愛着障害への支援方法として〝愛情の器モデル″があります。
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〝愛情の器モデル″によれば、愛着障害の子どもによく見られる〝愛情欲求のエスカレート現象(あれもして欲しい、これもして欲しいなどの際限のない愛情欲求を満たそうとする行為)″への対応として、〝先手支援″による主導権を握ることが必要だと考えられています。
それではなぜ、愛着障害の子どもへの対応として先手支援が必要なのでしょうか?
そこで、今回は、愛着障害の子どもへの対応で必要な先手支援について、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら、主導権を握ることの重要性について理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「米澤好史(2018)やさしくわかる!愛着障害 理解を深め、支援の基本を押さえる.ほんの森出版.」です。
【愛着障害の子どもへの対応で必要な先手支援】主導権を握ることの重要性を通して考える
以下、著書を引用しながら見ていきます。
愛着修復で後手にまわると必ず、その支援は成功しません。それは、こどもが先手を取ると、こころの基盤がない状態で主導権を握りますから、不適切な行動を自分のペースでしてしまい、そのことに自分自身も惑わされて、よけい混乱してしまうからです。
キーパーソンが心がけたいのは、まず、このこどもに愛着という安心できる基盤をつくるために、主導権を一時的に握らざるを得ない、ということです。この主導権は、こどもが気持ちよく主体的に動ける道筋をつくるための主導権であり、自立支援の基盤づくりのためです。
冒頭でも述べた通り、愛着障害の子どもには〝愛情欲求のエスカレート現象″が見られることがあります。
このような場合において、子どものいいなりになってしまうと、子どもの状態はますます悪化していくと考えられています。
そして、この状態こそまさに、主導権が子どもにある状態です。
愛着障害の子どもの中には、相手を支配することで自分の欲求を満たそうとする場合がありますが、そもそも愛情が満たされる基盤となる容器が無いため(愛情の器の欠如)、子どもが主導権を握っている状態ではうまくいきません。
そのため、対応方法としては、著書にあるように、〝先手支援″といったキーパーソン(子どものことを一番よく知っている人)が主導権を握ることが必要になってきます。
キーパーソンが主導権を握り〝先手支援″を行うこということは、例えば、楽しい活動の提案や、活動の中で子どもに〝○○した方がうまくいく・楽しい″と思わせられる対応が取れるといったことを意味します。
キーパーソンが子どもの行動を導いていくことで、子どもはキーパーソンが誘ってくれたことで〝うまくいった・楽しい″といったポジティブな感情の生起、つまり、〝安心基地″を築いていくことができます。
そして、〝安心基地″→〝安全基地″→〝探索基地″を形成していくことは、自立支援の基盤づくりとなっていきます。
間違った対応としては、後手の対応など主導権が子どもにある状態を作り続けてしまうことだと言えます。
著者の経験談
著者はこれまで療育現場で、愛着に問題を抱える子どもたちと少なからず関わってきています。
著者の経験上でも、対応が後手に回ったり、主導権が子どもにある状態を作り続けてしまうと、支援がうまく進捗していかないと実感することが多くあります。
これが常態化していくと、子どもは常に大人を見下したり、命令・支配を通して関わる様子が増えていきます。
しかし、子ども側に主導権がある状態のため、その場では支配できたといった優越感を子どもは得ることができるかもしれませんが(一時的な満足感のみ)、少し時間が経ったり、長期的な目で見ても、状態がよくなることはないと思います。
一方で、特定の支援者とポジティブな関わりが多く経験でき、その中で、支援者が子どもに対して率先して次の行動の提示や、現在の行動を修正する対応をしていくことで、子どもの感情は徐々に満たされていくのだと思います。
こうした対応を実現化していくためにも、キーパーソンを中心とした、日々の活動の体制作りや、活動を通して子どものことを承認する姿勢がとても大切だと思います。
以上、【愛着障害の子どもへの対応で必要な先手支援】主導権を握ることの重要性を通して考えるについて見てきました。
愛着障害への修復・回復には時間を要します。
もちろん、介入の時期が早い方が好ましいのですが、いつからでも愛着障害は改善できると考えられています。
そのためにも、今回見てきたような臨床に根差した愛着障害への支援方法を深く学び、実践していくことが必要なのだと思います。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も療育経験を通して、実践に活用できる愛着障害への支援方法について学びを深めていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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米澤好史(2018)やさしくわかる!愛着障害 理解を深め、支援の基本を押さえる.ほんの森出版.