発達障害児・者には様々な感覚の問題が見られると言われています。
そのため、発達障害児・者支援に携わる人たちにとって、感覚の問題への理解と対応に関する知識は必須であると言えます。
感覚の問題についてのアプローチ方法として有名なものに〝感覚統合″があります。
それでは、感覚統合とは一体のどのようなものなのでしょうか?
そこで、今回は、感覚統合とは何かについて、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら、感覚統合の目的を通して理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「前田智行(2021)子どもの発達障害と感覚統合のコツがわかる本.ソシム.」です。
感覚統合(療法)とは何か?
以下、著書を引用しながら見ていきます。
人間のすべての発達の土台は「感覚」であり、この感覚のつまずきにアプローチして発達を促すことで、より高度な動作の改善につなげていくのが感覚統合療法です。
著書にある通り、〝感覚統合″とは、感覚のつまずきに対するアプローチ方法の一つであり、感覚統合(療法)を通して、感覚・動作の改善・発達を促進するものだと考えられています。
〝感覚統合″とは、作業療法士のエアーズが考案したものです。
〝感覚統合(療法)″には、人間の様々な感覚についての理解やそれらの統合の視点が多く盛り込まれています。
私たちが普段、なかなか意識することがない〝感覚(前庭感覚や固有感覚など)″についても、分かりやすく解説されています。
〝感覚統合″は、様々な感覚(視覚・聴覚・触覚・固有感覚・前庭感覚など)が徐々に発達・連動していくことで、徐々に身体イメージが統合され、そして、識別機能(ラテラリティの発達など)や抽象思考(自尊心・想像力など)といったより上位の発達に繋がっていくと考えられています。
それでは、感覚の問題へのアプローチ方法として有名な〝感覚統合(療法)″の目的とは一体どのようなものなのでしょうか?
次に、この点について見ていきます。
感覚統合(療法)の目的とは何か?
以下、著書を引用しながら見ていきます。
感覚統合療法の目的は、「その子自身が、自分の力を理解し、世界で生きていくための自立した力を獲得すること」といえるかもしれません。
著書の内容から、〝感覚統合(療法)″の目的は、自分の力を理解していくこと、そして、自立した力を育てていくためだと言えます。
人間には、自分がやりたい様々なことがあります。
例えば、自転車に乗って遠いところに出かけたい!といった子どもが、感覚に問題があるため(バランス感覚など)うまく自転車に乗ることができなかったとしましょう。
その際に、バランス感覚を高めていく練習などを通して、自らの感覚への理解を深めていきながら、さらに高次の感覚の連動を可能にしていくことで、その結果、自転車に乗ることができるようになるかもしれません。
もちろん、やりたいことは個々人おいて異なりますし、また、能力に関しても個人差があるため、個別の理解と対応が必要になります。
大切なことは、様々な感覚を育てていく視点と、様々な感覚の連動を学習していくことが高次の感覚(さらには、識別機能や抽象思考)を育てていくために必要だという発達的な視点だと言えます。
そのため、〝感覚統合″は、自らが外の世界に意欲的に生きていく上での、基盤を形成する視点(下部構造が上部構造を支えるという見方)だとも言えます。
著者のコメント
著者はこれまでそして今も感覚につまずきのある子どもたちと主に療育現場を通して関わりがあります。
子どもたちには、様々な感覚の問題が見られますが、大切なことは、感覚は育てることができる、あるいは、環境調整を通して苦手な感覚への対処法を学ぶことができる、という視点だと感じています。
支援を受けることで苦手とする感覚が発達したり、感覚同士がうまく連動できるようになった子どももいます。
また、苦手とする感覚への対処法を学習していく中でより生活が過ごしやすくなった子どももいます。
そして、感覚を育ていく上で必要なものは、自らの身体を通した経験だと実感しています。
例えば、様々なものに触ったり臭いを嗅いでみる、ボールを投げたり捕ったりしてみる、他者の動作を真似してみる、バランスゲームをしてみる、様々なものを持ったり落としたりしてみる、様々な道具を使用して自分の思い描くものを作成してみる、など、療育では多くの身体経験を行いますが、こうした経験が後々の感覚の発達や統合に繋がっていくのだと思います。
つまり、生の体験こそが、その後の豊かな発達においてとても大切だと言えます。
そして、人の発達をより豊かなものにしていくための感覚を中心としたアプローチ方法が感覚統合だと考えられます。
以上、【感覚統合とは何か?】感覚統合の目的を通して考えるについて見てきました。
感覚統合の理解は実践と理論を往復していくことで徐々に身に付いていくものだと思います。
著者自身、感覚統合については独学で学んでおり、作業療法士というわけでもありませんが、その視点の深さや汎用性はとても療育に役立つと感じています。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も感覚統合についての学びを通して、療育での実践のヒントを見出していきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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前田智行(2021)子どもの発達障害と感覚統合のコツがわかる本.ソシム.