発達障害とは先天性の脳の機能障害が要因となって生じる症状です。
一方で、家庭環境などの養育者との関係性や生活環境(生活リズム等)といった後天的な環境要因が影響し〝発達障害に見える″症状もまた見られることがわかっています。
その中の一つに、〝マルトリートメント″があります。
それでは、マルトリートメントとは一体どのようなものなのでしょうか?
そこで、今回は、マルトリートメントとは何か?について、臨床発達心理士である著者の意見も交えながら理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「友田明美(2017)子どもの脳を傷つける親たち.NHK出版新書.」です。
マルトリートメントとは何か?
以下、著書を引用しながら見ていきます。
強者である大人から、弱者である子どもへの不適切なかかわり方を、「虐待」とは呼ばずに「マルトリートメント(maltreatment)」と呼んでいます。
言葉による脅し、威嚇、罵倒、あるいは無視する、放っておくなどの行為のほか、子どもの前で繰り広げられる激しい夫婦げんかもマルトリートメントと見なします。
子どもに対する大人の不適切なかかわり全般を意味する、より広範な概念と考えればよいでしょう。
著書の内容から、〝マルトリートメント″とは、〝不適切な養育″といった非常に広義な意味で使用されていることがわかります。
〝虐待″と言えば、身体的虐待、性的虐待、ネグレクト、心理的虐待があります。
〝マルトリートメント″とは、こうした〝虐待″の内容では扱いきれない部分も補う意味でも使用されています。
もちろん、〝マルトリートメント″は、広義な意味があるため、多くの親が少なからずやってしまったと感じることもあるはずです。
著書の友田さんでも感じたことがあるとの記載もあります。
ここで大切なことは、〝マルトリートメント″の強度や頻度の増加が、子どもの脳を傷つける可能性があるということです。
著者のコメント
著者は療育現場で仕事をしてきていますが、その中には、〝愛着障害″の子どもたち(おそらくそう思える)もいました。
〝愛着″とは、〝特定の養育者との情緒的な絆″のことを意味します。
つまり、〝愛着障害″とは、特定の養育者との関係をうまく築くことができなかったことが影響して、対人関係上の困難さが症状として見られる場合を言います。
そして、定義上〝愛着障害″もまた〝マルトリートメント″に該当すると思いますが、このケースが〝発達障害に見えてしまう″ことが実際よくあると感じています。
うまく愛情を注いでもらうことができずにいた子どもの中には、他者に対して心を閉ざしてしまい、一人の世界に没入する様子があります。
この様子は、自閉症の特徴と似ている部分がありますが、背景は全く異なります。
また、愛情を注いでもらうことができずにいた子どもの中には、どこか落ち着きがなく、じっとしていられないなどの多動・衝動性の様子が見られる場合もあります。
この様子は、ADHDの特徴と似ている部分がありますが、これもまた背景は全く異なります。
もちろん、発達障害といった一次要因があり、その次に、愛着障害が二次的に生じているケースもあるなど、療育現場では様々な子どもたちがいます。
もちろん、すべての家庭での養育者と子どもの関係をしっかりと調べているわけではないので、著者の仮説も含まれています。
ここで大切なことは、〝マルトリートメント″の可能性を想定して対応しないと支援の効果が得られない子どもたちもいるということです。
子どもたち状況(環境要因)を調べていく中で、〝マルトリートメント″といった〝不適切な養育″が問題行動を引き起こしていた場合には、支援のポイントは環境要因(人への安全・安心を整える)へのアプローチが重要になります。
発達障害も見られる場合には、〝マルトリートメント″への対応に加え、発達特性の理解と対応も必要になってきます。
このように、問題や困り感の背景要因がズレてしまうと、支援がうまく進んでいかずに負のループにハマってしまうことがあります。
著者もこのような経験をこれまで多くしてきているため、背景要因を分析する力をつけていくことがとても大切だと感じています。
以上、【マルトリートメントとは何か?】発達障害児支援の現場を通して考えるについて見てきました。
〝マルトリートメント″といった言葉はあまり聞きなれない方もいたかと思います。
一方で、〝マルトリートメント″の内容を少しずつ紐解いていくことで、いかに私たち大人が子どもに与える影響が大きいといったことが理解できると思います。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も療育現場で関わる子どもたちの成長・発達に貢献していけるように、子どもたちの困り事や課題などを分析する目を養っていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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