発達理解・発達支援・ブログ

人間の多様な理解と支援を目指して!

心の理論 自閉症

【自閉症の人は自分の気持ちに気づきにくい?】自閉症の心の理論の特徴について考える

投稿日:2023年5月27日 更新日:

「〝心の理論″とは、他者の意図、欲求、願望、信念、知識といった心の状態を推論する能力」のことを言います。

自閉症(自閉症スペクトラム障害:ASD)の人たちは、心の理論の獲得に困難さがあると言われています。

心の理論というと、他者の心の状態を読み取る力といったことから〝他者″についての理解の視点が取り上げられることが多くあります。

 

一方で、自閉症の人は〝自分″の心の状態を読み取ることはうまくできるのでしょうか?

 

そこで、今回は、自閉症の人は自分の気持ちに気づきにくい?といった観点から、自閉症の心の理論の特徴について考えを深めていきたいと思います。

 

 

今回参照する資料は「下山晴彦(監修)(2018)公認心理師のための「発達障害」講義.北大路書房.」です。

 

 

自閉症の〝自己の心の理論″の特徴について

以下、著書を引用しながら見ていきます。

「心の理論」の障害だけでなく「自己の心の理論」にも障害があるのでは、ということが欧米で注目されるようになりました

 

ASDは、自分の感情をうまく認知できないために、将来的にうつ病や不安症になったり、社会での適応がいっそう困難になったりするリスクが高いと考えています。

 

著書の内容から、自閉症の人たちは、〝心の理論″の障害に加え、〝自己の心の理論″にも障害があると考えられるようになってきています。

そして、自分の気持ちへの認知ができない(弱い)ことが影響して、うつ病や不安症など社会適応の難しさが生じる可能性が高いと考えられています。

心の理論″とは、英語で〝theory of mind″と表記されます。

一方、〝自己の心の理論″とは、英語で〝theory of own mind″との表記があります。

〝自己の心の理論″とは、自分の感情状態への気づきや自分の感情を言語化する能力とも言えるかと思います。

自閉症の人たちは、他者の心の状態への理解の難しさに加え、自分自身の気持ち(感情)の理解にも困難さがあると考えられています。

補足として、〝自己の心の理論″の困難さには、〝心の理論″の障害以外にも、〝実行機能の障害″や〝弱い中枢性統合″なども影響していると考えられています。

 

 

著者のコメント

著者はこれまでの療育現場を通して、様々な自閉症の人たちとの関わりがあります。

その中で、自閉症の人たちは〝心の理論″の困難さといった〝他者の心の状態の理解の難しさ″が見られるのと同時に、自分の気持ちの理解にも難しさがあると感じることが多くあります。

例えば、他児から嫌なことをされた、または、嫌な出来事があった際に、何も話すことなく自分の気持ちに蓋をしているように見える子や、ただただイライラし続けている子もいます。

こうした子どもたちに、著者が自分の気持ちを言葉にして伝えることを促してもほとんど返答が来ないため、さらに、著者が子どもたちの気持ちを推測して〝○○があったから嫌な思いになったのかな?″などと問いかけると頷くといった感じです(何も返事がない場合もあります)。

一方で、うれしい気持ちを言葉にする方がうまくできる子どもたちが多いといった印象があります。

例えば、〝○○君と遊べて楽しかった!″〝○○遊びが楽しかった!″など肯定的な感情の方が理解しやすいように感じます。

さらに、肯定的・否定的感情を問わず、自己の複雑な感情認知となるとさらに難易度が上がると思います。

例えば、他児との関わりの中で、色々と嫌なこともあったが良いこともあり、結果として様々な感情を他児と共感できてよかったという体験は非常に複雑な感情が混ざっています。

白・黒と明瞭に分けることは難しいですが(そもそも感情とは主観的であり白黒をつけることが難しいのですが・・・)、人は様々な経験の中で快・不快といった感情を体験していきながら自分の内にある気持ちの変化(ゆらぎ)について理解していきます。

このような、複雑な感情状態についての言語化となると、大人の自閉症の方でも難しさがあるように感じます。

 

 


以上、【自閉症の人は自分の気持ちに気づきにくい?】自閉症の心の理論の特徴について考えるについて見てきました。

自分の気持ちを言葉にすることは想像以上に難しいことです。

そして、自分の気持ちを言葉にしていくためには、他者との共感や他者(大人)が気持ちを言葉にして伝え、それを理解する力が必要になります。

そのため、著者も子どもたちとの関わりの中で、気持ちを言葉にして伝えていくように心がけているのと同時に、子どもたちの感情の育ちに貢献する体験を常に与えていくことを目指しています。

私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も療育現場で子どもたちの感情の育ちに寄与していけるような療育を目指していきたいと思います。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

 

 

関連記事:「【自閉症の心の理論獲得の困難さについて】〝暗黙的心理化″を例に考える

関連記事:「【自閉症の心の理論の困難さについて】認知的な心と情動的な心から考える

 

下山晴彦(監修)(2018)公認心理師のための「発達障害」講義.北大路書房.

-心の理論, 自閉症

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

【自閉症の弱い中枢性統合への支援について】療育経験を通して考える

自閉症に人たちには様々な情報を統合することの苦手さ、つまり、〝弱い中枢性統合″があると考えられています。 一方で、物事の細部に注意が向く傾向があるといった細部知覚に優れている特徴もあります。 〝弱い中 …

【自閉症の〝こだわり″の特徴について】精神安定のバロメーターの視点から考える

自閉症(自閉症スペクトラム障害:ASD)の特徴の一つに〝こだわり″があります。 〝こだわり″と聞くと一般的に、仕事にこだわりがある、趣味にこだわりがある、などポジティブな面もあるかと思います。 &nb …

【心の理論から見た自閉症への支援②】療育経験を通して考える

「〝心の理論″とは、他者の意図、欲求、願望、信念、知識といった心の状態を推論する能力」のことを言います。 自閉症(自閉症スペクトラム障害:ASD)の人たちは、心の理論の獲得に困難さがあると言われていま …

自閉症の実行機能について考える

自閉症を理解する上で、様々な視点があります。 その中には、相手の意図や信念を理解する能力の「心の理論」の困難さや、全体よりも細部にこだわる「弱い中枢性統合」や、感覚の過敏さ・鈍感さなどがあります。 さ …

【自閉症の負の記憶への対応】3つの対応方法を通して考える

著者の療育現場には、自閉症児も多くいますが、中には、過去の〝負の記憶″をしっかりと覚えている子どもがいます。 例えば、○○の時に言ったあいつの言葉や態度は許さない、○○が作ったルールはむかつく、など何 …