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ADHD 衝動性

ADHDの衝動性への理解と支援について考える

投稿日:2020年5月13日 更新日:

順番を待てない、自分が思ったことをすぐに口に出す、せっかち、物事をじっくり考えることが苦手、他児のじゃまをする、今楽しいことをやりたいといった特徴は、ADHDの特性の衝動性であると考えられています。

私の現場でもこのようなタイプのお子さんたちがおり、よく他児との間でトラブルを起こします。しかし、どのようにその状態を理解すべきか?どのように対応すべき?など判断に困ることが多くあります。同じような職場の職員や保護者の方などもこうした行動に日々苦労されているかと思います。

今回は、ADHDの特性の衝動性に焦点を当て、その行動特性の背景を考えながら、支援方法について考えていきたいと思います。また、私の経験からのコメントも併せてお伝えしていこうと思います。

今回参考にする資料は、米澤好史著「「愛情の器」モデルに基づく愛着修復プログラム」です。

タイトルから愛着についての本であると思われるかもしれませんが、愛着を考える上で、ASDやADHDなどの知識も必要であり、また、他の障害との違いや混合したタイプのケースなどについても書かれており、非常に実践的な見地から書かれております。

 

衝動性と実行機能について

それでは、最初に衝動性実行機能などの言葉の説明から入ります。

衝動性とは、実行機能(Executive Function)の弱さであり、深く考えずに、その場しのぎの行動をしてしまうことを指します。

実行機能とは、計画を立て、その計画通りに集中することの維持、別の刺激に飛びつくことを抑制するプロセスに関わっている高次の脳機能のことを言います。

衝動性のある人は実行機能の弱さから、自分でやってしまった行為に気づいたり振り返ったりすることが苦手です。ですので、実行機能に修正が加えられないと行動の改善が難しいとされています。同じミスや失敗を繰り返してしてしまうことになります。さらに、大人や周囲がそうした行動を叱責するとより行動がエスカレートしたり、関係性の面でも悪循環に陥ることもあります。

 

支援方法について

支援方法として、①すぐに報酬を与えるという方法(言葉などで)②振り返りのスコープ設定支援などがあります。

①すぐに報酬を与えるという方法は、ADHDの人の特性でもある報酬遅延の課題への対応となります。つまり、ADHDの人はすぐに報酬を好む傾向があり、じっくり長期的なスパンで何かを取り組むのを苦手としています。ですので、長期的に何かを取り組む際にも、何かすぐに達成感が得られる報酬を必要とします。

現場での対応として、子供の行動をすぐに褒めるということが重要になります。例えば、「○○と○○が終わったらやりたい遊びができるよ」ではなく、「準備ができたら褒める」、「片付けができたら褒める」など、一つ一つの過程を褒めるということが重要になります。こうした即時強化(褒める)と一緒に、「何のために」の目的支援と「どのように」の手段支援を付加すると成功しやすいと考えられています。

他にも、集団の中で普段は集団から外れた行動(椅子に座らないなど)をとっていた子供が、集団に合わせた行動(椅子に座るなど)をとった時に「座っているね!すばらしい!」などと、その行動をすぐに褒めることが大切になります。こうした地道な取り組みが重要であり、望ましい行動が強化され増えてくることで、相対的な問題行動への頻度が低下していくという支援効果が期待できます。

②振り返りのスコープ設定支援とは、実行機能といった自分の行動を振り返り反省することを苦手としている人に活用できる方法です。具体的な支援内容として、実際の行動を細分化し、行動単位で区切る支援を言います。

例えば、「最初、ここにいた時、何してた?」、「棒をもって人に向けて振り回していたよね?」などと区切って聞き(できれば具体物をもった方が記憶を引き出すのに有効)振り返りをしていきます。そして、振り返りながら「次は○○していこう」などと、細かい行動単位ごとに、その都度、すぐに振り返り・即時強化することが大切になります。また、大人と一緒に振り返ることで、大人との人間関係の構築にも効果があるとされています。

やってはいけない振り返りの対応として、「今、何やったの?全部言ってみて?」などアバウトな指示では振り返りが苦手な子供には効果が全くないということです。大切なことは行動の細分化や具体性です。

 

著者のコメント

ここまでの衝動性について理解と支援方法について概説してきました。

最後に私の療育現場での経験から個人的な意見や課題などをお伝えしていきます。

私自身も現場でこうした子供への対応の難しさを感じながら試行錯誤を繰り返しています。衝動性の特性があるお子さんは、確かに、考える前にやってしまう、そして、自分の行動を振り返る力が弱いなどの特徴があるかと思います。

ですので、今の療育現場でもできた行動をしっかりと褒める、そして、改善点を振り返るなどの対応をしています。取り組みの効果は短期ではそれほど感じませんが、長期で見ると非常に変わったと感じるケースもあります。

衝動性などの行動に対して、叱責や過度な注意は一時的な効果があるかもしれませんが、大人との信頼関係の上でデメリットが多いと思います。例えば、厳しく注意する人の言うことは聞くようになっても、その人がいない、見ていな場所では効果がないのであれば、やはりその子の成長にとってプラスに働いたと解釈するのは難しいかと思います。人によって態度を変えるのは、自分の行動がしっかりと内省でき、悪い所を修正する力が育まれたというのは難しいのではないかと思います。また、職員間での支援の格差が生まれ、よいチームではなくなる可能性もあるかと思います。

私の中で大切にしていることは、衝動性への知識を他の職員と深め、共有していいきながら支援策を考えること、そして、長期的な視座に立った継続した取り組みだと思っています。行動特性の理解を、現場の子供の行動を観察していきながら、知識も併せて分析していくことが深い理解に繋がると思います。そして、一人では支援が難しいということからチームでしっかりと情報を共有することが重要だと思います。

課題としては、対応する職員の負担が限定される場合があるということ、そして、効果がなかなか見えにくい行動改善に向けて、どうやってモチベーションを維持し長期的な展望を描いていけるかだと思っています。こうした課題に対しては、また別の記事で内容を深堀していきたいと思います。

今後も一見問題だとされている行動に対して、どう理解し、どう支援していけばいいのか、他の職員と力を合わせ、どん欲に知識を吸収していきながら課題解決を探っていきたいと思います。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

米澤好史(2015)発達障害・愛着障害:現場で正しくこどもを理解し、こどもに合った支援をする:「愛情の器」モデルに基づく愛着修復プログラム

-ADHD, 衝動性

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