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【自閉症の心の理論の困難さについて】認知的な心と情動的な心から考える

投稿日:2023年5月10日 更新日:

「〝心の理論″とは、他者の意図、欲求、願望、信念、知識といった心の状態を推論する能力」のことを言います。

自閉症(自閉症スペクトラム障害:ASD)の人たちは、心の理論の獲得に困難さがあると言われています。

心の理論の課題には〝誤信念課題″といったものが使用されています。

つまり、〝誤信念課題″に正答できたかどうかで心の理論を獲得できているかどうかという一つの指標になるということです。

一方で、〝誤信念課題″による心の理論の獲得は、人の心の状態を読み取る力すべてを測ることはできないといった見方もあります。

 

それでは、自閉症児者の心の理論の困難さはどのような所に見られるのでしょうか?

 

そこで、今回は、自閉症の心の理論の困難さについて、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら、認知的な心と情動的な心といった視点から考えを深めていきたいと思います。

 

 

今回参照する資料は「子安増生(編)(2016)「心の理論」から学ぶ発達の基礎-教育・保育・自閉症理解への道-.ミネルヴァ書房.」です。

 

 

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認知的な心とは?

以下、著書を引用しながら見ていきます。

心の理論(theory of mind)は本来その用語が示すように、認知的な心(mind)を扱うものである。

 

著書にあるように、〝誤信念課題″に見られる心の理論の獲得は〝認知的な心″を扱っていると考えられています。

認知とは物事を知る働きを指しますが、自閉症の人たちは、他者の心の状態を読み取る際に、○○の時は○○といった意図が働いている、○○の時は○○の心情を抱いているなど、言語的にロジックに他者の心を推論していると言われています。

つまり、心の理論課題に通過した自閉症の人たちは、〝認知的な心″といった視点から他者の心の状態を読み取っている傾向が強いことが考えられます。

 

 

情動的な心とは?

以下、著書を引用しながら見ていきます。

一方実際の生活では、認知的な心だけでなく、相手が自分の言動を嫌がっている、あることを考えて嬉しいと思っているという、情動(emotion)を伴った心を理解する場面が少なくない。

 

自閉症児者とかかわる際に、何か通じ合えない違和感を持つことの多くは、この情動的な心における通じ合えなさに拠っているのである。

 

著書の内容から、自閉症児者が持つ心の理論の困難さは、特に〝情動的な心″によって現れると考えられています。

情動とは、例えば、Aさんが嬉しい感情を抱いた際に、Bさんにもその気持ちが言語を介せずにも通底する、通じあうといった特徴があります。

自閉症の人たちは、他者との情動の共有がうまくできない所があります。

そのため、他者の心の理解においても、認知的な心を通して推論するなど定型発達の人とは異なる情報処理をしていると考えられています。

 

 

著者の経験談

著者はこれまで様々な自閉症の人たちと療育現場を中心とした関わりがあります。

自閉症の人たちに共通する特徴として、情動の共有にどこか違和感を持つことが多くあるといったことが上げられます。

例えば、ある遊びを一緒にしていても、興味のある部分が独特なため、著者の方がその興味のある部分を把握していき寄り添う姿勢を持たないと、遊びを通しての情動の共有が難しくなってしまうことがあります。

また、成人の自閉症の人の中には、何となく著者が○○して欲しいといった言葉にできない思いを持っていても、その状況を踏まえた著者の表情などの様子から予測して動くということが少ないと感じます。そのため、しっかりと言葉にして伝えていく必要があります。

これらのケースに共通するのは、自閉症の人たちは、〝情動的な心″の読み取りが苦手であるということです。

そのため、特に子どもの場合であれば、関わり手が彼らの特性を理解し、興味関心を通しての情動の共有を意識的に作っていく必要があります。

また、成人の方の場合だと、可能な限り可視化していくということが必要です。例えば、曖昧な人の心の状態について、できるだけ言語化し、さらには○○して欲しいなどの要望も具体化して伝えていく必要があります。

このように、自閉症の人たちは、著者の経験からも〝情動的な心″の読み取りが苦手であるため、興味関心を通した情動の共有を基盤としながらも、認知的な心の発達が進んでいる人の場合には、可能なかぎり他者の心の状態を言葉にしていくことが大切な関わり方だと思います。

 

 


以上、【自閉症の心の理論の困難さについて】認知的な心と情動的な心から考えるについて見てきました。

振り返って見ると、心の理論に通過した(心の理論を獲得した)といっても、心の理論をはかる指標は人の心の状態の一部分である可能性が高いということを考えさせれます。

そのため、情動的な心も含めて、心の理論を考えていくことがとても大切であると感じます。

私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も心の理論についての理解を深めていきながら、その知見を療育現場で関わる子どもたちの理解へと繋げ、より良い実践を行っていきたいと思います。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

 

 

関連記事:「【心の理解の2種類の処理について】自閉症児者と定型発達児者との比較から考える

関連記事:「【人はどのようにして相手の心に気づくのか?】定型発達者と自閉症者の違いから考える

 

子安増生(編)(2016)「心の理論」から学ぶ発達の基礎-教育・保育・自閉症理解への道-.ミネルヴァ書房.

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-心の理論, 自閉症

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