療育(発達支援)を長年行っていると、子どもたちの成長を実感する機会に多く出会うことがあります。
こうした出会いは、療育(発達支援)の〝成果″を感じる時でもあります。
もちろん、療育(発達支援)の成果は、複合的な要因が影響していることが多いため、特定の因果関係からは語ることができない難しさがあります。
一方で、〝○○の発達が大きく影響して○○の成果が出た可能性がある″〝○○の支援が大きく影響して○○の成果がでた可能性がある″といった仮説を立てることも可能だと言えます。
そして、長期的な子どもとの関わりを通して、この○○に当てはまるものが徐々に見えてくることがあります。
さらに、多くの事例を通して、仮説の精度を高めていくことが可能になっていきます。
それでは、療育(発達支援)の成果を感じる時として、どのような事例があるのでしょうか?
そこで、今回は、療育(発達支援)の成果について、臨床発達心理士である著者の経験談から、人への信頼と情緒の安定をキーワードに理解を深めていきたいと思います。
【療育(発達支援)の成果】人への信頼と情緒の安定をキーワードに考える
事例:小学校高学年のA君(当時)
A君は、著者が1年生の頃から関わりのある自閉症の特性の強い子どもです。
低学年の頃のA君は、他児の言動や動きを気にすることが多く、また、様々な情報をマイナスに被害的に捉える傾向の強い子どもでした。
また、過去の不快な出来事を急に思い出す〝フラッシュバック″と言われる状態も時折見られていました。
興味関心の幅は狭く、好きなゲームの話などを中心に、工作遊びなど、ある程度関わりの多いスタッフと一対一での過ごしが多い状態でした。
そのため、当時のA君に対して、私たちスタッフは、刺激の少ない環境を整えること(個別の空間)、変化の少ない活動内容を整えていくこと(ある程度決まったスケジュール)、安心できるスタッフの個別対応(人的環境)、A君の興味関心の世界に対する関わりを重視していきました。
こうした環境調整(物的環境と人的環境)を中心に、〝人的環境″においては、A君の情緒が安定していくための受容的・肯定的な声掛けを行っていきました。
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それでは、次に、人への信頼と情緒の安定をキーワードに支援の経過をお伝えしていきます。
人への信頼と情緒の安定に対する支援から見たA君の変化
外界の世界に対する不安感を抱いていたA君に対してまずは〝人への信頼″の築きを促すために、安心感を抱いてもらう関わり方がとても大切になっていきます。
キーワードは、〝共感的関わり″の継続だと言えます。
A君は、個別の環境調整や共感的関わりなどによって、徐々に事業所に対して安心感を持つようになっていきました。
著者がA君との関わりが増えてきたのは、A君が高学年の頃からでしたが、この頃には、様々なスタッフとの交流も増えていました。
おそらく、低学年の頃よりもはるかに、事業所全体、様々なスタッフに対する安心感が高まっていたのだと思います。
これは、著者の感覚として〝アタッチメントネットワーク″の構築に繋がっていたものだと感じています。
その中で、著者は、A君が持つ興味関心の世界に寄り添い続けること、A君からの発信に対して共感的に関わり続けること、さらに、A君の情緒が乱れた際にも、穏やかに接することを心がけていきました。
こうした関わりを継続していく中で、A君は、著者との間で共有できる楽しい話題が増えていったこと(興味関心の世界の広がり)、ごっこ遊びなどイメージする力や体を使った遊びをさらに発展させていくなど活動範囲も広がっていきました。
表情も安心していることが多く、笑顔も増えていったように感じています。
もちろん、こうした過程の中には、〝甘え″も混ざっていたと思います。
A君は信頼のおけるスタッフに構って欲しいという気持ちを様々な形で表出してくるようになっていきました。
著者はできるだけ、A君の思いに寄り添い、A君の内部に潜む様々な気持ちの意味を理解しようと努めていきました(〝情動調整への支援″)。
こうしたA君の発信にうまく向き合うことができた日は、A君の〝情緒は安定″することが多かったと思います。
〝情緒の安定″には、もちとん、こうした〝人的環境″からのアプローチに加えて、A君が安心して過ごせる〝物的環境″からのアプローチも大切だったと感じています。
6年生のA君は、〝フラッシュバック″や物事を悲観的・被害的に受け止めることも少なくなっていったと感じています。
そして、人との関わりは安心できるものであり、楽しい感情もまた伴うものであるという実感が強く湧いている印象があります。
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以上、【療育(発達支援)の成果】人への信頼と情緒の安定をキーワードに考えるについて見てきました。
今回の事例は、療育において、〝人″という環境が持つ影響の強さを実感することができた貴重なものだと実感しています。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も子どもたちにとって安全・安心できる環境に向けて、療育の質を高めていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。