちが安心して過ごせる環境作りが、実行機能の育ちにとても必要であることを強く学ぶことができました。

 

参考までに、実行機能への支援に関する記事を以下に記載致します。

関連記事:「【実行機能への支援①】個別の支援方法について考える

関連記事:「【実行機能への支援②】集団の支援方法について考える

 

 

3.支援の経過と結果

その後のA君に対して、A君が安心して過ごせる環境・居場所作りを前提に、具体的な実行機能への支援も継続していきました。

例えば、スケジュールの確認、切り替えを促すための早めの声掛け、活動後の振り返り(○○したからうまくできた点・できなかったときにもっと○○すれば今後はもっとうまくいく可能性があるなど)の対応を取っていきました。

その結果、A君は、自らの行動を、言葉を通してよく振り返る習慣が出てきました。

例えば、〝○○したからうまくいったと思う″、〝次からは○○すればもっとうまくいくかもしれない″など、メタ認知の力がとても高まっていると感じる様子が出てきました。

また、先に予定の確認や切り替えを促す対応をしたことで、A君は、次の活動への切り替えが非常にスムーズになっていく様子も増えていきました。

以前のような帰り時間が遅れることはほとんどなくなっていきました。

さらには、自分がやりたいこと・やるべきことを少しずつではありますが、計画的に進める様子も増えていきました。

その結果、活動において、自分がやりたいことを計画し実行することで、できた喜び!達成感を味わう!様子もよく見られるようになりました。

そして、こうした変化が出た最大の要因として、著者はA君が放課後等デイサービスに安心感を持って過ごすことができる姿が高まっていったことがあると感じています。

 

大切なことは、自閉症児(者)が持つ、認知特性を理解していきながら個別支援を継続していくこと、そして、その前提として、子どもたちが安心して過ごせる環境を整えていくことにあると感じています。

 

 

4.まとめ

自閉症児(者)は、実行機能に弱さを持っています。

実行機能は、様々な要素から構成されており、自閉症児(者)は、〝注意の切り替え″と〝プランの実行″に困難さが見られることを理解していくことが大切です。

そして、支援の観点において、〝意思決定の難しさへの支援″と〝プランニングの弱さへの支援″といったポイントを踏まえた具体的な支援が必要です。

さらに、実行機能の育ちに最も大きく貢献していると考えられている(幼児教育の対象とした研究)安心できる環境・居場所の必要性も踏まえた環境作りがとても重要な観点だと言えます。

 

 

書籍紹介

今回取り上げた書籍の紹介

  • 下山晴彦(監修)(2018)公認心理師のための「発達障害」講義.北大路書房.
  • 森口佑介(2021)子どもの発達格差 将来を左右する要因は何か.PHP新書.


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