発達支援(療育)の現場で長期にわたって働いていると、現在と過去、そして未来を繋ぐといった視点、つまり、″発達的視点”のもつ重要性を認識することが多くあります。
今見ている子どもたちの現状をどのように把握すればいいのか(現在)
その子がこれまでどのような経験を積み重ねてきたのか(過去)
そして、これからの社会の中でどのように生きていくのか(未来)
以上を総合して考えることが発達支援にはとても大切になります。
″発達的視点”を持つためには、理論・知識と現場の双方の理解が大切です。
それでは、発達的視点が持つ意味を捉えていく上で、理論・知識と現場の双方においてどのような視点が重要となるのでしょうか?
そこで、今回は、発達的視点が持つ意味について、臨床発達心理士である著者の経験談を踏まえて理解を深めていきたいと思います。
発達的視点が持つ意味について:著者の理論・知識からの学びを例に
理論・知識においては、発達心理学からの知見がとても役に立ちます。
発達心理学とは、個体が環境との相互性の中で、そのように変化していくのかを根拠を作りながら体系化していく学問のことです。
有名な心理学者にピアジェがいます。
ピアジェは、ご自身の子どもたちを長期にわたって観察し、また、実験などをすることで、認知の発達段階を体系化した人です。
著者が過去の記事に上げた太田ステージなどもピアジェ理論が土台となっています(詳しくは、「太田ステージから障害児の発達を考える」に記載しています)。
また、環境を重視した心理学者にブロンフェンブレンナーという方がおり、この方は個体が生きる環境を様々な階層に分けることで、個体が生きていくために様々な文脈からの影響を受けているということを体系化した人です。
こうした心理学では古典的と言われる理論は、今でも継承し発展しています。
著者自身も、現場で子どもたちの理解をする際に、認知の発達過程や発達段階、そして、その子どもがどのような家庭や学校、地域や社会、そして、時代を生きているのかということを考えるのに、上記の理論は役立っています。
人は無意識のうちに自分の物の見方で外の世界や他者を理解することが多くあるため、時々、理論や知識を取り入れることにより、自分の考えを別の角度から、そして、客観的に見ることができます。
著者の中で理論や知識を学ぶことの意味はまさにこうして自分の認識を超えること、別の角度から見ることにあり、それは発達支援の現場においても役に立ちます。
発達的視点が持つ意味について:著者の療育経験を例に
現場においても経験から‟発達的視点”を構築していくことは大切です。
著者の経験でよかったものとして、子どもと関わる経験と大人と関わる経験の両方を持てたことです。
例として、対人関係を不得意とする子どもについて見ていきます(仮にAさんとします)。
Aさんはこれまで友人とうまく関わることができずにいました。
こうした困り感の要因として、その一つとして、自閉症などの特性が影響している場合に、これまでの発達歴の情報や現在の家庭環境や学校での過ごしなどの情報が、現在のAさんを理解する上でとても重要になります。
つまり、過去⇔現在における理解です。
さらに、大人の自閉症の人の情報がこれに加わることで、今後に向けて長期的な理解や支援の手がかりを得ることができます。
つまり、未来への理解です。
大人の自閉症者の中には、二次障害になった人も多くいるため、こういった人の過去の体験談などから、何を大切に今後に向けて取り組むべきかなどヒントになる知見を得ることができます。
Aさんにとって重要なのは、これまでの経過を踏まえて現在を理解することです。
そして、今後、二次障害への予防やAさん自身がより良く生きていけるための支援内容を検討すること、つまり、未来への支援になります。
最終的には、過去⇔現在⇔未来を繋いでいくといった〝発達的視点”がAさんの理解と支援を考える上でとても大切だと言えます。
著者の周りには、大人の当事者(発達障害のある人)がたくさんいます。
そういった人の困り感や本人なりに社会に適応するための工夫などを聞くことで、子どもへのより良い理解や支援に繋がるためのヒントを得たということが多くありました。
経験の中で、子どもから大人までの関わりから得られた知見は、身体知として体の内部に蓄積されていきます。それは時に、人の発達を長期にわたって見る視点の理解にも繋がります。
今後も、こうした経験を重ねながらも、それを別の角度や客観的な視点といった理論や知識とも照合しながら、発達的視点の持つ重要性とそれを具体的に応用する力を身につけていきたいと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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