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【放課後等デイサービスをサードプレイスに!】経験と理論から考える子どもの安心と成長

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放課後等デイサービスが子どもたちにとって、どのような居場所になれば良いかで思い悩んだことはありませんか?

放課後等デイサービスが急増する中で、そこに関わるスタッフは様々な思いを持って取り組んでいると思います。

そして、子どもたちにとって、放課後等デイサービスは家庭や学校以外の居場所、いわゆる〝サードプレイス″とも考えられています。

かつての著者は、放課後等デイサービスをどのような居場所にしていけば良いか試行錯誤の状態でした。

その中で、〝サードプレイス″としての放課後等デイサービスの必要性・重要性を徐々に実感できるようになっていきました。

 

 

今回は、現場経験+理論+書籍の視点から、放課後等デイサービスをサードプレイスにするヒントをお伝えします。

 

※この記事は、臨床発達心理士として10年以上療育現場に携わり、修士号(教育学・心理学)を有する筆者が執筆しています。

 

 

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目次

1.放課後等デイサービスに通所を始めたA君のエピソード

2.放課後等デイサービスをサードプレイスにするヒントとなる理論・書籍

3.放課後等デイサービスがサードプレイスとなった体験談

4.まとめ

 

 

1.放課後等デイサービスに通所を始めたA君のエピソード

今回は、発達障害児のA君(当時、小学校1年生)のエピソードを紹介します。

 

A君(当時、小学校1年生):ASDの特性あり

当時のA君が放課後等デイサービスに通所を始めたのは、A君が小学校に上がる頃でした。

A君には、ASDの特性がありますが、ある程度の適応能力があり、すぐに放課後等デイサービスに慣れることができるようになっていきました。

毎日、笑顔で楽しそうに通所してくるA君は、様々な遊びに対して意欲を見せる様子が増えていました。

一方で、少しずつ学校への行き渋りが見え始めました。

そこからしばらくして、A君は学校に行くことができなくなりました。

この過程の中で、A君は徐々に放課後等デイサービスでもイライラする様子が増えていきました。

これまで毎日楽しく過ごしていたA君でしたが、些細な出来事に対して過敏に反応して、癇癪を起こすことがよく見られるようになりました。

自分に対する評価も低下して、どこか自信のない表情に加えて、大人への信頼感も低下していきました。

著者は、A君に対して、何か放課後等デイサービスだからこそできることはないかと考えるようになっていきました。

 

 

2.放課後等デイサービスをサードプレイスにするヒントとなる理論・書籍

こうした状態を打破する上で非常に参考になった書籍があります。

それは、次の2冊です。

書籍①「藤野博(2023)自閉症のある子どもへの言語・コミュニケーションの指導と支援.明治図書.

書籍②「本田秀夫(2013)子どもから大人への発達精神医学:自閉症スペクトラム・ADHD・知的障害の基礎と実践.金剛出版.

※書籍②に関しては現在改訂版が出版されています。

新訂増補 子どもから大人への発達精神医学: 神経発達症の理解と支援

 

 

書籍①では、〝サードプレイス″の価値、そして、書籍②では、〝サードプレイス″としてコミュニティを作る上でのヒントを学ぶことができました。

 

それでは、まずは書籍①を引用しながら、サードプレイスの価値を見ていきます。

家庭、学校に次ぐ第三の場所、サードプレイスの意義が最近注目されています。無理せずリラックスしてそのままの自分が出せる居心地のよい場所です。興味・関心を分かち合える仲間と出会え、一緒に楽しく過ごせる場所でもあります。

 

発達障害のある子が、同じ興味・関心をもつ仲間と出会い、楽しい時間を過ごせる場所があることは生活の充実につながると思われます。

 

著書の中で、著者が非常に重要だと感じた点は、①無理なくリラックスして楽しく過ごせる場所②他者と興味関心を分かち合う経験を持つ場所といった視点です。

 

まず①に関しては、当時の著者は放課後等デイサービスを子どもたちの自立を養う場所、そのために、個々の能力を高めることを優先していたところがありました。

そのため、どうしても大人からの〝○○をさせる″働きが強くなってしまい、その結果、子どもが安心できる場所にはなっていなかったと思います。

一方で、その後、〝サードプレイス″としての放課後等デイサービスの理解が進んでいく中で、いかに、子どもが安心して過ごせる居場所にしていけるか、また来たいと感じてもらえる居場所にしていけるかどうかを優先するようになっていきました。

こうした考え方の方が、著者も自然と楽しく子どもと関わることができるようになり、その結果、学校等とは異なる体験価値を生み出していけると実感できるようになりました。

 

そして、②に関しては、発達障害児は定型発達児とは異なり、子ども独自の力で、他児と交流を作る難しさがあると感じます。

子どもの中に、他者と興味関心を分かち合いたい・友達を作りたい・遊びたいといった思いがあっても、こうした思いが実現できないことがあります。

そのため、放課後等デイサービスといったサードプレイスがあることで、自然と子どもたちの交流を生む場所があることはとても大切なことだと思います。

著者は、サードプレイスの中だからこそ、普段関わることのできない他者と繋がることができ、その中で、興味関心を分かち合う喜び・楽しさを、現場を通して肌で実感することができました。

 

 


