〝愛着(アタッチメント)″とは、〝特定の養育者との情緒的な絆″のことを指します。
子どもは養育者との愛着関係を基盤として、その後の対人関係を発展させていきます。
子どもが幼い時期には、大人の存在が非常に重要だと言われています。
それでは、幼児期(1歳頃~3歳)には、どのような愛着の特徴があると考えられているのでしょうか?
そこで、今回は、幼児期の愛着の特徴について、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら、〝自己有能感″と〝情動調整″の発達を通して理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「L・アラン・スルーフ・バイロン・イーグランド・ エリザベス・A・カールソン・ W・アンドリュー・コリンズ(著)数井みゆき・工藤 晋平(監修)(2022)人間の発達とアタッチメント 逆境的環境における出生から成人までの30年にわたるミネソタ長期研究.誠信書房.」です。
幼児期の愛着の特徴:〝自己有能感″と〝情動調整″に関する発達
以下、著書を引用しながら見ていきます。
ある子どもたちはトドラー期から成長するなかで、自分には頼れる支援があるという自信の感覚と自己に対する初めての自信の感覚が深まっていく。この「補助つきの自己調整」が起きている時期に柔軟な統制や情動調整を取得してきたので、仲間との出会いや就学前教育というより広い世界へ移行するときや、さまざまな状況で自己管理に対する責任が増えるときでも、この子らはきっとうまくやっていけるだろう。
著書の引用にある〝トドラー期″とは〝幼児期″のことを指します。
そして、著書の内容を踏まえると、〝幼児期″における重要な他者が与える安心感(頼れる支援の存在)は、自己に対する自信(自己有能感)を身につけることに繋がっていくと解釈できます。
さらに、重要な他者によるサポート(補助つき)を得ることで、情動調整の力を身につけることができ、その力が環境に適応する上で非常にうまく機能すると解釈できます。
つまり、〝幼児期″の安定した〝愛着関係″は、〝自己有能感″並びに〝情動調整″の力に寄与し、こうした力が環境に適応していく上でとても大切になってくると言えます。
著者の体験談
著者はこれまで未就学児(幼児期)の子どもたちとの関わりも療育現場を中心に経験する機会がありました。
その中で、今回見てきた〝幼児期″の愛着の特徴として、〝自己有能感″ならびに〝情動調整″はとても大切な視点であると感じています。
著者が療育現場で見てきた子どもたちの中には、愛着関係を築きにくい子どもたちも多くいました。
そして、こうした子どもたちはどこか自分に自信がなく、感情のコントロールが苦手といった印象があります。
これは裏を返すと、安定した愛着関係の形成は、自己の自信と感情のコントロール力を高めることに貢献するのではないか?といった仮説に繋がります。
ここでは、当時、未就学児だったA君を例に見ていきます。
知的障害ありの自閉症の特性があるA君とは、著者が療育現場で2年間担任となり関わる機会のあったお子さんです。
当時のA君は大人と良い関係性を築くことが難しい子どもでした。
著者はA君の興味関心のある遊びを通して少しずつ関わりの量・質を高めていきました。
その過程でスキンシップも徐々に取れるようになり、A君との絆が深まってきているという実感を徐々に持てるようになりました。
A君は著者を中心に周囲の大人たちと良い関係性を築いていく中で、様々な活動に対して意欲的になる様子が増えていきました。
それ以前は、一人遊びが大半を占めており、どこか外の刺激を閉ざしているといった印象がありました。
A君は活動に対して意欲的になっただけではなく、著者と様々な感情の交流を通して、少しずつ自分の感情への折り合いがつけられるようになっていきました。
もちろん、急激な変化ではありませんが、激しい癇癪や他害などが頻繁に見られていた時期を思い起こすと大変な変化であったと言えます。
A君にとって、著者ならびに周囲の大人たちと良い愛着関係を築いていく中で、〝自己有能感″と〝情動調整″の力を高めることができたのではないかと思います。
著者はこの経験を通して、A君から愛着の大切さをはじめとした多くのことを学ぶことができたと感じています。
以上、【幼児期の愛着の特徴】〝自己有能感″と〝情動調整″の発達を通して考えるについて見てきました。
良い愛着関係を身につけていくことは、幼児期においては特に、〝自己有能感″や〝情動調整″に貢献していくことが分かっています。
そして、今回見てきたように著者の経験則からも同様のことが言えるのだと実感しています。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も療育現場で子どもたちと良い関係を築いていけるように、関わり方の工夫や長期の安定した関係性が持つ意味について学びを深めていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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L・アラン・スルーフ・バイロン・イーグランド・ エリザベス・A・カールソン・ W・アンドリュー・コリンズ(著)数井みゆき・工藤 晋平(監修)(2022)人間の発達とアタッチメント 逆境的環境における出生から成人までの30年にわたるミネソタ長期研究.誠信書房.