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【発達障害児の社会性の育ちを支援する】現場経験と理論を統合した実践ガイド

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発達障害児への支援において、どのようにして社会性を身につけていけば良いかで思い悩んだことはありませんか?

そもそも、社会性が身につくとはどのようなことなのでしょうか?

発達障害児、中でも、自閉症児は対人コミュニケーションの困難さを特徴としているため、社会性の育ちにおいて難しさがあると言われています。

かつての著者は自閉症児をはじめとした発達障害児との関わりにおいて、社会性の育ちをどのように支援していけば良いか考え続けたことがあります。

長年の療育経験を踏まえて言えることは、子どもたちは日々の様々な対人交流を通して、社会性を獲得していくといった事実です。

 

今回は、現場経験+理論+書籍の視点から、発達障害児の社会性の育ちを支援するためのアプローチのヒントをお伝えします。

 

※この記事は、臨床発達心理士として10年以上療育現場に携わり、修士号(教育学・心理学)を有する筆者が執筆しています。

 

 

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目次

1.発達障害児の社会性支援に迷走する著者のエピソード

2.発達障害児の社会性支援を理解する理論・書籍

3.発達障害児への社会性支援の意味・効果が見えてきた著者の経験談

4.まとめ

 

 

1.発達障害児の社会性支援に迷走する著者のエピソード

著者が勤める放課後等デイサービスには、様々な発達特性を有する子どもたちが、様々な人たちと交流する環境があります。

療育に携わりはじめた著者は、社会性の育ちを支援することは大切だと感じていましたが、実際にどのように支援していけば良いか思い悩んでいました。

最初に心掛けたことは、対人コミュニケーションの困難さをどのようにサポートしていけば良いかといった視点を踏まえて、例えば、友達への遊びの誘い方、断り方、褒め方、一方的ではなく双方的な会話の仕方など、コミュニケーションスキルを教えることに主軸を置いていました。

しかし、こうしたサポートのやり方は直ぐに壁に直面することになっていきます。

それは、そもそもスキルを伝達する状況が思うように訪れないこと、訪れたとしても頻度が少なくスキルが定着しないこと、そして、スキル伝達を重視したため著者自身が子どもたちと楽しく・うまく関わることができない状況に陥っていきました。

 

そのため、著者は一度、社会性とは一体何か?といったことを考え直した上で、発達障害児に対して、どのような社会性支援が腑に落ちるのかを納得するまで考えていくことにしました。

 

 

2.発達障害児の社会性支援を理解する理論・書籍

発達障害児の社会性支援を理解する上で、著者は以下の書籍が大変参考になりました。

書籍①「長崎勤・中村晋・吉井勘人・若井広太郎(2009)自閉症児のための社会性発達支援プログラム‐意図と情動の共有による共同行為‐.日本文化科学社.

書籍②「長崎勤・森正樹・高橋千枝(編)(2013)シリーズ:発達支援のユニバーサルデザイン 第1巻 社会性発達支援のユニバーサルデザイン.金子書房.

 

それでは、〝1.社会性とは何か?″〝2.社会性を育む上で大切なこと″について書籍①②を参考にしながら、著者の社会性支援に関する学びの過程・発見を具体的に掘り下げて見ていきます。

 

1.社会性とは何か?

以下、書籍①を引用しながら見ていきます。

社会性とは「人と何かを共にし、またそのことを楽しむこと=共同行為」だ。

 

著書の内容から、〝社会性″とは、〝人とある対象を共有し、その共有体験を楽しむといった共同行為″だと考えられています。

もちろん、社会性にも様々な定義があると思いますが、書籍①は自閉症児の社会性支援に関する専門書であるため、発達障害児の社会性支援を考える上で、大変重要な定義が記載されていると言えます。

著者はこの定義を見て、人と何かを共有すること、そして、楽しむこと、この2点の重要性が欠けていたことに気づかされました。

それは、社会性支援を行う上で、自ずと社会経験の多い著者がコミュニケーションスキルなど子どもたちに何かを教え込もうとする構えが生じていたからだと思います。

この視点は、決して悪いわけではありませんが、社会性支援の根底を欠いていたと言えます(この点に関する言及内容は〝2.社会性を育む上で大切なこと″で記載致します)。

 


