幼い子供が母親が見ている物に視線を向けるなど、ある対象に他者と同じように注意を向ける行動を共同注意(Joint Attention)といいます。
共同注意の困難さは自閉症児によく見られます。
それでは、自閉症児にはどのような共同注意の困難さがあるのでしょうか?
今回は自閉症児の共同注意に関して私が様々な文献を読んで学んだ点や、療育現場での実体験からその意味を深堀していこうと思います。
共同注意について
最初に共同注意について簡単に私なりの理解を説明していこうと思います。
共同注意(Joint Attention)は、人‐物‐人という三項関係の中で起こります。それ以前は、人‐物、人‐人という二項関係の中で、子供は世界や人への認識を深めていきます。三項関係は生後9か月頃に起こると言われています(9か月革命)。
共同注意ができることで、例えば大人が子供に「これはお花だよ」というとその物の意味や名称を視線や指差しなどの動作、音声を判断材料として子供は理解していきます。
また、子供が動物を見て近づいても大丈夫かどうかは大人の表情を参考にして対象(動物)への理解、状況への理解をしていきます。これを社会的参照視といいます。
さらに、大人が対象へ向ける感情を子供が見ることで感情理解の発達にも繋がります。共同注意は子供から大人への働きかけ、例えば、お花を指差して、「あー」と発生するなど大人に物の名称などをたずねることで自分から外の世界を知っていくことにも繋がります。
共同注意は後の心の理論の獲得の土台を作るものとも言われています。
心の理論とは他者の意図や信念などを理解する能力のことをいいます。
心の理論を獲得することで、様々な場面において他者は○○の状況でどのように意図して動くのか、そしてそれをどう感じるのかなどを理解していくことができるようになります。社会性やコミュニケーション能力の基礎になると言われています。
自閉症児にはこうした共同注意がうまく取れないことがよく見られます。
特徴として物の意味や名称などには興味を示しても、それを大人がどう感じたか、または、自分がどう感じたかなど感情に関するやり取りが少ない傾向があります。
そのため、心の理論の獲得も遅れることや、独特の発達を示すことがあります。
著者の体験談
次に、自閉症児の共同注意に関して私の療育現場での経験をお伝えしていこうと思います。
私が児童発達支援センターで療育をしている際に、自閉症児A君の担任になりました。何故か私は自閉症のお子さんが多いクラス担任になることが多く、そのこともあってかコミュニケーションや社会性などに関することを考える機会が多かったように思います。
A君の大人との関係の取り方は独特であり、例えば、絵本を一緒に見ている、または、読み聞かせをしていると、A君は絵本に書いてあるキャラクターの名前を知りたいということが多く、あれは何というキャラクターなの?と指差しや発声で伝えてきます。
紙芝居でもストーリーというより、その絵に描いてある家や人物、植物など細部に関心を持ちます。また、他の療育現場でのB君はストーリーのある絵本よりも、様々なキャラクターが書いてあるゲームの攻略本を好んで読みます。
こうしたやり取りの中で大人の表情を見るということは少ない印象があります。
未就学児の小学生と関わる中で感じたのは、物の理解が深まってくるとストーリーなどにも興味を持つケースが多くあるという印象を受けます。
例えば、B君の例でいうと小学校低学年ではキャラクター重視の本を読むことが多かったですが、高学年になるにつれて漫画などよりストーリー性のあるものを読む機会が増えてきたように思います。ストーリーも様々な人物が登場し、そこでいろんな感情が行き交うというようなものは難しく、シンプルで分かりやすいものを手に取って読んでいることが多いです。
こうした変化はおそらく物の理解が深まることで自分なりに世界に対する理解やロジックを見つけているのだと感じます。
自閉症児は、人に関心がないかというとそうではなく、例えば、私がA君やB君が興味ある内容について聞いたり、そのキャラクターの絵を描いたり、動作で真似る(?)と彼らは私に非常に注意を向けることがあります。そこらか、話や遊びが発展すること多くあります。そういった意味でも関係づくりにおいて、彼らの興味や関心をつかむということは非常に重要かと思います。
以上の事例を振り返ってみて改めて感じるのは、自閉症児は人に関心があるが、関心の持ち方が独特であるということだと思います。
そのため、外界に対しても独特の理解をしているのだと知識や経験を通して強く感じます。
今回は自閉症児への理解を共同注意といったキーワードで見てきましたが、コミュニケーションや社会性の土台には共同注意があり、自閉症児は共同注意の取りにくさから独特の発達を辿るということが言えると思います。
今後も、人が成長していく過程において、その成長には何が作用してその後に繋がるのかという視点(発達的視点)を考え深めていこうと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございます。