ADHD(注意欠如多動症)児が見せる、多動性・衝動性・不注意といった行動に対して、どのような関わりを継続していけば良いかで思い悩んだことはありませんか?
例えば、常に落ち着きがない、順番が待てない、思ったことを口にしてしまう、忘れ物の多さやスケジュール管理の苦手さなどは、ADHDによく見られる行動特徴だと言われています。
こうした行動特徴を頭では理解していても、実際に目にした時に、対応に苦慮したり、関わり手がイライラすることでお互いの関係性が悪化してしまうことは少なからず起こり得ることだと思います。
かつての著者もADHD児が見せる目の前の行動に捉われてしまうことで、注意・叱責が増えてしまい、その結果、支援がうまくいかないことがありました。
今回は、現場経験+理論+書籍の視点から、ADHD児への療育のヒントをお伝えします。
※この記事は、臨床発達心理士として10年以上療育現場に携わり、修士号(教育学・心理学)を有する筆者が執筆しています。
目次
1.ADHD児の困難さに関するエピソード
2.ADHDを理解する理論・書籍
3.支援の経過と結果
4.まとめ
1.ADHD児の困難さに関するエピソード
今回は、ADHDの特徴を持つA君(当時、小学校2年生)の放課後等デイサービスでのエピソードを紹介します。
A君は、よく忘れ物をする、計画的に行動をする難しさ(すぐに注意が逸れてしまう)、おしゃべりが止まらない、どこかいつも落ち着きがないなど、まさにADHDに該当する行動特徴が非常に多く見られていた子どもでした。
さらに、A君は、大人に対する反抗的態度や他児の言動・行動を取り上げて煽るような様子も見られていました。
そのため、他児とのトラブルの火種になることもあり、そのことを大人が注意しても行動の改善が望めないことが多くありました。
さらに、大人によって態度が変わり、厳しい大人以外には、反抗的になることもよくありました。
当時の著者は、ADHDに関しては、不注意・多動性・衝動性の特徴程度しか知らなく、また、二次障害とも言えるA君の行動に対して、どのような関わり方が必要であるのか非常に試行錯誤の状態でした。
2.ADHDを理解する理論・書籍
A君を理解する上で、大切な視点は、ADHDといった発達特性への理解に加えて、二次障害への理解だと言えます。
当時の著者は、ADHDは大人になると軽減・改善していくと思い込んでいたこともあり、ADHDについてそれほど深く学ぶことはありませんでした。
また、ADHDが陥りやすい二次障害についてもほとんど知識がない状態でした。
このような状況に対して、以下の書籍が道を大きく切り開くきっかけになりました!
書籍①「中島美鈴(2018)もしかして、私、大人のADHD?:認知行動療法で「生きづらさ」を解決する.光文社新書.」
書籍②「榊原洋一(2019)最新図解 ADHDの子どもたちをサポートする本.ナツメ社.」
まずは、書籍①についてですが、この本は、大人のADHDについて、実体験・理論・改善策などが非常に分かりやすく当事者の視点も踏まえて記載されています。
この書籍によって、ADHDは大人になっても残り続けるということを深く学ぶことができたと同時に、著者の身近にも思いの他、大人のADHDが多くいるのだという気づきを与えてくれました。
次に、書籍②についてですが、この本ではADHDの概要以外にも、〝ADHDのマーチ″といったADHDの人たちが二次障害に至るまでの過程を描いた図が記載されています。
関連記事:「【ADHDの二次障害について】ADHDのマーチについて著者の経験談も踏まえて考える」
この図を通して、著者が関わる子どもたちの中に、二次障害を有している・あるいはその兆候のある子どもたちが少なからずいることに気づかされました。
さらに、ADHDの最も危険な時期は学童期にあることが他の書籍等に記載されていたことで、先に見たA君が二次障害の可能性(反抗挑戦症の疑い)があることに気付くきっかけとなりました(著者の推測です)。
つまり、できるだけ早期の療育が重要だと理論(書籍)を通して深く理解できたと思います。
それでは、次に、以上の内容を踏まえて、ADHD児対して、どのような関わり方・療育が重要であるかについて見ていきます。
※なお、今回は、二次障害への対応ではなく、ADHD児への対応にフォーカスして話を進めていきたいと思います。
まずは、ADHD児への理解と支援で大変分かりやすく・参考になった書籍③「司馬理英子(2020)最新版 真っ先に読むADHDの本:落ち着きがない、忘れ物が多い、待つのが苦手な子のために.主婦の友社.」を引用しながら見ていきます。