人と何かを共有することの苦手さは多くの自閉症児に見られる特徴です。

そのため、かつての著者は自閉症児に対して、どのような関わり方のスタンスを持てば良いか試行錯誤の状態でした。

この状態においても、書籍①の次の引用文が役立ちます(以下、著書引用)。

自閉症児でも人とかかわりたいと思っていることが結構ある。ただ、そのかかわり方が独特で「うまくいかない」ことが多いだけであろう。そのために、私たちも自閉症児の「独特の人とのかかわり方」を学ぶ必要がある。また、自閉症児も「通常の人とのかかわり方」を学ぶ必要がある。

 

自閉症は、その言葉の持つイメージから、人と関わりを避ける傾向が強いとかつての著者は想像していました。

一方で、長年の多くの自閉症児との関わりと著書の内容を踏まえて見ても、自閉症児は想像以上に人との関わりを求めていることも多く、関わり方は独特ではありますが、その独特さを理解していくことで、うまく関わる機会を得ることができるのだと実感しています。

つまり、社会性の基盤となる共有経験は自閉症児においても持てる、さらに言えば、自閉症児だからこそ、意識的に自閉症児が持つ独特な世界観を理解して接していくことで、多くの共有経験を積み上げていく必要性があるのだと言えます。

 

 

2.社会性を育む上で大切なこと

それでは、次に、発達障害児の社会性を育む上で大切な視点について、書籍②を引用しながら見ていきます。

ここで、社会性の発達を大きく二つの質で捉えようと思う。

A.人と関わる力(初期の社会性)

B.社会のルールを理解し、それに従う力(後期の社会性)

重要なのは、決してBの「社会のルールを理解し、従う力」から始まるのではないし、Bだけではないということである。

A.人と関わることが楽しいし、共に何かをすることが意味があり、大切なのだという理解があって、「だから」、共に生きていくことをしやすくするためにルールがあり、そのルールを守ろうとするのであろう。

 

以上の2つの社会性の発達の質は著者にとって多くの示唆を与えてくれるものになりました。

最大の示唆とは、A→Bの順で社会性を獲得していくといったものです。

かつての著者はB(→社会のルールの理解し、従う力)を重視していたと言えます。

一方で、一般的な社会のルールを教え込もうといったやり方では、根本的な社会性の育ちの軸が欠けてしまうと言えます。

それは、A、つまり、人と関わることが楽しい・意味・価値があるという共有経験の積み重ねが社会性の軸になっているからです。

そのため、社会性支援の根底には、こうしたAの視点が基盤となり、その上にBといった視点が乗っかっていくという理解が大切だと言えます。

これは、著者の療育実践を踏まえても納得がいくものです。

実際に、何かを教え込もう(社会のルールやコミュニケーションスキルなど)という以前に、誰かとある対象を共有できた経験、そして、その中に楽しさ・感動・喜びがあるという豊富な快の感情が基盤となって、社会性の力は伸びていくのだと思います。

そして、自閉症児をはじめとした多くの発達障害児においても、A→Bの順序で社会性の力を獲得していくといった実感があります。

 


この視点は、社会性とソーシャルスキルトレーニングの関係において同様なことが言えます。

以下、著書②を引用しながら見ていきます。

発達障害児に対し、「ソーシャルスキルトレーニング(SST)」として、ルール優位な指導が行われることがある。それ自体が間違っているということはないが、その前提としての「共に在ることを心地よいと感じること、また楽しむこと」の支援なしに「SST」だけが先行することに筆者は疑問を感じている。

 

「共に在ることを心地よいと感じること、また楽しむこと」も十分に経験し、またそうできる支援を行いつつ、または並行して行ってこそSSTは意義を持つのではないかと思っている。

 

