「〝心の理論″とは、他者の意図、欲求、願望、信念、知識といった心の状態を推論する能力」のことを言います。
心の理論に困難さを持つ人たちの中に自閉症の人たちがいます。
一方で、自閉症児・者の中には、心の理論のテストにも正当できる人も多くおり、また、対人コミュニケーションもある程度はうまく取れることができる人も多くいます。
それでは、自閉症児・者の心の理論には一体どのような特徴があるのでしょうか?
そこで、今回は、自閉症者の心の理論の特徴について、自閉症者はどのように心を理解しているのかについて考えを深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「千住淳(2014)自閉症スペクトラムとは何か-ひとの「関わり」の謎に挑む.ちくま新書.」です。
心の理論を調べる〝誤信念課題″について
心の理論を調べるテストに〝誤信念課題″があります。
〝誤信念課題″とは、〝相手の心を理解する力″を調べる課題であり、定型児では4~5歳頃に課題を通過すると言われています。
一方で、自閉症児においても、少し遅れて課題に通過すると言われています(言語発達年齢が9歳頃)。
しかし、〝誤信念課題″に正当できるようになっても、対人コミュニケーションがスムーズにいくことは難しいと考えられています。
著書の中では、〝誤信念課題″をクリアした成人の自閉症者を対象に、〝心の理論″をどのように解いているのかを調べるテストについての記載があります。
その内容は、〝誤信念″場面の映像を見せて、実験参加者の〝視線の動き″を測定するというものです。
その結果、定型発達成人と自閉症者に違いが見られました(以下、著書引用)。
定型発達成人は、自発的に相手の知っていることや意図していることを読み取り、行動を予測するような視線の動きが見られます。
自閉症成人は、「相手の知識」ではなく、「現実の場面」に基づいて相手の行動を予測するような視線の動きを見せました。
自閉症者の心の理論の特徴について
これまで見てきた〝誤信念″に関する実験結果を踏まえて、次に、自閉症者の心の理論の特徴について見ていきます。
著書の実験結果の内容から、定型発達成人と自閉症成人には、〝視線の動き″に違いが見られています。
つまり、定型発達成人では、相手の〝視線の動き″に注意を向けることで、自発的に相手の心の状態を読み取る傾向があるということです。
一方で、自閉症成人は、相手の〝視線の動き″に注意を向けることは少なく、そのため、自発的に相手の心の状態を理解する様子が少ないということです。
定型発達成人は、日常生活の中で〝自然と″様々な人の視線を追うことで、人の行動の背景の心理を〝自然と″推論している一方で、自閉症者はなかなか人の視線に注意が向きにくく、そのため、人の行動の背景の心理を読み解きにくいといった特徴があります。
サリーとアンの課題など代表的な誤信念課題では、課題にまずは注意を向ける(人の行動に注意を向ける)ものですが、日常生活の中では様々な情報が溢れているため、その中で、人の視線に自然と注意を向けることは定型発達児・者から見ると想像以上に困難なことなのかもしれません。
この点について、引き続き著書を引用しながら見ていきます。
逆に言うと、自閉症を抱えていない「定型発達者」と呼ばれる方々は、これだけ面倒で複雑な「相手の心の状態」に関する計算を、意識したり努力したりすることなく、自然に素早く行っているようなのです。自閉症者における対人コミュニケーションの困難さには、心の理論が素早く自発的に動かないことも影響しているのかもしれません。
著者の身近にも自閉症者の方は多くいます。
こうした人たちの心の理解を見ると、著書にあるように〝自然と″相手の視線の動きに注意を向けることが少ないため、相手の心の状態への理解が困難であるという実感があります。
人の○○に注意を向けて下さいと伝えた状態と、何も伝えていない状態とでは、心の理解に差が生じるように感じます。
定型発達の人たちは、特別意識することなく、〝自然と″人の動き(視線も含め)に注意が向く傾向がありますが、自閉症者には〝自然と″が難しいのだと思います。
そのため、人に〝自然と″注意が向くことが少ないこと、その中でも、人の〝視線の動き″に〝自然と″注意を向けることが少ないことが、心の状態の理解の困難さを生んでいるといったことが考えられます。
もちろん、人への注意が向きにくいということは、それ以外の他のものに注意が向きやすいといった特徴もあります。
そのため、自分が好きな興味の対象に没頭したり、その力を伸ばしていく潜在的な力があるといった長所も考えられます。
心の理論の困難さは、すべてがマイナスに働くというわけではないと思います。
以上、【自閉症者の心の理論の特徴について】自閉症者はどのように心を理解しているのか?について見てきました。
自閉症者の心の理解の仕方は、定型発達者から見ると独特だと言えるかもしれません。
しかし、その独特さは、定型発達者といったマジョリティ側から見た世界の基準です。
自閉症者といったマイノリティ側にもその人が見て感じている独特な世界があります。
それは、心の理解の仕方にも当てはまるのだと思います。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も自閉症児・者の心の理解の特徴について理解を深めていきながら、より良い発達理解と発達支援を目指していきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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千住淳(2014)自閉症スペクトラムとは何か-ひとの「関わり」の謎に挑む.ちくま新書.