一方で、具体的にサードプレイスを作る難しさがあるのも事実です。

それは、ただ居場所を用意しただけでは、子どもたちがうまく交流を進めることはないからです。

下手をすれば、他者とのトラブル・誤学習に繋がっていくリスクすらあります。

 

そこで、次に、書籍②を引用しながら、サードプレイスとしてのコミュニティを作る上でのヒントを見ていきます。

ネスティングの鍵となるのは、共通の認知発達と興味を介したサブ・コミュニティづくりである。(略)事前に個別の評価を行って認知発達と興味を詳細に把握し、これらにおいて共通項の多いメンバーからなる小集団を形成することによって、構成メンバー全員が十分な理解と興味をもって意欲的に参加できる集団活動のプログラムを遂行することが可能となる。すなわち、ネスティングによって、本人の発達水準や興味に応じた活動が集団の中でも保障しやすくなる。

 

ここでキーワードとなる〝ネスティング″とは、入れ子構造といった意味合いがあり、大きなコミュニティの中に様々なサブ・コミュニティが組み込まれているというイメージを持っています。

例えば、放課後等デイサービスで言えば、放課後等デイサービスにも様々な特色の事業所があります。

例えば、サッカーなど体を使った活動を主としているところ、音楽活動を中心にしているところなど事業所によって特徴が異なります。

また、同じ事業所内でも、カードゲーム・ボードゲームを中心に行う集団、体を使って遊ぶ集団など、大きなコミュニティの中には、サブとなる小さなコミュニティが組み込まれています。

そして、サブ・コミュニティを作っていく視点が、サードプレイスとしての居場所作りにおいても大切なことだと著者は考えています。

実際に、著者が見ている子どもたちの中には、様々な放課後等デイサービスに通所しており、サブとなるコミュニティを複数持っている子どもも多くいますし、また、同じ事業所内で、様々な集団遊びが展開されるなど、同事業所内においてもサブ・コミュニティが徐々に形成されていくことも多くあります。

 

そして、サブ・コミュニティを形成して上で重要なことは、①認知発達、②興味関心といった二つの視点から小集団を作っていくといった視点です。

例えば、理解や言葉の発達がある程度同じレベルの子どもたちの方が、コミュニケーションが円滑に進むことが多くあります。

また、発達障害児は興味関心が非常に限定しているケースも多いため(逆に非常に広い場合もあります)、共通の興味関心を通した繋がりを作っていくこともまた大切だと言えます。

著者の実感としても、①と②の共通項が多い子どもたち程、交流がうまく進んでいくといった印象があります。

そして、サブ・コミュニティを複数持っている子どもの方が、どこかのコミュニティでうまくいかなくなったとしても、複数の柱で支えられているため、自尊心や意欲は保持されることが多いと言えます。

 

 

3.放課後等デイサービスがサードプレイスとなった体験談

それでは、これまで見てきた〝サードプレイス″の価値、そして、〝サードプレイス″としてコミュニティを作る上でのヒントを踏まえて、A君のその後の経過についてお伝えしていきます。

 

著者は、不登校になり放課後等デイサービスでもイライラする様子が増えてきたA君の不安な気持ち、自己評価の低さに対して、次の視点が大切だと考えていました。

それは、大人との信頼関係、次に、活動内での成功体験です。

学校にいけなくなったA君が、家庭以外で信頼できる大人を作っていくことはとても大切だと言えます。

また、信頼できる大人との関係を中心に、他児との交流における成功体験を積み重ねていくことも自尊心を保持する上でとても重要です。

中でも、著者はA君の興味関心を通して、大人との楽しみの共有に加えて、他児との接点を多く作っていくことを意識していきました。

 

その後のA君ですが、様々な他児と興味関心を分かち合う豊富な体験ができたこともあり、活動への動機づけも高まり、以前のようにイライラすることは非常に少なくなっていきました。

活動の幅が広がったことに加えて(サブ・コミュニティの拡大)、大人への信頼感も非常に高まり、情緒も安定していきました。

著者はA君のケースを通して、放課後等デイサービスがサードプレイスとして機能することにとても価値があるのだと学ぶことができました。

 

大切なことは、家庭や学校以外の居場所(サードプレイス)があること、サードプレイスが安心して過ごせる場となっていること、その中で、自尊心や意欲が保たれていることがとても重要です。

 

 

4.まとめ

発達障害児は独力で自ら居場所を作っていく難しさがあります。

その中で、大切になるのが、家庭や学校以外の居場所、つまり、〝サードプレイス″を見つけていくことです。

子どもにとって良い〝サードプレイス″にしていく上で、ネスティングといった複数のサブ・コミュニティを形成していく視点が重要です。

そして、サブ・コミュニティの形成において、認知発達と興味関心の共通性を踏まえた集団形成が必要です。

サブ・コミュニティを複数持っている子どもは社会への適応が高いと言えます。

そして、放課後等デイサービスは、〝サードプレイス″として、重要な居場所になると考えます。

 

 

書籍紹介

今回取り上げた書籍の紹介

  • 藤野博(2023)自閉症のある子どもへの言語・コミュニケーションの指導と支援.明治図書.
  • 本田秀夫(2013)子どもから大人への発達精神医学:自閉症スペクトラム・ADHD・知的障害の基礎と実践.金剛出版.

放課後等デイサービスに関するお勧め書籍紹介

放課後等デイサービスに関するおすすめ本【初級~中級編】

 

 

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