ADHD(注意欠如多動症)とは、不注意・多動性・衝動性の3つを主な特徴とする発達障害です。
不注意が目立つ場合には、「不注意優勢型」、多動性・衝動性が目立つ場合には、「多動・衝動優勢型」、両方の特徴が目立つ場合には、「混合型」と言われます。
ADHDの症状が発症する原因については、様々な仮説があります。
それでは、ADHDの症状はどのような原因によって発症すると考えられているのでしょうか?
そこで、今回は、ADHDの症状が発症する原因について、最新の研究知見としてのDMN障害仮説を通して理解を深めていきます。
今回参照する資料は「岩波明(監修)小野和哉・林寧哲・柏涼ほか(2020)おとなの発達障害 診断・治療・支援の最前線.光文社新書.」です。
ADHDの症状の原因:「三重経路モデル」
以前は、ADHDの原因(症状)を説明するものとして、「三重経路モデル」がありました。
三重経路モデル(triple pathway model)とは、抑制制御の障害(Inhibitory)、報酬遅延の障害(Delay aversion)、時間処理の障害(Temporal processing)といったADHDの3つの特性を説明した仮説です。
抑制制御の障害は、実行機能の障害と言い換えることもできます。
- 抑制制御の障害:これは集中すべきことがあるのに、他に注意がそれてしまうなどの障害
- 報酬遅延の障害:これはすぐに手に入る報酬を好む特性のこと
- 時間処理の障害:これは時間の経過を感覚的につかむ能力に関わる障害のこと
以上、3つが「三重経路モデル」といったADHDの特性を説明したモデルです。
関連記事:「【なぜADHDの症状が起こるのか?】ADHDの原因について三重経路モデルを通して考える」
ADHDの症状の原因:「DMN障害仮説」
最近の研究では、こうした3つの特徴がバラバラに存在しており、どれにも該当しないADHDの方も多くいたという結果が出ました。
このことから、ADHDは共通する主要な障害を持たないという可能性が出てきました。
つまり、ADHDとは、多様な障害から成る不均一な疾患かもしれないということです。
こうした知見を踏まえて、ADHDとは広い範囲に及ぶ脳の神経ネットワークの機能障害によるものではないかと考えられるようになりました。
そして、出てきたのが「デフォルト・モード・ネットワーク(Default Mode Network=DMN)障害仮説」です。
DMNとは、安静にしているときに活発に活動する脳の領域のことを言います。
それでは、このDMNとADHDにはどのような関連があるのでしょうか?
ADHDでは、DMNの接続を停止して目的活動に集中する切り替え(スイッチング)が困難です。
そのために、課題に集中できずに、他のことを考えてしまったりします。課題に興味がないと、さらに切り替えが困難になります。
この仮説を補強するために、探索されたのが、DMNと脳の成熟過程の遅れの関連です。
ADHDには、以前から脳の成熟過程に遅れがあると言われています。
さらに、ADHDでは、DMNとTPNs(Task-Positive Networks)の相関関係の形成にも明らかな遅れが見られます。
TPNsとは、実行機能のことで、ある課題に取り組んでいるときに活性化する脳の領域のことを言います。
一方、DMNは安静時に活性化する脳の領域であるため、通常、どちらか一方が活性化するともう一方が不活性化する、すなわち、通常は負の相関関係があるのですが、ADHDでは、この相関関係の形成が遅れます。
これまでをまとめると、以前の「三重経路モデル」といった脳機能の障害仮説から、神経ネットワーク機能の障害仮説へと進み、脳の成熟過程の遅れが、神経ネットワーク構築に関係していることもわかってきました。
そして、脳の領域同士の機能的なつながりの改善が、症状の改善におそらく関係していることまでわかってきています。
以上、【ADHDの症状が発症する原因について】DMN障害仮説を通して考えるについて見てきました。
今後もさらに、研究が進みADHDの症状の理解が進むことを期待したいと思います。
私自身、療育の現場などでこうした知見を踏まえて、ADHDについての理解を深めていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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岩波明(監修)小野和哉・林寧哲・柏涼ほか(2020)おとなの発達障害 診断・治療・支援の最前線.光文社新書.