ADHD(注意欠如多動症)とは、不注意・多動性・衝動性を主な特徴とした発達障害です。
中でも、不注意優位型、多動性・衝動性優位型、両者の特徴を併せ持つ混合型があります。
ADHDの人たちは、一般的には大人になるにしたがい、多動性・衝動性は目立たなくなると言われています。
一方で、スケジュール管理の苦手さや物忘れ、ケアレスミス、整理整頓の難しさなど不注意の特徴は残ると言われています。
それでは、ADHD児との関わりの中でどのような点を大切にすることが予後にポジティブな影響を与えるものとなるのでしょうか?
そこで、今回は、ADHD児の支援で大切な5つのことについて、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら考えを深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「榊原洋一(2019)最新図解 ADHDの子どもたちをサポートする本.ナツメ社.」です。
ADHD児の支援で大切な5つのこと
著書の中には次の5つの点がADHDの人の予後を左右するポイントだと記載されています。
以下、著書を引用します。
〇ほかの障害の併存・合併がないか、あってもその程度が軽い
〇知的能力・学習能力が標準程度ある
〇自尊感情が保たれている
〇成功体験がある
〇周囲の理解・サポートを得られる
それでは次に、以上の5つについて著者の経験談も合わせてお伝えします。
〇ほかの障害の併存・合併がないか、あってもその程度が軽い
ほかの障害の併存とは、例えば、ASD(自閉症)やID(知的障害)、LD(学習障害)、DCD(発達性協調運動障害)などです。
発達障害のある人たちは、一つの障害特性以外にも他の障害特性を併存している割合が高いと言われています。
そのため、生活の中で、どのような特性により困り感が生じているのかを見ていき、特性に応じた配慮をしていく必要があります。
著者もこれまでの療育経験から、ADHD児と診断された子どものたちの中には、ASDの特性もあるのではないか?と感じる子どもたちが多くいました。
そのため、例え診断を受けていなくても、一つの発達特性のみに捉われるのではなく、様々な発達特性への理解も必須であると感じています。
合併症とは、二次障害のことですが、ADHD児には、反抗挑戦症や不安障害が合併する割合が高いと言われています。
著者が見ている子どもたちの中にも、大人への挑発的な言動・行動が見られる子ども、また、様々なことに不安感を持っている子どももおります。
そのため、先の併存に加え、合併の有無の確認と支援がとても大切だと感じています。
二次障害が生じているケースはもともとの発達特性が見え隠れしてしまうこともあります。特性理解や配慮の視点に加え、心理的対応も必要であるため、より高い専門性が大切だと感じています。
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〇知的能力・学習能力が標準程度ある
先ほどのほかの障害との併存でも述べましたが、ADHD児がID(知的障害)やLD(学習障害)を併存している場合もあります。
この場合、学業の遅れが生じる可能性が出ることから、予後の学業や進路などに影響がでることが想定されます。
そのため、知的障害や学習障害などはないかを理解してきながら、対応・関わり方を工夫していく必要があります。
著者は放課後等デイサービスで勤務しているため、なかなか直接的に学習場面を見ることはありませんが、保護者の方、そして、学校の先生から学習面でのうまく行かなさが上がってくることがあります。
そのため、学校や家庭での過ごしを知るために、そして、その子に合った予後を想定するために学習面への理解も大切にしています。
〇自尊感情が保たれている
自分への肯定的な感情を自尊感情と言います。
自尊感情が高いことは、大人や友人関係、学習場面などにおいて適応的な場合が多いことが背景要因として考えられます。
それは、例え苦手さがあっても、周囲がその子の苦手さを理解して対応しており、そして、良い点をしっかりと評価しているからだと思います。
こうした自尊感情が高い子どもは、二次障害のリスクも減り、何かを学ぼう・挑戦しようという行動動機のエネルギーがあるように思います。
著者は自尊感情が低くなりがちなADHD児に対して、自尊感情を高める関わり方はとても大切だと感じています。
ADHD児は、特性から他児トラブルやうっかりミスなどの頻度が多くなり、どうしても褒められる・認められるという経験が少なくなってしまいます。
そのため、周囲との比較ではなく、その子の頑張りや頑張ってきた過程を褒める・認めるなどの対応を試みています。
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〇成功体験がある
何か自分の取り組みが周囲から褒めらる・自分自身で達成感を抱くといった成功体験はとても大切です。
先の、自尊感情とも関連が深いものだと考えられます。
つまり、成功体験がしっかりと積み重なっていくことで、自分自身を肯定的に見るという自尊感情が高まるという図式は多くの人が想像できると思います。
著者の療育経験には、これまで友人関係での成功体験が少なかった子どもが、関わりの中で成功体験を重ねていくことで、自分に対して自信が持てるようになったというケースもあります。
こうしたお子さんを見ていると、生き生きしている姿が多く、新しい物事に挑戦しようという姿も見られるように思います。
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〇周囲の理解・サポートを得られる
発達特性があると物事に躓きやすい場面が多くなります。
この際に、自ら相談する力、理解を求めようとする力がとても大切になります。
仮に、子どものうちは周囲が自然と特性への配慮をしてくれた環境にいたとしても、大人になるにつれて、自分で苦手さを理解し、それを周囲に伝える力が必要になります。
そのために、子どもの頃から、周囲と相談して理解が得られた、周囲と相談してうまくいったという経験がとても大切になります。
著者の療育現場では、子どもが大人と相談することで、利点があった、物事が解決の方向へと進んだという実感を持ってもらえるように特性に配慮した対応を心掛けています。
例えば、順番を待てない子どもは、周囲の協力を得ながら優先的に早い順番から始め、少しずつ待てるように時間を延ばすなどがあります。
以上、ADHD児の支援で大切な5つのこと【療育経験を通して考える】について見てきました。
子どもの頃の経験値は大きくその後の人生に影響していきます。
そのため、少しでも予後をよくするための支援として、今回、著書を参照しながら5つのポイントを見てきました。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も子どものたちの将来を見据えた関わり・支援を行っていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
榊原洋一(2019)最新図解 ADHDの子どもたちをサポートする本.ナツメ社.