この内容こそまさに、かつての著者が誤った対応を子どもたちにしていた原因だと強く感じます。

つまり、ソーシャルスキルトレーニングに見られるコミュニケーションスキルの獲得以前に、〝共に在ることを心地よいと感じること、また楽しむこと″の経験の積み重ねが必要だということです。

先に見た社会性の定義としての〝共同行為″が基盤となってはじめてSST(ソーシャルスキルトレーニング)の意義が見えてくるのだと言えます。

実際に、著者の療育実践においても、SSTの獲得は、〝共同行為″の経験の中でこそ得られていくことを実感しています。

コミュニケーションスキルの獲得は、例えば、子どもが○○くんとうまく遊びたい、そのためには、○○といった会話の仕方が必要だ!という他者とのポジティブな交流をより生み出したい・得たいという動機によって支えらえているのだと思います。

 

 

3.発達障害児への社会性支援の意味・効果が見えてきた著者の経験談

著者は、これまで見てきた書籍等を参考に、子どもたちと圧倒的に楽しい交流を生み出すことを重視する視点に価値観を徐々に転換していきました。

視点の転換は急激に進んだというよりも、社会性支援の成果が見えてくるに伴い起きていきました。

 

著者は、社会のルールやコミュニケーションスキルの獲得を目指す以前に、共に在ることの心地良さ・楽しさをいかに生み出していくかを考えていきました。

それは、いかに著者自身が自然体で子どもたちと関わることができようになるかを問われているのだと言えます。

著者が自然と子どもたちの気持ちを理解して、心地よい共有体験を築いていけるようになると、子どもたちは著者を基点に様々な他者との交流を楽しもうとする姿が増えていったように思います。

そして、他者との交流の喜びは、社会との繋がり、社会参加への動機づけにもなると言えます。

実際に、快の感情を伴う他者との交流を多く持つことができた子どもたちは、様々な活動に対して意欲的に行動する姿が高まっていったように思います。

そして、他者との快の交流を基盤として、他者と共にうまくやっていくためのルールやコミュニケーションスキルを獲得していく様子もまた見られていきました。

この段階になってはじめて、著者が社会のルールやコミュニケーションスキルを教えることの意味・効果がはっきりと見えてくるのだと思います。

実際に、以上のプロセスを通して、多くの子どもたちは、遊びたい人を誘う姿、自分の考えを他者に伝えようとする姿、遊びの中で一緒に物事がうまくいくように話し合う姿、困った時に誰かに相談する姿などが増えていったように思います。

改めて、社会性支援の根底には、人と何かを共有すること、そして、それを楽しむといった〝共同行為″の積み重ねが大切なのだと考えさせられました。

 

 

4.まとめ

〝社会性″とは、〝人とある対象を共有し、その共有体験を楽しむといった共同行為″だとされています。

〝社会性″の発達には、A.人と関わる力(人と関わることが楽しいし、共に何かをすることが意味があり、大切なのだという理解)が基盤にあることで、その上で、B.社会のルールを理解し、それに従う力(ソーシャルスキルの獲得など)が育まれていきます。

社会性支援で大切なことは、A→Bの順番を大切にして支援を進めていくことにあります。

社会性支援によって育まれる社会性の育ちは、後に、社会参加への意欲を促し、その結果として、子どもの自己決定力と相談力といった社会で生きていく力を高めることに繋がっていきます。

 

関連記事:「自閉症療育で大切な視点-社会参加に必要な能力:「自律スキル」と「ソーシャルスキル」-

関連記事:「【発達障害・知的障害の子どもへの対応:進路選択偏】自己決定力と相談力を通して考える

 

 

書籍紹介

今回取り上げた書籍の紹介

  • 長崎勤・中村晋・吉井勘人・若井広太郎(2009)自閉症児のための社会性発達支援プログラム‐意図と情動の共有による共同行為‐.日本文化科学社.
  • 長崎勤・森正樹・高橋千枝(編)(2013)シリーズ:発達支援のユニバーサルデザイン 第1巻 社会性発達支援のユニバーサルデザイン.金子書房.

 

社会性に関するお勧め書籍紹介

関連記事:「発達障害の〝社会性″に関するおすすめ本【中級編】

 

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