〝実行機能″とは、活動をコントロールする能力と定義されています。
別な表現で言えば、〝やり遂げる力″とも言われています。
例えば、私たちは、夏休みの宿題に取り掛かる際に、〝いつまでに(ゴール設定)″〝どのようにして(進め方・計画性)″〝忘れずに(注意の持続)″〝必要な情報を収集して(調べる・聞くなどの知識のアップデート)″などの要素を念頭において宿題に取り組む必要があります。
実行機能は、勉強や仕事、日常生活など様々な所で必要になる力です。
自閉症の人たちの多くは、〝実行機能″に苦手さがあると言われています。
それでは、自閉症の人たちには、どのような実行機能の特徴があるのでしょうか?
そこで、今回は、自閉症の実行機能の特徴について、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら考えを深めていきたいと思います。
自閉症の実行機能の特徴について
冒頭で述べた通り、〝実行機能″とは、活動をコントロールする能力のことを言います。
自閉症の実行機能の特徴として、〝プランの実行″と〝注意の切り替え″の二つが特に苦手な要素としてあると言われています。
〝プランの実行″とは、段取りを立てて実行する力のことを言います。
〝注意の切り替え″とは、切り替える力のことを言います。
関連記事:「【実行機能障害仮説とは何か?】自閉症の特徴について考える」
著者の経験談
それでは、〝プランの実行″と〝注意の切り替え″をキーワードに、著者の療育経験に当てはめながら、自閉症の〝実行機能″の困難さについて見ていきます。
自閉症児のA君は、放課後等デイサービスでの活動においてやりたい遊びが複数あります。
一方で、限られた時間の中で予定を組むことの苦手さがあります。
さらに、細かな点を見ると仮にやりたい遊びが決まっても、その遊びを時間内に終えることが難しいことがあります。
例えば、工作遊びなど、時間内で完成するためには目標となる完成形をイメージしながら、計画を立てて進める必要がありますが、今回の活動で完成が難しければ次回またやるなどの変更・修正が難しいことがあります。
このように〝プランの実行″といった〝段取りを立てて実行する苦手さ″が自閉症の人たちにはよく見られます。
もう一つの〝注意の切り替え″の例を上げると、例えば、工作遊びをやっている際に、何か違う興味のあることに目が行き、今度はそちらに過集中してしまい、最初に計画を立てた工作遊びに注意を再び戻すことが難しくなるなどがあります。
自閉症の人の場合、特定の興味関心に没頭する能力が高いために、他の活動や対象に〝注意を切り替え″ることがとても難しいと感じています。
また、〝注意の切り替え″の苦手さが影響して、遊びをなかなか終えることができないケースもあります。
活動に入る際には、活動内容や終わりの時間など事前に予定を立てて活動に入ります。
もちろん、慣れてくると自分からその日の予定表(ホワイトボードに書いてある)などを見る習慣がついてきます。
さらに、子どもの方から〝今日は○○遊びを30分したいので時間を延長してください″と自ら予定の修正をお願いしてくる子もいます。
一方で、遊びに没頭し切り替えが難しくなると、当初計画していた予定を思い出したり、修正・変更が困難となる場合もあります。
このように、自閉症の実行機能の特徴には、〝プランの実行″や〝注意の切り替え″の苦手さがあるとことは療育現場を通して実感する場面が多くあります。
こうした自閉症児の実行機能の特徴は子どもに限らず大人の方にも同様に見られるのでしょうか?
今回は、仕事を例に考えてみます。
仕事は限られた時間内に様々なタスクを終えることが求められます。
実行機能に苦手さがあると、目標に向けて計画を立てることが難しく、うまく段取りを立てて仕事を進める難しさが出てきます。
また、何か特定のことに注意が向くと、なかなかそれまでやっていた仕事に立ち戻ることが難しく、立ち戻った際には、最初に立てた計画が少しずつくるってしまうことも多く見受けられます。
このように、著者の経験からも自閉症の人の実行機能の困難さは、大人になっても見られるものだと実感しています。
以上、【自閉症の実行機能の特徴について】療育経験を通して考えるについて見てきました。
実行機能の困難さは、自閉症以外にも、ADHDや知的障害の場合にも見られます。
しかし、困難さが生じる背景要因には違いがあると感じています。
そのため、特性に応じた理解をしていくことが必要になってきます。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も実行機能への理解を深めていきながら、様々な発達特性の認知的な背景を理解し、質の高い支援を目指していきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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