ADHDの治療は、ADHDについて理解し、その子に合った対応を工夫することが第一歩。叱ってばかりをやめ、いいところにしっかりと目を向けるだけで子どもは変わります。
ADHD児への行動は、〝分かっていても止められない行動″だと言えます。
つまり、自己コントロールがうまく働かず、本人の中では良くない、悪いと分かっていても行動の制御が効かずにやってしまっている行動になります。
そのため、ADHD児への支援の基本として、注意・叱責を止めること、そして、子どもに合った関わり方・環境を調整する視点が非常に重要だと言えます。
中でも、注意・責を止める(極力減らす)ということがポイントになります。
なぜなら、本人は自分では良くない・悪いと分かっていることが多く、そうした中で注意・責を受けるとさらに悪循環に陥ってしまうからです。
次に、良い点・頑張っている点などを褒める・評価するということがポイントになります。
つまり、ネガティブ行動は極力相手にしない、ポジティブ行動は即座に褒めるという対応が大切です。
以上の支援の基本を踏まえた上で、次に、書籍②を引用しながら、ADHD児の支援で大切な5つのポイントについて見てきます。
〇ほかの障害の併存・合併がないか、あってもその程度が軽い
〇知的能力・学習能力が標準程度ある
〇自尊感情が保たれている
〇成功体験がある
〇周囲の理解・サポートを得られる
ADHD児には、他の障害が併存・合併しているケースも多くあります。
例えば、ADHD+ASD、ADHD+ID、ADHD+SLDなどです。
他の障害が併存・合併していると状態像もより複雑になるため、他の障害も踏まえての理解・対応が必要になっていきます。
ADHD児は、その行動特徴から、ただでさえ他者から見て注意・責を受けやすい状況に陥りやすいと言えます。
同時に、幼少期から注意・責を受け続けたことによる自尊心・自己肯定感の低下もまた引き起こしやすいと言えます。
そのため、自尊心・自己肯定感を下げずに保持する関わり方がとても大切です。
中でも、成功体験の積み重ねはとても大切な視点になります。
ADHD児が成功体験を積み重ね、自尊心・自己肯定感を保持するためにも、周囲の人たちが、ADHDの特性を理解して様々な配慮・支援をしていくことが必要になります。
以上の観点を踏まえて、著者はいかにして幼少期からADHD児の自尊心・自己肯定感を下げないための関わり方の工夫、環境調整が大切であるかを実感しました。
3.支援の経過と結果
その後、A君に対して、注意・責をする頻度を極力減らしていきながら、小さな頑張りなど、ポジティブな行動を見つけることを徹底していき、ポジティブな行動に対して、少し大げさなくらい褒める関わりをしていきました。
その結果、A君が小学校中学年、さらには高学年になるにつれて、小さな成功体験が積み重なるにつれて、A君はこれまで見せていた反抗的態度はほとんどなくなり、同時に、自尊心・自己肯定感が高まっていく姿が増えていきました。
他者とのトラブルもなくなり、逆にトラブルを回避したり、他者が困っていると助けようする行動すら見られるようになっていきました。
小学校高学年になると、行動自体非常に落ち着いてきて(これまでの多動性・衝動性が嘘だったかのように)、徐々にスケジュール管理もできるようになっていき、忘れ物も減っていきました。
こうした変化は、A君に合った環境調整や関わり方を前提とする一方で、脳の成熟による変化も大きな要因だと感じています。
大切なことは、A君自身のことを信じ認めてくれる他者の存在がいること、そして、ADHDの特性を踏まえた関わりの継続が重要だと感じています。
また、今回は割愛していますが、二次障害への理解・対応も考慮して支援ができた点も良かったと思います。
4.まとめ
ADHDの行動特徴は、大人になっても見られることがよくあります。
中でも、不注意が目立つことはよくあると言われています。
また、ADHDへの理解・対応が不十分であり、注意・責が増えてしまうことで、二次障害のリスクが学童期頃にとても顕著になると言われています。
そのため、ADHD児(者)への特性を理解していきながら、いかに、二次障害の予防のためにも、自尊心・自己肯定感を保つ関わりを継続していくことが重要です。
書籍紹介
今回取り上げた書籍の紹介
- 中島美鈴(2018)もしかして、私、大人のADHD?:認知行動療法で「生きづらさ」を解決する.光文社新書.
- 榊原洋一(2019)最新図解 ADHDの子どもたちをサポートする本.ナツメ社.
- 司馬理英子(2020)最新版 真っ先に読むADHDの本:落ち着きがない、忘れ物が多い、待つのが苦手な子のために.主婦の友社.