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自閉症児の共同注意について:現場での経験を通してその意味を考える

投稿日:2020年4月29日 更新日:

幼い子供が母親が見ている物に視線を向けるなど、ある対象に他者と同じように注意を向ける行動を″共同注意(Joint Attention)”といいます。

共同注意の困難さは自閉症児によく見られます。

 

それでは、自閉症児にはどのような共同注意の困難さがあるのでしょうか?

 

そこで、今回は自閉症児の共同注意に関して臨床発達心理士である著者が様々な文献を読んで学んだ点や、療育現場での実体験からその意味を深堀していこうと思います。

 

※この記事は、臨床発達心理士として10年以上療育現場に携わり、修士号(教育学・心理学)を有する筆者が執筆しています。

 

 

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共同注意について:共同注意の獲得の発達的意味

最初に共同注意について簡単に説明していきます。

共同注意(Joint Attention)は、人‐物‐人という三項関係の中で起こります。

それ以前は、人‐物、人‐人という二項関係の中で、子供は世界や人への認識を深めていきます。

三項関係は生後9か月頃に起こると言われています(9か月革命)。

 

共同注意ができることで、例えば大人が子供に「これはお花だよ!」と言うと、その物の意味や名称を視線や指差しなどの動作、音声を判断材料として子供は理解していきます。

また、子供が動物など新奇な対象を見て近づいても大丈夫かどうかといった判断は、大人の表情を参考にして対象(動物)への理解、状況への理解をしていきます。

これを社会的参照視といいます。

さらに、大人が対象へ向ける感情を子供が見る(感じる)ことで感情理解の発達にも繋がります。

共同注意は子供から大人への働きかけ、例えば、お花を指差して、「あー!」と発生するなど、大人に物の名称などをたずねることで、自分から外界の世界を知っていくことにも繋がります。

 

共同注意は後の心の理論の獲得の土台を作るものとも言われています。

心の理論とは他者の意図や信念などを理解する能力のことをいいます。

心の理論を獲得することで、様々な場面において、他者は○○の状況でどのように意図して動くのか、そして、それをどう感じるのかなどを理解していくことができるようになります。

社会性やコミュニケーション能力の基礎になると言われています。

 

 

自閉症児の共同注意について

自閉症児には、こうした共同注意がうまく取れないことがよく見られます。

幼少期から〝視線の合いにくさ″を感じることが特徴としてあります。

また、物の意味や名称などには興味を示しても、それを大人がどう感じたか、または、自分がどう感じたかなど感情に関するやり取りが少ない傾向があります。

逆に、大人からある対象に働きかけても反応が乏しいことがよくあります。

そのため、心の理論の獲得も遅れることや、独特の発達を示す(定型発達児は異なる他者感情の理解など)ことがあります。

 


それでは、次に、自閉症児の共同注意の困難さについて、著者の療育経験を通して見ていきます。

 

著者の体験談

次に、自閉症児の共同注意に関して著者の療育現場での経験をお伝えします。

 

著者が児童発達支援センターで療育をしている際に、自閉症児Aさんの担任になりました。

何故か著者は自閉症のお子さんが多いクラスの担任になることが多く、そのこともあってか、コミュニケーションや社会性などに関することを考える機会が多かったように思います。

 

Aさんの大人との関係の取り方は独特でした。

例えば、絵本を一緒に見ている、または、読み聞かせをしていると、Aさんは絵本に書いてあるキャラクターの名前を知りたいということが多く、「あれは何というキャラクターなの?」と指差しや発声で、自分が知りたい意図を伝えてきます。

紙芝居でもストーリーというより、その絵に描いてある家や人物、植物など細部に関心を持ちます。

また、他の療育現場で関わりのあった小学生のBさんは、ストーリーのある絵本よりも、様々なキャラクターが書いてあるゲームの攻略本を好んで読みます。

 

こうした自閉症児との関わり中で、彼らは大人の表情を見るということは少ない印象があります。

未就学児や小学生と関わる中で感じたのは、物の理解が深まってくるとストーリーなどにも興味を持つケースが多くあるという印象を受けます。

例えば、Bさんの例でいうと小学校低学年ではキャラクター重視の本を読むことが多かったですが、高学年になるにつれて漫画などよりストーリー性のあるものを読む機会が増えてきたように思います。ストーリーも様々な人物が登場し、そこでいろんな感情が行き交うというようなものは難しく、シンプルで分かりやすいものを手に取って読んでいることが多いです。

こうした変化はおそらく物の理解が深まることで自分なりに世界に対する理解やロジックを見つけているのだと思います。

 

自閉症児は、人に関心がないかというとそうではなく、例えば、著者がAさんやBさんが興味のある内容について聞いたり、そのキャラクターの絵を描いたり、動作で真似る(?)と、彼らは著者に非常に注意・関心を向けることがあります。

もちろん、著者と視線が通じ合うことも増えていきます。

さらに、こうした関わりから、話や遊びが発展することが多くあります。

自閉症児との関係づくりにおいて、共同注意を促すといった意味においても、彼らの興味や関心を把握して働きかけることは非常に重要だと実感しています。

 

 


以上の事例を振り返ってみて改めて感じるのは、自閉症児は人に関心はあるが、関心の持ち方が独特であるということだと思います。

そのため、外界に対しても独特の理解をしているのだと知識や経験を通して強く感じます。

今回は自閉症児への理解を共同注意といったキーワードで見てきましたが、コミュニケーションや社会性の土台には共同注意があり、自閉症児は共同注意の取りにくさから独特の発達を辿るということが言えると思います。

今後も、人が成長していく過程において、その成長には何が作用してその後に繋がるのかという視点(発達的視点)を考え深めていこうと思います。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

 

 


心の理論・共同注意に関するお勧め書籍紹介

関連記事:「心の理論に関するおすすめ本【初級~中級編】

 

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