発達障害児・者へのコミュニケーションや社会性を向上させるための練習方法として〝ソーシャルスキルトレーニング(SST)″があります。
著者は以前、発達障害児への〝ソーシャルスキルトレーニング(SST)″を実施していたことがあります。
また、現在も療育現場で、子どもたちに〝ソーシャルスキル″を学んでもらうために日々取り組んでいる所もあります。
それでは、発達障害児に対して、〝ソーシャルスキルトレーニング(SST)″を行う上でどのようなことを大切にしていけば良いのでしょうか?
そこで、今回は、発達障害児への〝ソーシャルスキルトレーニング″で大切なことについて、臨床発達心理士である著者の療育経験も交えながら、考えを深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「藤野博(編)(2016)ハンディシリーズ 発達障害支援・特別支援教育ナビ 発達障害のある子の社会性とコミュニケーションの支援.金子書房.」です。
発達障害児への〝ソーシャルスキルトレーニング″で大切なこと
以下、著書を引用しながら見ていきます。
SSTの問題は、ずばりその時間が「楽しくない」ことではないか、と思われる。(中略)子どもたちがスキルを楽しく身につけられるようにSSTを工夫することが、もっとも重要なのではないだろうか。
著書の内容から、〝ソーシャルスキルトレーニング″で大切なことは、まず、活動内容が〝楽しいもの″であるかということです。
単純に、スキルを獲得するための訓練・練習を目的とするのではなく、その前提として、練習自体を楽しめるように工夫していくことが必要ということです。
発達障害児にとっては、社会性やコミュニケーションに必要な〝ソーシャルスキル″は、本来の特性上、苦手としていることが多くあります。
そのため、苦手なことに対して、練習を重ねていく活動そのものがまずは〝楽しいもの″であるということが重要となります。
さらに、著書の中では〝ソーシャルスキルトレーニング″を行う前提として大切な以下の点があると述べています(以下、著書引用)。
SSTには、それが根付くための土台が必要であることも忘れてはならない。その土台とは、人への信頼感である。
著書の内容から、〝ソーシャルスキルトレーニング″が成果を発揮するためには、その土台として、〝人への信頼感″が大切であるとしています。
〝ソーシャルスキル″を学びたい動機は、ある程度人との関わりを欲していること、そして、苦手とする関わりに対して、信頼できる人が教えてくれることも重要だということです。
そのため、〝ソーシャルスキルトレーニング″を行う前段階として、大人への信頼関係や、人と関わることの面白さなどを育んでおくことも合わせて大切な視点になります。
著者の経験談
著者の療育経験においても、上記に述べてきた、〝ソーシャルスキルトレーニング″で大切なこととして、活動内容が〝楽しいもの″となる工夫や〝人への信頼感″が必要だと実感しています。
著者の療育現場では、〝ソーシャルスキルトレーニング″といった練習方法を活用しているわけではありませんが、それに関連する〝ソーシャルスキル″の学習への取り組みを行っているところもあります。
例えば、自分の気持ちの伝え方、相手の気持ちを理解するためのサポート、挨拶の仕方、相手との折り合いのつけ方、など様々あります。
こうした〝ソーシャルスキル″の獲得においては、子どもたちが活動を楽しんで行っていく延長線上にあるのだと思っています。
例えば、〝集団遊び″でお互いを意識し始めた後に、他児と一緒に遊ぶことが楽しいという経験を重ねていくことで、その子なりに、他児と一緒に遊ぶことは楽しい→人と関わることは楽しい→うまく人と関われるようになりたい!といった動機が働くようになると思います。
逆に、人と関わることは〝楽しくないもの″ということが前提となってしまうと、〝ソーシャルスキル″そのものを学ぼうとする意欲が衰退してしまうように思います。
ゆえに、〝ソーシャルスキル″を学ぶ大切さがその子の中でわからない、周囲が勝手に強いてくるものとなってしまうように思います。
人との関わりがうまくいってなくても、これまでの経験から、その子なりに人との関わり方を学びたいというエネルギーが残っている必要があると思います。
さらに、こうした〝ソーシャルスキル″は、教えてくれる人との信頼関係も強く影響するように思います。
著者の療育現場でも、〝○○さんが言うと理解進む″ということがあります。
Aさん、Bさん、Cさんが言っても〝ソーシャルスキル″に改善が見られなかったことが、Zさんが言ったことで改善効果が出たということはこれまでの経験上あります。
もちろん、こうした背景には、〝人への信頼感″といったベースが育まれていることが重要です。
〝人への信頼感″がある前提のもと、周囲で関わる大人との関係を徐々に深めていくことで、〝○○さんは自分のことをわかってくれている″などの気持ちが育ち、そして、〝○○さんの言ったことなら試してみよう!″という動機が湧いてくるように思います。
こうした現象は、実際に著者の療育経験の中でも少なからず見られていたように思います。
以上、【発達障害児への〝ソーシャルスキルトレーニング″で大切なこと】療育経験を通して考えるについて見てきました。
〝ソーシャルスキルトレーニング″が効果を発揮するためには、今回見てきたような前提となる大切なものがあるということです。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も療育現場で〝ソーシャルスキル″を子どもたちにわかりやすく伝える方法を考えていきながら、楽しめる活動の工夫、そして、人への信頼感も合わせて育んでいけるような関わりをしていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
関連記事:「【〝社会性″と〝ソーシャルスキルトレーニング(SST)″の関係】療育経験を通して大切な視点について考える」
藤野博(編)(2016)ハンディシリーズ 発達障害支援・特別支援教育ナビ 発達障害のある子の社会性とコミュニケーションの支援.金子書房.