発達障害や知的障害の子どもの将来を考える上で〝進路選択″は非常に重要な課題です。
例えば、通常学級が良いか?支援学級が良いか?支援学校が良いか?など、様々な選択肢があります。
本人及び保護者、そして、周囲で関わる支援者たちにとって、進路を選択することは時と場合において、とても難しい問題だと言えます。
それでは、発達障害・知的障害の子どもが進路を選択していくためには、どのような視点が重要になってくるのでしょうか?
そこで、今回は、発達障害・知的障害の子どもへの対応:進路選択偏について、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら、自己決定力と相談力を通して理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「本田秀夫(2024)知的障害と発達障害の子どもたち.SB新書.」です。
【発達障害・知的障害の子どもへの対応:進路選択偏】自己決定力と相談力を通して考える
著書には、進路選択を考える上で、次のステージに行くための意味・目的の重要性を指摘しています。
例えば、この子にとっての学校に行く目的とは?本人に合った学習環境を重視するのか?友達関係を重視するのか?など、子どもによって学校に行く意味・目的には違いがあると言えます。
ここで、重要になってくるのが〝自立″の観点です。
以下、著書を引用しながら見ていきます。
自立というのは「できることを自分で判断して実践し、できないと思って困ったときには誰かに援助を求めること」
以上が、著書に記載されている〝自立″の考え方です。
この考え方は、何も発達障害・知的障害の子どもだけではなく、定型発達児にとっても必要な考え方です。
そして、著書には、知的障害の程度が重くても、上記の〝自立″の力は身につけていくことができるとされています。
つまり、全ての子どもたちにとって(もちろん、大人にとっても)、〝自立″の力を身につけていくことは大切だと言えます。
著書には、〝自立″には2つの力が必要だと記載されています。
それでは、〝自立″の考え方に見られる2つの力とは何でしょうか?
以下、引き続き著書を引用しながら見ていきます。
「できることを自分で判断して実践する力」を「自己決定力」
「困ったときに誰かに援助を求める力」を「相談力」
著書の内容から、〝自立″において身につけたい2つの力とは〝自己決定力″と〝相談力″だと記載されています。
かつては、〝自己決定力″は〝自律スキル″、〝相談力″は〝ソーシャルスキル″といった言葉で表現されていました。
そして、〝進路選択″において、〝自己決定力″→自分で進路を選択する、〝相談力″→困った時に誰かに相談する、といった決定力・相談力を発揮する良い機会だと考えられています(もちろん、日々の積み重ねの基盤が必要です)。
子どもに関わる大人は、本人の意思表示を汲み取りながら、本人の意思決定・自己決定をサポートしていく視点が大切だと言えます(以下、著書引用)。
子どもの自己決定と相談を保障することは、その子の自立をサポートするうえで極めて重要なことなのです。自己決定力と相談力を身につけることが、社会参加につながっていきます。進路選択の場面では、そのような意識を持つことが大切です。
著書にあるように、進路選択などの場面において、自己決定力と相談力を意識した関わりが大切だと言えます。
子どもが大人の提案を拒むということも一つの選択だと言えます。
小さい頃から、自分で考え選択していく、困った時に誰かに相談していく、といったことを積み上げていくことが必要だと言えます。
著者の経験談
最後に、著者がこれまでの経験を通して、〝自己決定力″と〝相談力″の重要性を改めて考えさせられた事例について見ていきます。
成人男性Aさんの事例
Aさんは自閉症(診断名)・軽度知的障害・境界知能(疑い)のある人です。
Aさんにとって進路選択は大きな壁でした。
当時のAさんにとって、進路を選択することはほとんどなく、高校卒業まで保護者や先生方の意向に合わせて進路を決めていました。
その後は、成人して仕事をはじめたAさんは、〝もっと○○のような学校環境が良かった″〝自分でもっと決めていければ良かった″〝周りの大人に合わせて決めていただけ″など、過去の進路選択を後悔する言動が多く見られるようになっていきました。
この気持ちの背景には、失敗してももっと自分で進路を決めていきたかったという思いがあったのだと感じます。
もちろん、当時のAさんの状況は進路選択の幅が少なかったことに加えて、周囲で関わる大人たちも、どのような道筋が良いのかがわからずにいたことも大きな要因だったと言えます。
一方で、幼少期から自分で物事を決めるという習慣、困ったら人に相談するという習慣を身につけていきながら、進路選択の際には(特に思春期以降)、大人を頼りながら自分で決めることができたという成功体験が、後の自信に繋がり、仮にうまくいかなかった場合でも、後悔する思いが少なくなるのだと思います。
もちろん、周囲の大人は、Aさんに様々な情報を提供することが進路選択の前提条件として必要になってきます。
その後のAさんは、過去の後悔の思いを糧に、自分で物事を決めることが増え、困ったら誰かに頼ることも増えていきました。
その結果、〝自立″の力が高まり、自分で決めることが増えてきた以降の時期に関して、過去を後悔することが明らかに減ったように感じます。
以上、【発達障害・知的障害の子どもへの対応:進路選択偏】自己決定力と相談力を通して考えるについて見てきました。
繰り返しになりますが、今回見てきた内容は、すべての人に共通して大切な視点だと言えます。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も療育現場で関わる子どもたちの自己決定力と相談力の力を少しでも高めていけるような関わり方を見出していきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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本田秀夫(2024)知的障害と発達障害の子どもたち.SB新書.