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【療育で活かせるワーキングメモリへの支援】療育経験を通して考える

投稿日:2023年11月11日 更新日:

ワーキングメモリ(working memory)″とは、情報を記憶し、処理する能力のことを言います。〝脳のメモ帳″とも言われています。

ワーキングメモリの機能として、〝言語性ワーキングメモリ(言語的短期記憶)″と〝視空間性ワーキングメモリ(視空間的短期記憶)″とがあり、両者を統合する司令塔的役割が〝中央実行系″と言われています。

 

著者は発達障害など発達に躓きのある子どもへの療育をしています。

発達に躓きがあると認知の特徴にも偏りが生じます。

その中には、〝ワーキングメモリ“も含まれます。

 

それでは、療育現場においてワーキングメモリの視点からどのような支援方法があるのでしょうか?

 

そこで、今回は、療育で活かせるワーキングメモリへの支援について、臨床発達心理士である著者の経験談をもとに理解を深めていきたいと思います。

 

 

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療育で活かせるワーキングメモリの支援について

今回は、療育で活かせる視点として、1.実行機能との関連からの支援2.様々な発達特性との関連からの支援、の二つを取り上げていきます。

 

 

1.実行機能との関連からの支援

実行機能とは、簡単に言うと〝やり遂げる力“のことを言います。

実行機能には、「更新」、「抑制」、「シフト」の3つの要素から構成されており、ワーキングメモリはこの中の「更新」機能に位置付けられます。

「更新」機能とは、新奇な情報を記憶して処理する働きをします。

つまり、新しい情報を学習していく上で、最終的に「更新」機能(ワーキングメモリ)を働かせる必要があります。

一方で、「抑制」と「シフト」に困難さを示すと、その結果、「更新」機能(ワーキングメモリ)を働かせる以前の段階で情報処理が困難となってしまうと考えられています。

中でも、「抑制」の困難さはADHD「シフト」の困難さはASDと関連があると言われています。

 

著者の療育現場でも〝実行機能“をうまく働かせることができない子どもへの支援を考える上で、上記の構造を抑えておくことは大切だと感じています。

 


例えば、ADHD特性のあるA君は、気になる周囲の刺激にすぐに目が向いてしまう様子が多くあります。

こうした状態は、ADHD特性に多くみられる「抑制」の困難さと考えられます。

著者がA君に重要な話をしようとしても、気になる本や他児の話の内容に注意が向いてしまうため、なかなか著者の声が入りにくいことがあります。

このように、注意の転導性が高い(様々な事に気が散る)子どもには、刺激となる物を一度切り離した状態で大切な情報を伝えるように心がけています。

 

また、ASD特性のあるBちゃんは、一度、自分の興味のある話や本などに集中し始めると遊びを終えることが難しい様子が多くあります。

こうした状態は、ASD特性に多く見られる「シフト」の困難さと考えられます。

こうしたある種の過集中状態になると、本来切り替える必要があることに気持ちを向けることが難しくなります。

このように、切り替えが難しい(A→Bの事に注意を向ける)子どもには、事前にスケジュールを立てて見通しを持ってもらうことが必要です。

そして、見通しを立てる時に本人に合意を取っておくこともまた必要です。

 


このように、実行機能をうまく働かせるためには、実行機能の3つの構成要素と発達特性などとの関連性を抑えた関わり方が重要だと感じます。

 

関連記事:「ワーキングメモリは実行機能(3つの構成要素)の中にどう位置づけられるのか?

関連記事:「【実行機能とワーキングメモリから見た支援方法について】学習困難児を例に考える

 

 

2.様々な発達特性との関連からの支援

様々な発達特性の違いによりワーキングメモリの働きに得意・不得意があることがわかってきています。

例えば、ASDの人たちは、言語性ワーキングメモリに弱さがある一方で、視空間性ワーキングメモリは強みとなる可能性があります。

また、ADHDの人たちは、言語性・視空間性ワーキングメモリの両方に弱さが見られる傾向があります。

そのため、発達特性の違いに応じて、苦手なワーキングメモリには配慮し、得意なワーキングメモリを活かす支援が大切です。

 


例えば、ASD特性のあるC君は、著者が言葉で重要なことを伝えてもすぐにその情報が抜け落ちてしまうことがあります。

これは、言語性ワーキングメモリに弱さがあるからだと考えられます。

一方で、ホワイトボードに書いてあるその日の活動のスケジュールを自分で確認しに行き、活動時間と活動内容をしっかりと記憶している強さがあります。

これは、視空間性ワーキングメモリに強さがあるからだと考えられます。

そのため、著者は、C君にはできるだけ視覚情報を中心に情報を伝達するように心がけながらも、口頭伝達は本人の記憶に定着するまで繰り返して伝えるようにしています。

 


このように、発達特性の違いによりワーキングメモリの機能に得意・不得意があるということを抑えていくことで、より良い支援に繋がっていくと思います。

 

関連記事:「【ワーキングメモリと自閉症の関係について】療育経験を通して考える

関連記事:「【ワーキングメモリを支援する方法について】自閉症を例に考える

 

 


以上、【療育で活かせるワーキングメモリへの支援】療育経験を通して考えるについて見てきました。

今回見てきた内容以外にも、ワーキングメモリを通した支援は豊富にあります。

私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後もワーキングメモリの理解を深めていきながら、今の療育現場で実施可能な支援を模索していきいたいと思います。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

 

 


参考となる書籍の紹介は以下です。

関連記事:「ワーキングメモリに関するおすすめ本6選【中級編】

 

 

トレイシー・アロウェイ・ロス・アロウェイ(著)湯澤正道・湯澤美紀(監訳)上手幸治・上手由香(訳)(2023)ワーキングメモリと発達障害[原著第2版]: 教師のための実践ガイド.北大路書房.

 

 

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