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【自閉症児のこだわり行動に悩んだ日々】理論と経験で見つけた支援の糸口

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自閉症児の〝こだわり行動″で、思い悩んだことはありませんか?

例えば、自閉症児には、時間などのスケジュールへのこだわり・物の配置へのこだわり・手順へのこだわりなどがよく見られます。

周囲から見れば、〝なんでこんな些細な事・細かい事にこだわるのか!″という思いから、融通が利かないと感じることがあるかもしれません。

しかし、こだわり行動を軽視して関わると、時には、〝パニック・癇癪″など一大事に発展してしまうこともあります。

長期化すれば〝二次障害″のリスクも高まります。

そのため、関わり手からすれば、どのように理解し関われば良いのか非常に悩まされる行動だとも言えます。

そして、かつての著者も同じような理解や支援の難しさといった悩みをもっていました。

 

今回は、現場経験+理論+書籍の視点から、自閉症児のこだわり行動への支援のヒントをお伝えします。

 

※この記事は、臨床発達心理士として10年以上療育現場に携わり、修士号(教育学・心理学)を有する筆者が執筆しています。

 

 

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目次

  1. こだわり行動のエピソード
  2. こだわり行動を理解する理論・書籍
  3. 支援の経過と結果
  4. まとめ

 

 

1.こだわり行動のエピソード

今回は、自閉症児のA君(当時、小学校4年生)の放課後等デイサービスでのエピソードを紹介します。

A君は、時間に関するこだわりが強いお子さんでした。

特に、帰宅時間に関しては、強いこだわりがあり、少し遅れそうになると、激しく怒り出す様子がありました。

ある日、著者が他のお子さんの対応に気を取られていたことで、A君の帰りの対応が遅れてしまうことがありました。

約10分遅れで送迎車両を出発した時のA君は非常にイライラしていましたが、著者は〝まぁ、大丈夫だろう″と考えていました。

しかし、自宅に着くと同時に、保護者の前で〝もう、行かない!″と大泣きしました。

その日を境に、しばらく放課後等デイサービスへの休みが続き、その後は、帰りのみ保護者の迎えになりました。

著者はA君の時間へのこだわりが〝ここまで強かったのか!″と驚いたと同時に、うまく理解・対応できなかったことに強く後悔し始めました。

このエピソードは、著者が自閉症児のこだわり行動についての理解が不十分だったことで起こったものだと思います。

 

 

2.こだわり行動を理解する理論・書籍

自閉症児のこだわり行動の理解と支援に関して苦慮している中で、ある書籍との出会いにより光が見え始めした。

その書籍とは、「本田秀夫(2017)自閉スペクトラム症の理解と支援.星和書店.」です。

この本の中で、〝「こだわり」保存の法則″というものが出てきます。

ちなみに、本田さんの様々な書籍で紹介されている法則です。

以下、著書を引用しながら「こだわり」保存の法則について見ていきます。

その人のこだわりたいというエネルギー量は、一生を通じてほぼ一定だという経験則です。こだわりのエネルギー全体の量は一定ですが、こだわりの対象は時々変わります。

 

「こだわり」保存の法則″によれば、こだわり行動の総エネルギーは生涯を通してほとんど変わらないということです。

もちろん、認知が発達することで、こだわり行動の対象が変わる場合もありますが、ここで重要なことは、こだわり行動は残り続けるということです。

著者は、この法則を知ったことで、自閉症児(者)は本来的にこだわり行動を持っており、生涯にわたりこの特性と付き合っていくものだということを理解しました。

そのため、こだわり行動を軽微に見たり、無理に変えようとして対応するのは間違いだということも同時に理解しました。

 

 


次に、こだわり行動への支援に関して参考になった書籍として以下のものがあります。

小嶋悠紀(2022)小嶋悠紀の「特別支援教育・究極の指導システム」①.教育技術研究所.

以下、著書を引用しながら支援のポイントについて見ていきます。

①できるだけ事前に知らせる(できれば、一日前。最悪、その日の朝には知らせる)。

 

②変更点を紙に書くなどして「見せる」。

 

③変更に耐えられるかどうか、予告し了承してもらう。

 

④耐えられたときに、しっかりと褒める。

 

支援に関するポイントは、〝安定させる″、〝変化・変更を起こさない″という前提をもとに、仮に変更が必要な場合には、事前の予告(提示)と、予告(提示)に対して、合意を取ることが必要だと言えます。

この合意を取る視点は、自閉症支援で重要視されている〝構造化″の概念に通じるものだと言えます。

著者は、この支援の視点を踏まえて見ても、改めて、自閉症児のこだわり行動の対象・強度を把握していきながら、事前に変化を起こさないような環境調整がとても重要だと理解しました。

 

 

3.支援の経過と結果

その後、〝こだわり行動は残り続けるもの″であり、支援上〝安定させる″、〝変化・変更を起こさない″といった視点を基に、A君への支援を継続していきました。

結果、A君は、帰りの送迎にも乗れるようになり、安定して活動できる様子が増えていきました。

また、高学年になる頃には、変更を事前に提示することで合意が得られる様子もでてきました。

例えば、〝今日の送迎は10分くらい○○の理由で遅れそうだけどいいかな?″→〝いいよ″といった具体に、緩やかに変化をつけても適応できる姿も出てきました。

大切なことは、事前に変更を伝えることです。著者はどんな些細な変更でも、A君に対して、事前の予告を徹底していきました。

このエピソードを通して、A君をはじめとした自閉症児(者)にとって、こだわり行動は変化し続ける環境の中で、自分自身を安心・安定できるためにとる大切な行動だということを強く実感できたように思います。

 

 

4.まとめ

自閉症児のこだわり行動は対象や強度は個々によって違いがあります。

そのため、自閉症児一人ひとりが何に強くこだわりを持っているのかを理解し、そのこだわり行動に対して、長期的な視野を持ちながら、変化・変更をできるだけ起こさない環境調整の仕方を工夫していくことが支援上大切です。

そして、安定・安心できる環境の中でこそ、緩やかな変化・変更への適応も可能になっていくのだと言えます。

 

 

書籍紹介

今回取り上げた書籍の紹介

  • 本田秀夫(2017)自閉スペクトラム症の理解と支援.星和書店.
  • 小嶋悠紀(2022)小嶋悠紀の「特別支援教育・究極の指導システム」①.教育技術研究所.


その他、自閉症児のこだわり行動の理解に参考になる書籍紹介

 

自閉症に関するお勧め書籍紹介

関連記事:「自閉症に関するおすすめ本【初級~中級編】

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