ADHDと知的障害はよく併存するということが知られています。
一方で、両者の行動の背景は異なるため、療育現場で特性を理解して対応していくためには、ADHDと知的障害の違いを理解していくことは重要だと感じます。
つまり、知的障害にもADHDと同様に、落ち着きのなさや衝動性などが見られることがありますが、行動に至る背景は異なります。
併存している可能性もありますが、両者の違いを事前に理解しておくことで、より良い発達理解と発達支援に繋がると考えます。
それでは、ADHDと知的障害にはどのような違いがあるのでしょうか?
そこで、今回は、ADHDと知的障害の違いについて、医学的見地からの視点を借りながら両者の違いについて考えを深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「ADHDの診断・治療指針に関する研究会・齋藤万比古(編)(2003)注意欠如・多動症-ADHD-の診断・治療ガイドライン第4版.じほう.」です。
ADHDと知的障害の違い【医学的見地から考える】
著書の中では、ADHDの不注意、多動性、衝動性の3つの特性が知的障害ではどのように見られるのかについての説明があります。
それでは、以下、それぞれについて説明していきます。
1.「不注意」から見た違い
【ADHDの場合】
- 本人にとって嫌いな活動には注意の持続が難しい反面、好きな活動・楽な活動であれば注意を保持できます。
- 興味の転導性(注意散漫な様子)が見られます。
- 人からの話しかけに対して、聞いていないように見え、「わからない」といった応答が目立ちます。
- 人からの指示に対して、最後まで集中して取り組めないことがよくあります。
【知的障害の場合】
- 活動内容(好き・嫌いなど)に関わらず、注意の持続が難しいとされています。
- ADHD同様に興味の転導性が見られます。
- 人からの話しかけに対して、曖昧な応答やわかっているような応答を示すも、実際にはわかっていないことがあります。
- 人からの指示に対して、理解できたものに対しては最後まで集中してやり続ける行動がよく見られます。
2.「多動性」から見た違い
【ADHDの場合】
- 手足を動かすなどの落ち着きのなさがよく見られます。学校では、教室の席から離れたり、教室内外を走り回ることがよく見られます。
- 遊びでは、本人の意思と関係なく(本来はじっとしていたくても)、じっとすることができない、静かに遊べないなどの行動が見られます。
【知的障害の場合】
- ADHD同様に手足を動かすなどの落ち着きのなさがよく見られます。ADHDと比べると、行動の範囲が狭く、その場で立ち止まったり、固まる行動が多く見られます。ケースによっては、教室を飛び出してしまうこともあります。
- 状況理解が難しいときに落ち着きが難しくなる様子がよく見られます。
3.「衝動性」から見た違い
【ADHDの場合】
- 順番を待てない行動が見られます。
- 人の話を遮って話し出すなどがよく見られます。
【知的障害の場合】
- ADHD同様に、順番を待てない行動が見られます。
- ADHD同様に、衝動性は見られるも、ADHDとは異なり、常に見られるものではなく、本人にとって状況理解の難しさが要因となっていることが多くあります。
以上、ADHDと知的障害の違い【医学的見地から考える】について見てきました。
こうして考えてみると、両者には似ているところもありますが、その背景は異なるということもまた見えてくるように思います。
ADHDが本来の特性からくる不注意・多動性・衝動性に対して、、知的障害は、理解の難しさといった認知能力が影響して、不注意・多動性・衝動性と似たような行動をとっている(そのように周囲から見える)ことが考えられます。
そのため、ADHDには本来の三つの特性への理解と配慮、そして、知的障害には、本人にとってわかりやすい環境を整えていくことが大切なのだと思います。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後もより良い発達理解と発達支援に向けて、様々な発達特性について実践を伴いながら理解していきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
関連記事:「ASDとADHDの違いについて【医学的見地から考える】」
ADHDの診断・治療指針に関する研究会・齋藤万比古(編)(2003)注意欠如・多動症-ADHD-の診断・治療ガイドライン第4版.じほう.