発達障害児は、発達特性などが影響して、生活の様々な所で困り感が生じる場合があります。
著者は長年、療育現場で発達障害児支援を行っていますが、個々の発達特性や発達段階等を踏まえたオーダーメイドな支援はとても大切だと感じています。
それでは、発達障害児に見られる勝ち負けへのこだわりの強さに対して、どのような対応方法が有効だと考えられているのでしょうか?
そこで、今回は、発達障害児に見られる勝ち負けへの対応について、SST・ペアトレ・感覚統合からのアプローチを通して理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「岩坂英巳・宮崎義博(2021)「うまくいかない」ことが「うまくいく」に変わる!発達障害のある子どもがいきいきと輝く「かかわり方」と「工夫」.幻冬舎.」です。
勝ち負けへのこだわりはなぜ生じるのか?
子どもの中には、〝失敗″や〝負け″に対する過度な抵抗感が見られるケースが少なからずあります。
その背景要因も様々です。ここでは、3の視点から見ていきます。
1つ目として、〝認知の問題″があります。
〝認知の問題″とは、例えば、先の見通しが持てないため、負けるととても悪いことが起こるのではないか?といった不安感が高まるなど、自閉症児によく見られる特徴です。
2つ目として、〝0か100思考″があります。
この思考も自閉症児によく見られるもので、〝勝ち″か〝負け″かで、〝良い″か〝悪い″といった極端な思考をしていることがあります。
そのため、0~100の中間の視点がないため(不足しているため)、負けることや失敗することを過度に嫌がる場合があります。
3つ目として、〝衝動性・感情のコントロールの弱さ″です。
ADHD児によく見られる特徴であり、自分が負けそうになると、イライラし始め、その気持ちを冷静に抑えることが難しくなる場合があります。
途中で、勝負を投げ出してその場を立ち去ることもあります。
もちろん、以上の視点以外にも様々な要因があるかと思いますが、ここでは発達障害児に見られる代表的なものを紹介してきました。
勝ち負けへのこだわりの対応について
著書には、勝ち負けへのこだわりの対応として、〝①SST(ソーシャルスキルトレーニング)″〝②ペアレントトレーニング″〝③感覚統合療法″の3つからのアプローチ方法が記載されています。
それでは、次に、①②③のそれぞれのアプローチ方法について具体的に見ていきます。
① SST(ソーシャルスキルトレーニング)
以下、著書を引用しながら、SSTからのアプローチを見ていきます。
・勝つ人がいると負ける人がいることを教える
・負けたとき、負けそうになったときの対策を考える
・少人数のチームやグループでの勝ち負けのつく遊びに挑戦する
まずは、〝勝つことも負けることもあることを教える″ことです。
どんな競技・勝負においても、多くの人は〝負け″を経験しています。
そして、〝負け″や〝失敗″から多くのことを学ぶことができるといったことを伝えていくことが大切です。
次に、〝負けた時、負けそうになった時の対策を講じる″ことです。
勝ち負けのある遊びをする際に、負けても悪いことが起こるわけではない、負けそうになりイライラして騒ぐと次から友達と楽しく遊ぶことが難しくなるなど、事前に対策を考え伝えておくことが大切です。
次に〝チームやグループ戦を取り入れる″ことです。
例えば、サッカーやドッチボールなどのチーム戦を設定し勝ち負けを競うことで、協力して頑張ること、勝った時に共に喜び合うこと、負けた時にどのように協力していけば次に勝つことができるかなど、個人戦では得ることができない体験を重ねていくことも必要です。
② ペアレントトレーニング
以下、著書を引用しながら、ペアレントトレーニングからのアプローチを見ていきます。
・気持ちを伝えられたことを褒める
・失敗や負けを体験させる
・学校と連携する
まずは、〝負けや失敗の時の気持ちを言葉にできたことを褒める″ことです。
例えば、「くやしい」「ショックだった」など自分の気持ちが言葉にできたら褒めること、そして、日頃から、負けや失敗に対しても頑張っている姿や過程を言葉にして褒める対応を心がていくことが必要です。
次に、〝あえて負けや失敗を体験させる″ことです。
人が成長する上で、うまくいかないことや思い通りにならないといった体験は大切です。
そのため、新しいことに挑戦したことを褒め、失敗に対しては励ます姿勢が大切です。
次に、〝学校と連携する″ことです。
特性が影響して、勝ち負けへのこだわりが強く見られる場合には、家庭以外の環境(学校など)と連携しながら対応策を考えていく必要があります。
③ 感覚統合療法
以下、著書を引用しながら、感覚統合療法からのアプローチを見ていきます。
・『失敗』ではなく試行錯誤のなかでの、『気づき』ととらえてもらえるようにする
人が何かに挑戦しようと思い行動をする際に、当然、結果に至るまでの過程があります。
著書では、〝感覚統合療法″の活用により、身体感覚を養う活動(肉体労働系・木工など)を取り入れていくことで、結果(視覚によって理解)だけではなく、過程(身体感覚により学習できる)を意識することができるようになると記載されています。
以上、【発達障害児に見られる勝ち負けへの対応】SST・ペアトレ・感覚統合からのアプローチについて見てきました。
勝ち負けへのこだわりは著者の療育現場の子どもたちにもよく見られるものです。
そのため、なぜ勝ち負けへのこだわりが生じるのかといった背景を理解していきながら、その子どもに応じた対応策を考えていくことがとても大切だと感じています。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も療育現場でオーダーメイドな支援ができるように、様々な支援の視点を学んでいきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
関連記事:「【発達障害児の〝勝ち負け″へのこだわり】療育経験を通して考える」
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岩坂英巳・宮崎義博(2021)「うまくいかない」ことが「うまくいく」に変わる!発達障害のある子どもがいきいきと輝く「かかわり方」と「工夫」.幻冬舎.