療育現場で発達に躓きのある子どもたちと接していて難しいのは、子どもたちの行動の背景要因や行動動機などです。
例えば、もの投げや癇癪など療育者がその対応に困る行動など、「なぜこうした行動を子どもたちは取っているのか?」といった理解に苦しむことがあります。
特に、発語のない子どもや自分の思いをうまく伝えることが難しい子どもの場合には理解に苦しむ状態が強くなります。
なぜこうした行動の理解に難しさがあるかというと、観察者による理解や解釈の違いもまた一つ大きな理由としてあるかと思います。
そこで、今回は、著者の療育経験を通して、現場で子どもたちを観察する視点として、行動科学と間主観性による客観性の違いについてお伝えします。
今回、参照する資料は「鯨岡峻(2005)エピソード記述入門:実践と質的研究のために.東京大学出版会.」です。
行動科学の客観性とは?
以下、著書を引用します。
行動科学の客観は、研究者と研究対象を切り離すことで保証されるもので、誰がいつどこでやっても再現可能であるという意味での客観である。
つまり、観察者は観察対象と距離を置き(少し離れた位置で観察するなど)、特定の行動や特定の状況などを観察記録として記載し分析する方法です。
例えば、もの投げが起こる状況や頻度など特定の行動に焦点を当てその行動回数や起こりやすい状況などをデータとしてまとめるなどです。
こうしたデータを取ることで、もの投げという行動に対して、どのような状況で起こりやすいのか、どの程度起こっているのか、など客観的なデータを取ることができます。
そして、介入方法として、起こりやすい状況を予防する方法(それを生じさせない環境設定など)を取るなどデータから介入方法を導きだしていきます。
行動科学では、観察者の心情を排除し、行動に焦点を当てることが大きな特徴としてあります。
間主観性による客観性とは?
以下、著書を引用します。
関与観察の「客観」は、研究者が現場に臨み、間主観的に感じるものを提示することで、より多くの読者にその現場を共有してもらうときに成り立つ「客観」である。それゆえ、関与観察の価値は、間主観的に把握されるものをどのように評価するかにかかってくる。
間主観性による客観性とは、観察者が観察対象と距離を置かずに、その現場・場面に自ら入り込み=関与観察、観察者が感じた心情を大切にエピソード的にその状況を記載する方法になります。
例えば、先のもの投げや癇癪場面において、子どもがこうした行動をとった背景には、他児との関わりがうまくいかず徐々にイライラして、その結果起こったという場合があります。
こうした文脈・場面・状況を含め、子どもの心情の変化を観察者の身体性を大切にしながら読み取った(感じた)ことをまとめていく方法になります。
こうしてみると、間主観的な理解のどこに客観性があるのか?と疑問に思うかもしれません。
こうして解釈したエピソードを徐々に整理し、客観性を高めていく方法がエピソード記述として著書の中には記載されています。
著者なりの理解で簡単にお伝えしますと、観察者がくみ取った状況をエピソードとしてまとめ上げていく中で、なぜその場面を取り上げたのかを背景要因も含め精度を上げて整理していき、そうして整理されたエピソードを他者が見ても納得できるまで仕上げることで、より客観性があるものになっていくと考えます。
このように、関主観的理解は、行動科学とは対照的に、観察者自らその場面・状況・文脈に入り込み、観察者が感じた心情を大切してエピソード的にその情報をまとめ上げていくとった特徴があります。
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著者のコメント
著者はこのエピソード記述の方法を読んで、主観から客観に近づける方法もあるということを学ぶことができました。
療育現場では、子どもの行動だけではなく、心情といった思いや気持ちなども大切にして関わる必要があります。
特に、悔しい思いやうまくいかない思いがあると、それを受け止めてくれる大人の存在が必要不可欠です。
逆に、うまくできたとき、何かに挑戦しているときなど、それを共感し、しっかりと見守り応援する大人の存在もまた必要です。
こうした関係性を大切にした子どもの心情の変化は、関わる大人の心情(教育観や発達観なども)もまた大切になります。
そして、こうした関係性の中で子どもが育ち成長するのも事実です。
関連記事:「療育現場で両義性を理解して関わることの大切さについて-子ども「なる」を育てるために-」
行動科学では記載が難しい、より主観的な理解になりますが、療育現場では、こうした心の成長の理解もとても大切になります。
今回は、間主観的な理解に重きを置いてお伝えしてきましたが、行動科学による客観性もまた大切な視点です。
重要なことは、子どもを理解する視点は様々あり、自分がどういったことを理解したいのかによってその方法や視点が変わってくるという理解なのだと思います。
今後も、子どもの成長や発達を捉える視点を学んでいきながら、より良い支援を目指していきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
鯨岡峻(2005)エピソード記述入門:実践と質的研究のために.東京大学出版会.