発達障害児・者には様々な感覚の問題が見られると言われています。
そのため、発達障害児・者支援に携わる人たちにとって、感覚の問題への理解と対応に関する知識は必須であると言えます。
中でも、〝感覚過敏″が目立つ一方で、〝感覚鈍麻(低反応)″も見落とせない感覚の問題だと言えます。
それでは、感覚鈍麻(低反応)とは一体どのようなものなのでしょうか?
そこで、今回は、発達障害児に見られる低反応とは何かについて、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら、支援で重要な視点も踏まえて理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「前田智行(2021)子どもの発達障害と感覚統合のコツがわかる本.ソシム.」です。
低反応とは何か?
以下、著書を引用しながら見ていきます。
「低反応」は、感覚情報を入力しにくい体質のことを指します。
少し前は「感覚鈍麻」と呼ばれていましたが、「鈍麻」という言葉のイメージがわるいため、「感覚情報への反応性が低い」という意味で「低反応」という言葉が最近では使われています。
著者の内容から、〝低反応(感覚鈍麻)″とは、感覚情報を入力しにくい体質のことを指します。
そして、以前は〝感覚鈍麻″と言われていましたが、その言葉のネガティブなイメージから〝低反応″と言った言葉に置き換えられるようになってきています。
〝低反応″の例として、周囲の音に気づきにくい、話しかけても応えない、怪我をしても気づかない、などがよく見られるものです。
低反応に対する支援で重要な視点について
それでは、〝低反応″を持つ子どもに対して、どのような支援の視点が重要になってくるのでしょうか?
以下、著書を引用しながら見ていきます。
「未発達な感覚をどう使って、発達を促すのか?」という点が支援において大切になります。
〝低反応″があると、その人の感覚は十分に育っていない、感覚が育つ妨げとなっている可能性があります。
そのため、著書にあるように、〝未発達な感覚を育てていく″といった視点が支援で重要になってきます。
この視点はもちろん、〝感覚過敏″のある人にも共通して重要となる視点です。
感覚に問題がある人の多くは、ある感覚が過敏である一方、他の感覚は低反応といった両面を持っていることもあります。
そのため、様々な感覚の入力の仕方について把握していくことが支援に繋げていく上で大切になります。
著者の経験談
著者はこれまで療育現場とはじめとして、様々な発達障害児など発達に躓きを抱えている子どもとの関わりがあります。
子どもたちには様々な感覚の問題があり、中でも、〝低反応″が見られる子どももいます。
〝感覚過敏″による困り感が気づきやすい一方で、〝低反応″はなかなか困り感を察知しにくい問題があると感じています。
こうした中で、〝低反応″への支援がうまく進んだケースを一つ紹介したいと思います。
聴覚の〝低反応″が見られるA君
当時、小学生の男子A君(自閉症)は、騒音や人混みなどの音に聴覚過敏がある一方で、人の声にはあまり反応を示さない子どもでした。
このように、同じ感覚の〝音″でも、気づきやすいものとそうでないものとがあるのだと思います。
著者はA君に話をかけてもほとんど反応がないことがよくありました。
そのため、著者はA君の好きなテレビのコマーシャルを覚え、繰り返し口づさむようにしました。
すると、少しずつではありますが、A君は著者の声に耳を傾けるようになっていきました。
そして、A君から〝もっとコマーシャルについてはなして!″といった具合に、手引きで著者にお願いしてくることが増えてきました。
この頃から、A君は著者の声によく反応するようになり、著者がA君に話しかけても反応することが見られるようになっていきました。
このケースを通しても、〝低反応″への支援は可能であり、そして、未発達な感覚を育ていくためにも大切な取り組みなのだと理解できます。
以上、【発達障害児に見られる低反応とは?】支援で重要な視点も踏まえて考えるについて見てきました。
低反応は、一見するとなかなか問題となりにくい傾向がある一方で、感覚の発達の観点から見ても、簡単には見過ごせない大切なものだと言えます。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も様々な感覚の働きについて理解を深めていきながら、療育での実践に役立てていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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前田智行(2021)子どもの発達障害と感覚統合のコツがわかる本.ソシム.