〝ADHD(注意欠如多動性障害)″とは、不注意、多動性、衝動性を主な特徴とした神経発達障害の一つです。
世間一般の人たちにとって、ADHDの人は〝いつも動き回っている″〝どこか落ち着きがない″など、〝多動性″〝衝動性″のイメージを強く持っているかもしれません。
それでは、逆に、多動性や衝動性がなければADHDではないと言えるでしょうか?
そこで、今回は、多動・落ち着きのなさ=ADHDなのか?について、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「てんねんDr.(2025)子どもの発達障害がよくわかる本 これ1冊で理解もサポートも!SB Creative.」です。
多動・落ち着きのなさ=ADHDなのか?
以下、著書を引用しながら見てきます。
「多動」イコール「ADHD(注意欠如多動症)」ではありません。
発達障害関連の症状はいろいろありますが、ひとつの症状だけで診断されるわけではありません。
著書の内容から、多動・落ち着きのなさ=ADHDだとは言えないと記載されています。
ADHDの子どもには、落ち着きのなさも特徴としてありますが、中には、不注意有意型の子ども(多動衝動性がない)もADHDの中にはいます。
また、多動・落ち着きのなさは、ASD(自閉症スペクトラム障害)の子どもにも見られることがあります。
一方で、多動・落ち着きのなさの背景要因は、ADHDとASDとでは異なると考えられています。
つまり、他の障害がまるでADHDに見られる多動・落ち着きのなさのように見える場合があります。
関連記事:「【ADHDの特徴(のび太型とジャイアン型)について】療育経験を通して考える」
関連記事:「ASDとADHDは似ている?-似ているが行動の背景は異なる-」
著者の経験談
それでは、実際に、多動・落ち着きのなさ=ADHDではないと感じた2つの事例について見ていきます。
1.不注意有意型の事例
不注意有意型のAさんは、忘れ物が多く、また、時間管理が難しい人です。
いつも、どこに物をしまったのかを忘れてしまうことが多いため、物を無くすことが日常茶飯事です。
また、時間管理も苦手なため、計画的に物事を進める作業を苦手としています。
著者がAさんと知り合った当時は、ADHDについてそれほど深い理解をしていませんでした。
当時の理解は、冒頭でも触れた、〝落ち着きのなさ″〝いつもせわしなく動き回っている″といったイメージです。
そのため、比較的物静かな印象があったAさんがADHDだとは想像できませんでした。
その後は、ADHDには、〝不注意有意型″があるということを知り納得がいきました。
2.自閉症児の多動性の事例
著者は療育現場で仕事をしていますが、その中には、ASD(自閉症スペクトラム障害)の子どもたちが多くいます。
ASDの子どもたちの行動を見ていると、〝どこか落ち着きのなさ″を感じる〝場面・状況″があります。
その1つの大きな要因として、〝居場所感″の欠如です。
ASDの子どもたちにとって、安心できる場所・人・ものが不足していると、これまで比較的おとなしかった様子が一変することがあります。
また、〝居場所感″の欠如が続いた状況においては、〝落ち着きのなさ″が持続することがよく見られます。
もちろん、ASDの子どもの中には、ADHDも重複しているケースもありますが、ADHDの症状はなく、ASD単独の症状においても、〝落ち着きのなさ″といった〝多動性″に見間違えてしまう症状が、先の例を踏まえて見ても見られることがあります。
以上、【多動・落ち着きのなさ=ADHDなのか?】療育経験を通して考えるについて見てきました。
ADHDの人たちの中には、比較的おとなしい人もいます。
また、外見から見ておとなしいイメージがあっても、頭の中は忙しい場合もあります。
様々な発達障害は、単一の症状ではなく複合的な症状から成り立っています。
そのため、様々な行動の背景を複合的に理解する視点が、症状の理解において大切だと言えます。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も発達障害への理解を深めていけるように、行動の背景要因に対する理解を深めていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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